33 自然なこと 【33-3】



『隆一さんから連絡が来た、迷惑をかけて申し訳ない』



私が報告する前に、生沢さんの息子さん、隆一さんが先に平野さんへ連絡を入れていた。

私と朋花の驚いた顔を見て、報告した方がいいと思われたのだろう。

どういう間柄で、こうなっているのか、

細かい説明は、平野さんが日本に帰ってきてからしてくれるようだ。



『私こそ、不審車だと思ってじっと見たりしていたから、謝らないと』



そう、何か起こるかもしれないと、いつも険しい顔をしながら歩いていた。

最初から誰なのかわかっていたら、もちろん態度も変えられたけれど。



『昔から、うちの家族の心配ばかりしてくれる人達だから』



平野さんの返しを見ながら、私の顔は自然と笑みが浮かんだ。

平野さんは、『バーズ』にいるときも、

特定の人と輪を作ったりすることはなかった。

あの松尾さんでさえ、個人の話をしないと、平野さんを分析していたから、

だから、常に一人でいることに慣れている人だろうと勝手に思っていたけれど、

あんなふうに心配してくれる人達が周りにいる。

それだけでも気持ちが楽になった。



『『オルカーズ』から、おそらく数名が入ると思う。聞いている?』



『オルカーズ』のこと。

どうして平野さんが知っているのだろう。

いや、だって、松尾さんから黙っていてと言われているから、

いくら平野さんとはいえ、チームのことを……



ここで認めていいのかな。



『オルカーズのトレーナーは、俺が体を見てもらっていたことがある人で、
情報も入っていたからね。若松さんと松尾さんと、『スウェーデン』に行く前、
話をしているから、隠そうとしなくてもいいよ』



若松監督……



『若松さんが、うちの選手達が契約的に不利になるようなことがないように、
今、動いている。だから、広報はしっかりと構えていて……』



私たちには見えない部分で、選手達のために動いている人がいる。

平野さんもその一人。

遠く離れた場所にいる人と、こうしてつながっている。

伝えたいことは文字にすれば、向こうに届く。



私の『伝えたい思い』



指が自然と文字を打っていた。



『会いたい……』



「あ!」



無意識に、送ってしまった。

文字だと思っていたから、なんだろう、試しに打ってみたつもりだったのに、

『送信』押してしまって。



すぐ『既読』になったけれど、えっと……



時計を見ながら、時間が過ぎていく。

数分経っても、何も返事がなくて。

そうだ、『驚きましたか』なんて、ふざけたアピールした方がいいかな。

いや、どうなの?



だって……私は会いたいから。



今頃……



『嬉しくて文字を見ていたら、返信忘れてた』



嬉しくて……



『あと少しだ。戻ったらすぐに会いに行く』



思わず、携帯を裏返しにしてしまった。

自分で、思い切り顔が赤くなっているのがわかる。

いや、こんな表情、電話の向こう側に伝わるわけないけれど、

でも、一度深呼吸をして、飛び出しそうな心臓を落ち着かせないと。



素直な気持ちを告げたら、素直に嬉しいと返事が来た。



今までの私たちなら、言いたいことを言いながらも、

本当の意味で『素直』に語ることが難しかったのに。

離れた時間があったから、一緒にいられることの尊さがわかるようになったのか、

それとも文字だから言えるのか。

なんだか恥ずかしいけれど、その数倍嬉しくて。



カレンダーに視線を移すと、平野さんが日本に戻る予定の日まで、

あと、6日になっていた。





週末、実家から部屋に戻ると、『不審車』は当然見かけなくなった。

静かな生活が戻り、『ラッコーズ』の練習日がやってくる。

明日は金曜日。平野さんが日本に戻ってくる日だ。


「あぁ、真冬だと言うのに、汗かいた」

「あ、ほら、見てみて、肩、湯気出ている」

「やだ……もう」


メンバーのみなさんとは、毎度、毎度、たわいもない話で盛り上がる。

子供が受験を控えている望月さんは、家にいても落ち着かなくてとため息をついた。


「受験か、それは大変だね」

「そうなのよ。何かしてやろうと思っても、邪魔扱いされるし、
夜食はどうなのと言っても、太るからとかなんとかいって、何?
ほら、栄養バランスのビスケットみたいなもの? あれをかじっているのよ」

「夜食なんて食べない方がいいわよ、太るし、眠くなるもの」


2年前に、お子さんが高校受験を終えた三田さん。

来年、大学受験を息子さんが控えている小林さん。親の思いはそれぞれだ。


「うちなんてさ、別に頭もよくないし、どこか就職できるところを見つけて、
それなりに生きていかないと。だからこそ、結婚相手は重要よね」


今年、こちらに土地を買い、家を建てて『ラッコーズ』に入ってきた遠野さん。

お子さんは、娘さん一人のため、あまり遠くに行って欲しくないと話す。


「遠野さんとこ、いくつだっけ」

「今年9歳です」

「やだ、まだ全然先じゃないの」


澄枝さんは、うちなんてもうそろそろ『孫の話をして欲しいのに』と笑い出す。


「いや、うちの妹が、ちょっとした土地持ちの男性と結婚したんです。
でも、財産があるから、小姑が色々とうるさくて、愚痴ばっかり聞くものですから」

「あら、何、財産持ち?」


1つの話に2つのお花が咲き、さらにまた……

主婦達の『噂話好き』の性格が、どんどんあふれてくる。


「そうなんです。向こうのお母さんが結婚したからってリフォームを提案したのに、
嫁に出たお姉さんが、まだ使えるしもったいないって、急にストップをかけてきて」

「エ……外に出た娘が?」

「あぁ、はいはい」


望月さんは『親の財産が減るってことでしょう』と遠野さんに話す。


「はい。どうして親が費用を出すの? って……」

「エーッ!」

「それ、娘だから言える台詞だよね。嫁が言ったら、そこから大戦争だよ」


小林さんのツッコミに、望月さんが『嫁は言わないでしょう』とツッコミ返す。


「違うわよ。男兄弟2人いて、一人は実家、一人は外だとしたら……」

「あぁ、そうか、そうか」

「どうせ金持ちに嫁ぐのなら、思い切って飛び抜けたところに行けばいいのよ」

「飛び抜けた?」

「そう。石油王とか……」


小林さんは自分の言葉に、自分自身で笑い出した。


【33-4】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント