40 さよならの先に 【40-2】



「誕生日と、プロポーズと、なんだかんだで……」

「エ……何それ」


右手の薬指に、つけられる指輪。

シルバーのリングにかわいらしい宝石がついている。


「サイズ……どうしてわかったの?」

「ん? 寝ている結花のサイズを測るのは楽だって、全然起きないし」


笑われる私。


「……と言いたいところだけれど、実はこれ、お袋のなんだ」

「エ……」

「だから偶然。サイズが違っていても、直すつもりだったし」


旬のお母さんのもの……


「親父が、俺に寄こした」


お父さんが……

だとすると、偶然サイズが同じだということ。


「いいの? 大切なものなのに」

「いいんだろう、親父がくれたのだから」


お父さんとお母さんが結婚する前、実際にプレゼントしたものだとわかり、

あらためて私は指輪に触れた。

シンプルなデザインだけれど、大切にされてきたものだろう。

今でも輝きがしっかりわかるから。


「俺と親父は、お袋の声も顔も、死んでから何年も経った今だって頭に残っている。
一生忘れることはないから、これからも思い出して、一緒に生きていける。
でも、結花は知らないだろう」


旬のお母さん。確かに、遺影を見ても声や動きなどはわからない。


「だからこの指輪で、結花もお袋のことを感じてもらえたらな……と」


私は右手の薬指に触れながら、その通りだと頷いた。

お母さんの残してくれたものを、大事にして、生きて行けたら……


「どうして今なの?」


『プロポーズ』の時だって、よかったはず。


「プロポーズ、断られたら渡せないだろう、だから今」

「エ……断られると思った?」

「100%、いや、1000%自信満々だったけどね」

「何それ……」


旬らしいと思いながら、私はあらためて『ありがとう』とお礼を言う。

おやすみの挨拶を済ませ、走って行く車を見送った後、

指輪のある指を反対の手で包むようにして、部屋までの階段を昇った。





そして『30周年記念』のイベント日がやってきた。

場所は、いつも練習でお世話になる総合体育館。

『相模スプラッシュ』を迎え、練習試合を行う。

スタートのセッターは茂木さんで、身長を生かしたツー攻撃も、冴えている。


「いいですね、リズム」

「そうだね」


広報は、接待もある松尾さんと江口さんを抜いた私たち3人と、

本社からの応援もやってきて、グッズなどを販売する。

いつものものもあるが、やはり『30周年』の記念グッズの売れ行きが好調だった。


「あの人がいないな……と思いませんか、石橋さん」

「うん」


本田さんからの問いかけに、頷く私。

そう、本社の広報が絡むとなったら、見城さんが顔を見せそうだけれど。


「今日は来ませんよ、いや、しばらく来られないでしょう」

「しばらく? どうして」

「なんだか入院したようですよ」

「エ……どこが悪いの」

「性格です」


私は、笑いながら言った本田さんの背中を軽く叩く。

『それはわかっているけれど……』の意味を込めて。


「あのですね……」


本田さんの説明によると、見城さんは前から持っていた糖尿病の状態が悪くなり、

数日前から入院をしているという。

本人は通院で治すと宣言していたらしいが、奥さんの強い希望で、入院となる。


「そう……」

「あの、俺は全てがわかるんだって感じで振るまう見城さんが、
奥さんには頭が上がらないっていうのは、笑えますよね」


本田さんは売れていくタオルを補充しながら、笑顔を見せてくれる。


「そうだね」


私もキーホルダーの在庫を並べながら、その通りだと頷いた。





練習試合は、後半セッターが網元君に変わり、攻撃のリズムが変わった。

2セット行い、どちらも『バーズ』が取る。

そして、体育館がざわざわとし始め、体育館内の空気が変わっていく。

今日のために集まった『バーズ』OBが姿を見せた。

その中に旬の姿もあって……


「平野さん!」

「市川さん……」


旬や市川君。そして、主将の江口さんに声がかかる。

若松監督は現役チームを見るため、

OBチームの監督は、若松監督よりもさらに2代前になる伊藤監督がベンチに座った。


「伊藤さんは、現在、協会の役員をしている方ですよ」


鏑木君からの、そんな情報も受け取っていく。


「それでは、スターティングメンバーをお願いします」


現役チーム、OBチーム、それぞれがコートの中に。

誰だろう、旬の背中を押そうとしているけれど。

さすがにベテランさんもいるため、旬はベンチからになる。


「平均年齢が高いから、そっちはスパイクなしだぞ」

「いやいや……そんな……」


伊藤監督の発言に、若松監督が苦笑いをして。

それでもホイッスルが鳴り、試合は始まった。

さすがに年齢が高いため、動きも追いついていかないところがある。

始まって10分ほどで、あっという間に点数が開いていった。


「交代、交代……」


伊藤監督は、ベテランのOBから現役に近い選手達を入れていく。

本来ならこれだけの選手を一斉に替えるなど出来ないのだが、そこは『交流試合』。


「平野……」


旬が立ち上がり、コートに入るため屈伸をすると、会場は一気に盛り上がった。


【40-3】



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