42 あなたと私 【42-1】

42 あなたと私



「反対派の人達に?」

「うん、この先の計画書を見せながら、あらためて報告会を開くつもりだ」


旬たちの取り組みで、先に役所と交渉をしていた企業が、

実際には、あの場所を開発するだけの力がなかったことがわかり、

最初の記事に出た内容の打ち消しには、ほぼ成功したのだが、

大手企業の協力体制が、素早く揃ったことに対しての疑念の目を持つ、

市民団体から、またあらたな追求を受けることになってしまう。


「全くさぁ、こっちのしてきたことを見てもいないのに、『有名人だから』とか、
『密約があるのでは』とか、まぁ、好き勝手に言ってくれる」


私の部屋に旬が来てくれたのは、3週間ぶりくらいになる。

本社と現地、さらに関連企業周りなどで、忙しかったのだろう。


「今まで散々、持ち上げてきたくせに急に叩いてくるからな、勝手だよ本当に」


旬の嘆きも理解出来る。

でも、『恵まれた環境』に対して、何かをぶつけたくなる人がいるのも、

どこか理解出来てしまう。

以前、竹内さんが旬に対して、冷たい言葉をぶつけていたように。


「『ブルーサンダー』の関係者にしてみたら、旬がチームを抜けたのは、
きっと残念だっただろうし、バレーボールの関連企業にいる人達にしたら、
『全日本の顔』だった旬が、早々と全日本から身を引いたことも、
それから、業界に残らなかったことも、悔しかったのよきっと」


旬に夢があったことを、私たちは知っている。

でも、それを知らない人達からすると、あまりにも潔く身を引いたことが、

『恵まれた環境』とリンクしてしまうのだろう。


「記事を出した週刊誌が『文応出版』って聞いた時に、これはと思ったけどね」


旬も、私と同じようなことを考えていた。

だからといって、相手に言っても認めてくれるわけもないし、

世の中に起きている出来事を、どう選び掲載していくかは、向こうの自由。


「選手だったことが、プラスになったり、マイナスになったり……」


旬はそういうと、ゴロンと床に横になってしまった。

天井を見ながら、黙って何かを考えている。


「少しくらい時間がかかっても、旬の活動が正しければきっとわかってもらえる。
まだ『STEM』の2年目なのだから……」


選手として寿命があった頃とは違い、これから定年を迎えるような時まで、

旬のチャレンジは続くはず。


「そうか、2年目か……」

「そう、人には理解力の差があるの。前にも言ったでしょう。
だからこそ丁寧に話してあげたら、きっと頷いてもらえる」


誰でも利用できる施設を作ること。

そして企業冠のある大会で得た利益を、スポーツ活動の資金に回していくこと。

選手、企業、観客をまとめるために、

『スポーツベッティング』からヒントを得た、ネットの試合観戦。

そこに集う人達から、新しい選手を作っていくこと。

これから日本のスポーツを支えていく子供たち、

そして寿命を延ばし、健康でいるためのスポーツ活動など、裾野は大きく広がるはず。


「結花……」


起き上がった旬は、私を見る。

私はテーブルの向こう側へ移動し、両手を大きく広げて旬を包むように抱きしめた。

きっと旬はわかっている。

私が今、彼にしてあげられることは……


「いい匂いがする……」

「そう?」


私は絶対に、あなたの味方。

そう思いながら力を込めた。





「『ラッコーズ』に?」

「うん。まずは『中華二番』の澄枝さんにと思って」

「俺は全然構わないよ、隠しておく必要も無いと思っているし」

「だったら、広報のみんなと、それから澄枝さんには話をするね」

「そうだな……となると、『バーズ』に伝わるか」


本田さんや鏑木君は、口が固そうだけれど。


「どこかで言わないといけないしね」

「まぁ、いいか、堂々と連れて帰れて」


旬はそういうと笑い出す。


「何、それ」


このところ、仕事のことが慌ただしくて、あまり笑っていなかったから、

こんなことでも私としては嬉しくなった。





カレンダーが9月に入っても、旬の仕事の状況は好転とならず、

最初の頃と比べれば、ネット記事なども少しはおとなしくなったけれど、

未だに間違った情報を信用している人達もいて、『STEM』には、

抗議の電話などが入ってくると言う。


「だから俺が言ったんだよ。行動に移す前に、まず根回しだって。
あいつは協力企業にはしっかりと頭を下げていたようだけれど、
一見、関係ないようなところに人脈を作っておけばさ……」

「それ、誰の言葉ですか」


本田さんの質問。


「見城さん」

「でしょうね……」


松尾さんの答えに、本田さんの反応。


『バーズ』広報部。リーグ戦の組み合わせも決まり、

練習試合なども増えてきた中、松尾さんが本社に行くと、見城さんがいて、

今のような台詞をぶつけてきたと嫌そうな顔をする。


「ようはさ、平野が引退してから、自分の思うような行動を取らなかったから、
それ見たことかと言いたいんだろうな。何が起きても自分中心、自分が正義、
あれほど強い者はないわ」

「ですね」


江口さんも状況がわかるのか、賛同する。


「でも、実際、見城さんが言うようなマスコミ関係者と、
それなりに話をしておけばってことはないですか?」


鏑木さんは、『STEM』がスポーツ業界にとって、トップスポンサーであること、

『文応出版』にしてみても、敵に回したくない相手ではないかと意見を言った。


【42-2】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント