41 肯定と否定 【41-1】

41 肯定と否定



「全くなぁ……平野が『STEM』に入ったから、こっちも色々出来るかと思ったのに、
あいつは何を考えているのか、『スポーツを広く普及する活動』とやらに力を入れて、
経営本筋に入ろうという意欲がないみたいなんだよな」


見城さんのぼやきは、旬のことだった。


「本社にいるかと思ったら、連絡をしても、ほとんど外に出ていると言われて、
会いたいと言っている人もいるのに、なかなか捕まらないんだよ。
それならば、松尾に間に入ってもらおうかと思ってね。平野はここにも来るのか」


見城さんの話を聞いて、旬には絶対プラスにならないと思った本田さんと私、

どちらも返事をしないまま。


「おい、聞いてるだろう」


反応がないことを怒られる。


「昨年は、何度かいらしてましたけど、今年はねぇ……」

「そうですね、1回くらい立ち寄ったのと、この間のOB戦くらいですよ」

「うん」



『あまり来ません』と、とりあえず答えを返す私たち。


「そうか、そんな奉仕活動のような仕事に夢中にならずとも、
あいつなら、自分のバリューを利用して、人を動かすことも出来るだろうに。
こっちも、そういう見積もりがあったんだが……なんのために、最後、
あいつのために動いたのか……」


『あいつのために動いた』

見城さんのぼやきは、100%自分勝手なものだ。

自分の取り巻きや、お付き合いのある人と、旬を、いや、『STEM』をつなげられたら、

また自分の株があがる……それくらいのこと。

旬のためなんて、1ミリもないはず。

旬が、どういう思いを持ちながら『バレーボール』に打ち込んできたのか、

なぜ、経営陣に入ることをせずに、自分の場所を確保しようとしているのか、

何も知らないくせに。


「松尾が言えば、平野も少しは考えるだろう」


見城さんは2杯目の麦茶を飲み干してしまう。

松尾さんだって旬の気持ちは理解している。

見城さんの思うとおりにしようなど、絶対に考えないはずだけれど。

あなたは誰からも求められていない。

だから、『立ち上がれ』、『出て行ってくれ』と念を送るが、相手はなかなか動かない。


「君たちも思わないか、わざわざ面倒なことを……と」


『そう思わない』私たちは、当然反応出来ず。


「まぁ、玉遊びに必死になっていたわけだから、
そもそも平野に経営は無理なのかもしれないがな……」


そんな失礼な言葉を送りだし、フッと鼻で笑うような息を漏らす。

両手を握りしめる私。

ここは、タヌキの独り言だと思って、流せばいい。


「さてと……」



でも……



「『STEM』ほどの企業だからこそ、奉仕活動に見えてしまうような仕事が、
必要なのではないですか」


我慢出来なかった。

あなたに旬の活動をバカにされたまま、知らない振りをして送り出すことなど無理。

いや、元々バレーボールを『玉遊び』と表現することが、とにかく気に入らない。

いや、サッカー部に対しても、野球部に対してもそうだったはず。

選手達がどれだけ気持ちを入れて練習をしているのか、

あなたは純粋に見たことがあるのか。


「石橋さん……」

「企業が利益を求めるのは当然だと思います。
でも、自分たちが潤うことだけを追い求めれば、いずれ、周りが付いてこなくなります。
平野さんはトップチームからこの『バーズ』に来て、
『バレーボール』に人生を助けてもらったお礼をするために、自分の練習方法や、
考え方を残してくれました。平野さんなりの『奉仕活動』だと思います。
次の世代に、引き継ぐために」


見城さんの顔、ポカンとしていて、いつもよりもさらにタヌキに見える。


「経営陣の縁続きだから、あたり前のように地位に就くことより、
アスリートとして生きてきたからこそ出来ることを、
きっと、平野さんは、考えていると思います」


旬が入れば、自分たちの地位が危うくなると思ってきた『高鍋家』の人達。

その疑念の目を感じながらも、旬が自分自身をさらけ出してきたからこそ、

今の仕事がある。

旬は、きちんと芯を持って生きていて、

あなたのように、人を頼って、横から盗み取るような日々は送っていない。


「……何を君は熱く語っているんだ」


明らかに不満そうな見城さんの顔。


「すみません、つい……」


言わなくてもいいことを言った、それはわかっている。

私はそのまま椅子に腰を下ろすと、大きく息を吐いた。

事務所内の空気は、当然重くて……。

見城さんは、『出直す』と一言だけ言うと、事務所を出て行ってしまう。

しばらくするとエンジン音が鳴り、その音も消えていった。


「石橋さん、どうしたのですか。見城さんに意見するなんて」

「……だよね。私もどうかと思う」


そう、どうかと思う。でも、言われっぱなしは嫌だった。

アスリートのすごさを、広報担当者ならもっときちんと理解して欲しい。


「でも、なんだかスッキリした」


私の感想に、本田さんはケラケラと笑い出す。

私もそれに釣られて、自然と笑顔になっていた。





「あのタヌキにね」

「だって、旬が経営陣として会社にいてくれたら、
自分が色々を得をするのにみたいなことを、平気でペラペラ話すのよ。
あまりにも自分勝手で、本当にイライラして」


今日は旬と『STEM』の関連会社になる『エスバン』の本社に向かう。

『結婚』の許しを得るのに、会社に出かけるというのは、どこかおかしな気がするけれど。


「あの人は特別だよ。自分の考えが正しいかどうかなど、振り返ることはないと思う。
振り返っていたら、あそこまで露骨には出来ないし」

「うん……」

「ある意味、向いているんだよ、この仕事に」


旬はそういうと、そろそろ到着すると教えてくれる。

『バーズ』の事務所から見える景色とは違う。高層ビルがすぐ目の前にあった。

今更ながら、旬の環境を感じ、言葉が出なくなる。


「何、緊張しているんだよ」

「エ……」

「その顔……今から面接に行く顔だぞ。大丈夫だよ、何も言われないから」

「別に緊張は……」


緊張……していないとは言えないな。

場所も場所だし。

旬の運転する車は、地下の駐車場に入る。

エレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押した。


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