41 肯定と否定 【41-4】



ちゆきに話をした通り、旬は『計画通りの工事』を進めていくため、忙しさが増し、

週末の挨拶の時間を取ることが難しくなる。

その電話を受けながら、私はなるべく明るい声を出しているつもりだったが、

旬の『申し訳ない』を包み込むだけの、力強い台詞が浮かんでこない。


「挨拶なんていつだっていいのだから、とにかく地元のみなさんに誤解がないように、
説明をしてあげて」

『うん……』


旬は石橋の両親が、あらためて時間を取ることが出来る日を聞いておいてくれと言うと、

電話を切った。

私も携帯をテーブルに置く。


「はぁ……」


ネットに出された記事の下には、読み手からのコメントが並ぶ。



『平野さんのやりたいことが、出来ますように』



旬が『STEM』に入り、仕事をしていることを知るファンからのものだろうか。



『バレーボールも中途半端、仕事も中途半端。
いいですね、企業のバックアップのある人生は。羨ましい限りだよ』

『どこにいても、自分の名前が通用すると思っているヤツ』



こんな心ないコメントも、たくさん並ぶ。

旬がどんなふうに生きてきて、

どんな夢を描き努力しているのかなど知りもしないくせに、

『バレーボール選手』という表面的な部分だけで、全てを結びつけるなんて。

悔しいし、腹も立つけれど、こういった書き込みは、誰が書いているのかわからない。

私は携帯を閉じて、大きく息を吐く。

見続けていても、イライラが増すだけだと思い、

部屋のあかりを消して、早めにベッドへ潜り込んだ。





週末、家族が待つ『石橋家』へ一人で向かう。

旬が仕事で来られなくなったことは、すでに話していたが、

朋花とみち君が来ることを知り、私自身が会いたくなった。


「ただいま」

「お帰り、結花」


母の出迎えもいつもと同じ。

リビングに向かうと、テレビを見ながらソファーで横になる父の姿もいつもと同じ。


「おぉ、結花か」

「うん、今日はごめんね、一人で」

「何言っているんだ、挨拶なんていつだっていいよ」


父も当然、週刊誌の記事については知っていて、『大変そうだな』と言ってくれる。


「うん、正直、底辺交渉の部分は、旬自体もわからないと思うの。
建設予定の場所は、何年も前から出ていたらしいけれど、
なかなか手をあげる企業がなくてって……」

「そうだろうな」

「だから、計画案に一番乗り気だったのは役所だったのに。
その裏のことまで言われてもね」


どこの話がどうなったとか、関わりのないところはわからない。


「あの記事だと、平野さんの仕事ぶりに文句をつけたいのかと思ってしまうな」

「でしょう。明らかに旬をターゲットにしているよね」


有名な人が関わっていなければ、記事にならない程度のこと。

私はちゆきに語ったことを同じ内容を、両親にも話してみた。

父はある程度納得してくれたのか、頷いている。


「テレビのドキュメンタリーだって、旬が決めたことではなかったって。
『STEM』側がすでに決めていたことで、旬にしてみたら、仕方なくだったのに、
それを恨まれてもね」

「まぁ、映像の方が今は強いしな」

「でもね、少しまた動きがあって……」


そう、週刊誌が発売されてから数日経ち、

反対派と言われる人達についた議員のコメントが、自分のホームページに掲載された。

それがまるで『選挙前のアピール』に見えると、ネット記事でコメントをする人も出る。


「旬ではない部分で広がり始めてしまって、週刊誌とのやりとりだったのに、
ネットではどんどん記事が出るし、そうなると過去の記事も蒸し返されるし。
昨日もね、旬に申し訳ないって電話で何度も言われて。疲れているのがわかるから、
そんなことないよって励ましながらも、なんだろう……自分が無力だなと……」

「……無力?」

「そう」


その瞬間、『ただいま』と玄関が開き、

買い物に出かけていた朋花とみち君が戻ってきた。


「あ……お姉ちゃん」

「うん……」

「あ、結花さん、久しぶりです」

「こちらこそ……」


みち君がビニール袋をキッチンまで運び、朋花は私の横に座る。


「何、話をしていたの」

「平野さんが、あの記事の影響で今日、来られなくなってしまったって」

「あぁ……」


朋花は『みちが来るからだよ』と言い、みち君は『どうして』と返してくる。


「みちがさ、平野さんが来るなら俺も家族として参加したいって、
あんたが参加してどうなるのよと思ったけれど、まぁ、一応、これでも家族だしね」

「一応ってなんだよ」


結婚しても相変わらずの、朋花とみち君。

言いたいことを言って、また返しての繰り返し。


「結花が、自分が無力だと今……嘆いていた」

「無力?」

「うん……なんだろうね、旬の悩みが大きすぎて、どう励ましたらいいのか、
昨日なんてわからなくなっていた」


謝罪を繰り返されて、こっちの方が申し訳なくなって。


「結花さんは無力なんてこと、ないですよ」


みち君がキッチンの奥から、リビングに戻ってくる。


「俺なんていつも『結花さんに電話してみよう』って思ってましたから」

「いつもって、私とケンカをした時でしょう」


朋花は『みちは、すぐお姉ちゃんにチクるのよ』と笑い出す。


「いや、チクるというより、結花さんに話をすると、きちんと聞いてくれるから」


みち君はクッションを取ると、それを持ちながら床に腰を下ろす。


「きちんと聞いて、それからどうしたらいいのかを考えてくれるでしょう。
朋花の悪いところも、俺の悪いところもちゃんとわかってくれて……」


みち君は、『聞いてもらうと落ち着く人っていますよね』と

反対側の椅子に座る父に言う。


「そうだな……」

「ほら、結花さん」


父の賛同を得たみち君の、『そうですよ』の顔。

みち君、そんなこと考えていたのか。


「まぁ、たまにはみちもいいこと言うよね」


本当はみち君を誰よりも認めている、朋花の照れくささ満開の台詞。


「そうよね、結花はいつもだいたい聞き役で、朋花の方が話す役だったもの、
小さい頃から」


母はそういうと、全員分のお茶を入れ、テーブルに置いてくれた。


【41-5】



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