41 肯定と否定 【41-5】



「あ……お母さん、あれ出そう」

「今出しますよ」


朋花は近所で美味しい『ケーキ屋』さんがあって、買ってきたと話す。


「だから無力だなんてことはないよ、お姉ちゃん。
平野さんは、お姉ちゃんの前ではきっと『普通の人』でありたいと思っているから。
だから、悩む必要なし。今までのお姉ちゃんで十分」

「そうそう」


妹夫婦の励ましに、少し勇気をもらう私。


「ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」


朋花は、母が運んでくれたケーキのお皿をそれぞれの前に置く。


「これ、本当に美味しいの。食べてみて」

「うん」


朋花の妊婦生活は順調のようで、食べ物の店ばかりに興味が向かうと、

ケーキにフォークを刺しながら笑う。


「体重、あまり太らないようにね」

「わかってますよ」


母の心配を軽く聞き流し、朋花はケーキを2切れ食べ、満足そうな顔をした。

そういえば、こんなところは小さい頃から全然変わらない。

なんでも好き嫌いなく美味しそうに食べていて、見ているだけでどこかほっとして。


「それで、実際のところはどんな感じだ」

「旬の仕事?」

「うん」


父の心配そうな台詞に、私は知る限りのことは全て語った。

週刊誌に載った記事の内容が全てではないが、注目された分、対応を間違えると、

また違った誤解を生むことになる。


「地元の意見を聞いたと言っている議員には、あらためて報告書を出したみたい。
その人ではないけれど、同じ党の別議員は、説明会にも参加していたのに、
二度手間でしょう」

「そうだな。まぁ、そういうこともあるよ」

「うん……」


その日は、朋花達も交え楽しい夕食になる。

賑やかな妹が帰った途端、石橋家に静けさが戻ってきた。


「朋花は相変わらずね」

「本当よ。あの調子で和田の家にも行くのってみち君に聞いたら、
『そうですね、あまり変わりません』だって。大丈夫かしらと思うわよ」

「エ……そうなの? それは確かに」


片付けを済ませ、お皿を拭きながら母と立ち話をする。

父は定位置のソファーから離れ、お風呂に入るつもりか、廊下を歩いて行った。


「お母さん、これ見て」

「指輪でしょう、平野さんから?」

「ううん、これは向こうのお父さんからいただいたの」

「お父さんから」

「そう、旬のお母さんは彼が大学生の時に亡くなっているのだけれど、
お父さんがお母さんに結婚前渡した指輪? それを今回私に……」

「そう……」

「それがね、サイズがピッタリだったの。びっくりしちゃった」


お父さんから許可をもらい、旬が渡してくれた指輪。


「亡くなったお母さんのことを知らない私にも、お母さんを感じて欲しいって。
それは私も、平野家に参加していけるということでしょう」

「うん……」

「旬の目指していることは、間違っていない。きっと、お母さんもそう思ってくれている」


私は、何かにすがるような気分でそう話す。


「よかったね、結花」

「うん……」


母とはそれからも『バーズ』が新チームになり調子がいいこと、

そして、『ラッコーズ』で練習試合があると、たまに出ていることも話す。


「バレーボールはいつまでやるの?」


母にそう言われて、初めて気づく。


「あ、そうか……そうだった」


仕事は3月までだと思い、松尾さんに話をしてあるが、

『ラッコーズ』のメンバーにはまだ、何も話をしていない。


「そうだよね、話をしないと」

「そうよ、いくら趣味のチームだと言っても、何も言わないままではね」

「そうだった」

「あ、でも、平野さんと相談してからにしなさいね」

「うん、そうだよね」


『ラッコーズ』を辞めたいと言えば、当然『どうして辞めるのか』という話しになる。

もちろん、結婚相手まで明らかにする必要はないのかもしれないが、

いずれ、『バーズ』の選手達から話が入ったりしたら、澄枝さん達からすると、

水くさいと思われるかもしれない。


「12月までかな……年明けのリーグ戦は次年度の引き継ぎも出てくるし、
辞めるからこそ、最後はしっかり仕事をしたいし」

「そうね、趣味があるからってわけにはいかないわよね」

「うん」


私は吹き終えたお皿を重ね、食器棚に収めた。





『STEM』の対応は、間違いないものになっているはずだったが、

反対派と言われる人達の声は収まらず、工事は延期が決定する。


「平野が入社してからここまでが、あまりにも順調だったのかもな。
うちをはじめとした大手企業からも、ポンポンと参加の手が上がったし」

「そういうことですかね。企業だってうまみがなければ参加しないでしょう。
ここで急に延期は……」

「まぁ、様子見だろう」


『バーズ』広報部、いつものように仕事をする私と、

週刊誌の記事を読み、意見を言い合う松尾さんと江口さん。


「なんだか、うちの本社にも『どうしてこっちにだけ参加するのか』って、
問い合わせの電話が入るらしいですよ」


鏑木君は、いただきもののおせんべいを広げながら、

本社広報部から聞いた話をしてくれる。


「こっち?」

「はい。『Assemble』は去年、東南アジア系の企業と業務提携の話があったけれど、
結局、合意にならなかったでしょう。最初は互いにうまくいっていたのに、
途中からあれこれあって」

「あぁ、あれは向こうが経営状態を正確に報告せずに、
増し増しでごり押ししてきたからだろう」

「そうなんですけど、それは一般的に明らかにされてませんし」


経営状態の報告書を見直すと、相手側のウソが多数判明し、

会社が頼んでいる弁護士などから、話にストップがかかった。

しかし、それを世間的に明らかにすると、相手企業のダメージが大きいため、

一応、『折り合いがつかず』という報道に収まっている。


「その話がまとまれば、得をした者からすると、こっちよりあっちだろうの気分なのかと」


鏑木君は、『日本では売り上げが落ちたものも、まだ向こうでは売れますからね』と、

書類をめくる。


「ラジオとかな」

「はい」


企業と企業の駆け引き、やりとり。

あっちがプラスならこっちがマイナスということは、当然あるだろうが……


「世の中が、自分に背を向けてくる経験など、平野には今まで無いからな」


松尾さんはそういうと、『試練だな』と言い、雑誌をテーブルに置く。

私も心で頷きながら、PCの文字を打ち込んだ。


【42-1】



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