33 自然なこと 【33-1】

33 自然なこと



『品川ナンバー』



私のアパートの横で、何度か見かけたあの車。

今度は、実家のそばに止まっていた。

『何かされてからでは遅い』と言った、本田さんの言葉が頭に戻ってきて。

予想外の出来事と、どこかから押し寄せる恐怖心に動けなくなっていると、

その私の態度をあざ笑うかのように、車はUターンし横をすり抜けていった。



どうしてここにいたのだろう。

もちろん、路上駐車などの迷惑行為は、このあたりにもあることはあるが、

車のナンバーを覚えていたからこそ、震えが止まらない。

アパートの横と、実家の横。そうなると、ただ偶然ではない。



ターゲットは私……なのだろうか。



「ただいま」

「お帰り」


母にはあらかじめ帰ると言っておいたため、普通に出迎えられる。

そして……


「お帰り、お姉ちゃん」

「……朋花」

「はい、朋花ですよ、あなたのかわいい妹の」


私の帰宅を知った朋花が、みち君に許可をもらい、何度目かの里帰りをしていた。



「でね、みちがさぁ……」

「朋花、旦那様だろ、いい加減みちと呼ぶのは辞めないと」

「エ……そう? 別にいいと思うけど」


みち君との新婚生活を楽しそうに語る朋花の横でお茶を飲みながら、

私の頭はあの車でいっぱいになっていた。

今までアパートにも実家にも、停まっていた記憶のない車が、

急に私の周りで動き出した。

それも毎回、横を通るか通らないかのタイミングで、走り出してしまう。

『何かされたわけではない』と本田さんには言ったけれど、

実際、何かされてからでは遅いのは確かで。



平野さん……



私の身の回りで、何か特別なことが起きたのかと聞かれたら、

平野さんとの関わりくらいしかない。

テレビドラマとかでよくある、財閥の息子とそこら辺にいる女性の恋。

お金持ちの一族は、そんな女との付き合いなど、認めないと言い出して……



なんだかんだと邪魔を……



「お姉ちゃん」

「……ん?」

「ん? じゃないよ、どうしたの、ボーッとして」


朋花が、手を私の顔の前で振っている。


「そうよ結花、熱があるとかかもよ」

「あ、ないない、大丈夫だから」


いけない、完全に気持ちが……

確かにボーッとしていたのだろう。朋花と母の会話が、全く入っていないし。


「でもごめん、確かに少し疲れているかもしれない。今日は早く寝るね」


この場にいるのはよくない。逆に心配ばかりかけてしまう。

とりあえず今日はしっかり眠ろう。

私はそう思いながら、2階への階段を上がり始めた。



ベッドに横になりながら、携帯を見る。

『STEM』は日本でも有名な製薬会社で、平野さんは会長の孫。

お父さんは婿の立場で社長になったが、権力争いがあり、

現在は平野さんにとって、大叔父の血縁者が会社のトップに立っている。

でも、バレーボールという競技で、学生時代から期待をされ、

そしてその期待に応えた平野さんは、『スーパーエース』の地位にのぼり詰めた。

『会長の孫』が入社したというより、

『会長の孫だけれど、世の中に名前が知られた人』が入ったことで、

今までなかった波風が立つかもしれないという話題は、松尾さんの話の中にもあった。

会社、家族、親戚、そういうしがらみの中でもがいてきた平野さんのお母さんは、

もうすでにこの世にいなくて……


「はぁ……」


『品川ナンバー』の車。その番号も、しっかり記憶している。

また、そばに来るようなことがあったら、やはり警察に相談した方がいいのかも。

私は携帯を横に置き、しばらく天井を見続けた。





「で、意外に安いのよ、これが」

「へぇ……便利だね、近所にそういうお店があると」

「うん。今結構広がっているらしい」


次の日は土曜日、今日は娘二人に献立を任せて欲しいとお願いし、

私と朋花が揃って買い物に出た。

仕事が終わったらみち君もこちらに来るということで、

それならばお鍋にしようと具材を買い込み、エコバッグに詰めてそれぞれ肩にかける。

朋花とみち君が住むアパート近くにある、安売りのお店の話をしていると、

あっという間に家が近くなってくる。


「大きなものを買った方が得でしょう。だからみちにいつも、お米を持たせるの」

「持たせる? みち君って車持っていなかった?」


お米の袋を持って歩くのは、結構大変だろう。


「車は持っていないよ。今はいらないもの。駐車場とか車検とか保険とか考えたら、
どうしてもの時にはレンタカーあるし」

「あ、そうか」


確かに、普段共働きで家にはいないし、交通網が発達している場所なら、

それでいいかも……



また……あの車が……



「どうしたの、お姉ちゃん」

「ん? ううん……」


ダメだ。今気にしていたら朋花が心配する。

そうだ、警察に話す前に、今日の夜にでも平野さんにラインをしてみよう。

車のナンバーを教えて、どう思うか聞いて。

平野さん自身に、直接関係ないかもしれないけれど、他に考えられないし。


「ねぇ、もう少し白菜買えばよかったかな……」

「でも、キャベツでもいけるって書いてあったよ」


そう、知らない振りをして、とにかく車の横を通ればきっと、

今までと同じようにまた走り出すはず。


そう思っていたのに、私が横を通る少し前に、いきなり運転席の扉が開いた。


【33-2】



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