41 肯定と否定 【41-3】



8月、チームの合宿も無事に終了し、いよいよ旬と一緒に石橋家へと思っていたが、

週刊誌にある記事が掲載されたことで、急に慌ただしくなる。



『『STEM』強引な手法を使い、地元の意見を無視』



記事を掲載したのは、『文応出版』の週刊誌。

内容は、旬と一緒に先日訪れた長野の廃校跡地についてで、

本来、その場所には別企業の交渉ごとが入っていたのにも関わらず、

途中から割り込んだ『STEM』がネームバリューを利用し、

強引に計画を奪い取ったというものだった。

私には、この記事の内容が正しいのかどうかはわからないが、

実際に、やりとりが行われたのは1年前で、本格的な工事が始まる寸前の今、

騒ぎを狙ったかのように掲載される。



『交渉には元全日本バレーボール選手、平野が参加し……』



確かに旬も計画の中に名前を入れて活動しているが、記事を読むと、

『旬が全ての決定権を持つ』かのように、書いてあり……



『文応出版』、その名前に以前、旬と話をしたことが思い出されて。



「ねぇ、これ、本当なの?」


記事を心配したちゆきからの連絡があり、私は気分転換も含めて、

仕事帰りに食事に向かう。


「こういう後追いのネット記事って、半分はウソだろうと思いながら読むけどさ、
『STEM』のことだし、ほら、ここには『平野が……』って
あまりにも直接的に書いてあるでしょう」

「うん……確かに無関係ではないと思うけれど、
旬が強引に周りを動かしたように書いてあるのは、ちょっとね」

「だよね……でもほら、平野は会長の孫でありって、家族のことも」

「うん」


旬が現役を引退する時、『STEM』の会長を祖父に持ち、元社長が父、

現在の経営陣とも血縁関係であることは、記事になったが、そこから時が経ち、

興味のない人達の頭からは消えていたのだろうが。


「旬が今仕事としていることは、バレーボール選手になりたいというよりも大きな夢で、
やっとそれを実行出来るところまで来ていたのに。努力とか見ていない人達は、
何かが起きるとすぐに『妬み』を前面に出すよね」

「まぁ……そうだよね」


『バレーボール』の世界に望まれたために、そこから数年間、

期待に応えるため頑張ってきた。調べてもらって本当のことなら仕方が無いが、

小さなことをあまりにも大きく書いているような気がしてならない。

だからこそ、『文応出版』の名前が、頭に残る。


「今度の週末に、うちに一緒に行く予定だったけれど、どうかな」

「あ……挨拶?」


私はそうだと頷き返す。


「あらまぁ……」


別に、この記事を読んで両親が反対するとは思えないが、

旬の周りが騒がしくなり、時間が取れなくなるのが心配だった。


「9月から本格的に建設スタートの予定だったのに、この記事が出てきたことで、
地元自然保護の活動をしている反対意見を持つ人が、議員を動かしたみたいなの。
説明をしろ、業者との話し合いの結果はどうだったのか報告しろって……いきなり」


地元の議員選挙が11月に控えているからか、議員達は市民の声に敏感だった。

旬は、交渉ごとは別部署の人達が行ったことのため、詳しく知らないところもあるが、

責任のある立場になっているのは間違いなく、『平野旬』を知っている人からすると、

前に出てこいと声をあげることになってしまう。


「それなら、平野さんが?」

「もう一度、状況を積み重ねて問題が無いことを明らかにしなければ、
工事の続きは認めないと、『STEM』本社から言われたって」


『STEM』の名前を出されている以上、トラブルはしっかり回避したいという、

経営陣の思いは理解出来る。しかも、計画の本当にスタートだ。

ここでこじれると後々響いてくる可能性もある。


「そうなんだ。でもどうして急に『文応出版』が?」

「うん……」


私はちゆきに、以前、旬から聞いた話をした。

だからといって、必ずそうだと言える証拠はどこにもないが。


「本を……」

「うん。引退したあとすぐに連絡があって、
自分のバレーボール生活を1冊にまとめないかとね。
『文応出版』には、スポーツ雑誌もあるし、取材を受けたこともあるけれど、
旬は他の出版社からの誘いも、全て断ったって」

「うん」

「自分のバレーボールを、書籍で振り返る必要はないからって。
伝えたいこととかは今までも話してきているしって。まぁ、元々、
人前でペラペラ話をしたいタイプではないのよ」

「あぁ、まぁ、そうかもね。現役時代からあまり愛想がいいわけではないし」

「うん」

「なら、その恨み?」

「いや、そうとは言えないけれど、『メッセンジャー』に出たでしょう。
実際に『STEM』に入ってから」


そう、ドキュメンタリーの番組『メッセンジャー』が、引退後の旬を数ヶ月密着し、

その仕事ぶりや活動を追いかけていた。


「その後にも、書籍を考えてくれと言ってきたのが、たしか『文応出版』だったって」


テレビを選び、書籍を捨てたように思われていたのだとしたら、

旬の応援せずに、反対側へ回ろうという方針転換かもしれない。


「そうなると、マスコミの罠に入った感じだね」


ちゆきは『ありえるかも』と私を見る。


「正直言うとさ、こんな話どこにでも転がっていると思うのよ。
複数の企業が欲しがれば、条件のいい方に売るのも当然だし。
それが多少色々あったとしても、本当に問題があれば、その段階で騒がれるでしょう」

「うん」

「そうなると、確かに平野さんが絡んでいるから取りあげようというのが、
大きいのかもしれない。選手を辞めて、こういった第二の人生を歩む人って、
まずなかなかいないし。しかもそれが身内の企業で大手だしね」


確かにちゆきの言うとおりだと思った。

旬と現場に出かけた時にも、地元の人達が工事に絡んでいたため、

当然人の出入りもあったが、みなさん温かい挨拶をしてくれたし、

反対だと態度に出してくる人の姿を見ることはなかった。

もちろん考え方は色々だから、計画が100%の人に受け入れられているとは思わないが、

あの場所に『STEM』が絡み、長い間、廃校のままだった場所に息を吹き込むのなら、

プラス面の方が絶対に大きい。


「マスコミってさ、自分たちが騒ぎたいところにだけスポット当てるからね。
読む人はその場所にいるわけではないから、温度が感じられないのよ」


ちゆきは、『でも、逆にチャンスかもよ』と言ってくれる。


「チャンス?」

「そう、きちんと何がしたいのか、オープンな場所で語って表現できたら、
注目を浴びた分、今度は世間の目が味方に付くから」


確かにちゆきの言う通り、ここまでのいきさつを綺麗に見せることが出来たら、

勘違いや思い込みも打ち消せるかもしれない。


「結花……」

「何?」

「そんな顔しないで、平野さんのことはいつものように受け入れてあげなね。
仕事のことは仕事の人と考えるよ、きっと」


ちゆきの言葉に、私は頷く。

確かに、わからないことを考えても仕方が無い。

旬を信じると決めた以上、旬を助けている人達のことも信じないと。


「よし、たくさん食べる」

「は? それ方向性違うでしょう」


学生の頃から仲がいいちゆきは、私がして欲しいことを知っていて、

その方向に言葉を送りだしてくれる。

結婚して立場がどうなろうが、これからも一生、こんな関係が続くはず。


「ねぇ、結花これ頼みなよ」

「どうして」

「ちょっと食べたい気がする」


私は『自分で注文しなさいよ』と笑いながら答えたが、確かに美味しそうだったので、

その意見を受け入れてあげる。

ちゆきとの食事会で元気を取り戻した私は、駅の駐輪場で自転車に乗り、

ハミングしながらアパートに戻った。


【41-4】



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