42 あなたと私 【42-2】



「『文応出版』は、この秋で持っていたスポーツ系の雑誌を休刊させる。
つまり、スポーツの業界とは少し離れるわけだ」

「あ……そうですか」

「そう。実際、出版業界も厳しいんだよ。発行部数は下がる一方だろう。
この記事の後追いも、全部ネットだし」


雑誌の発行部数、新聞の発行部数、そしてテレビの視聴率など全て落ちている中、

ネット関連のものだけは、確実に成長し続けている。


「選手達も個人のブログなんかで意見を言えるだろう。
別に雑誌がなくてもいいわけだ」


私はPC画面と向かい合いながら、確かにその通りだと感じていた。

選手達との距離が近づく反面、トラブルも増えていると、

先日の協会会議でも話題に上がっていた。


「『STEM』に問題があるというより、
記事を読むと平野が突っ走っていると言いたい雰囲気なんだよ。
そこら辺はズルイというか」


最初こそ、『STEM』という企業名を出し、注目を集め、

そこからはより具体的に追求するため、旬の名前を前に出している。


「でもまぁ、大変だろうけれど、ここはしっかり乗り越えていけたら、
あいつの活動も本物になっていくよ。アスリートたちの第2の人生が厳しいから、
だから親も子供の活動に二の足を踏む。怪我でもしたらって思えば、
梶浦の親では無いけれど、安定を選ばせようとするわけだ」

「まぁ、気持ちはわかりますけどね、同じ親として」


江口さんは椅子の背もたれに寄りかかりながら、そう言った。


「結局、そうなると今は親に余裕があるとか、同じスポーツのトップを目指していたとか、
その後のことなど、考えなくてもいいと言える親の子だけが、
スポーツをやり続けることになる。
平野は、そういう環境にない子でも、『やりたい』と手を挙げられるように、
業界全体の底上げをしようと思っているんだけどな……」


『STEM』の冠大会を増やし、

各団体にトップ選手と子供達が定期的に触れ合う機会を作ってもらう。

才能のある子供を埋もれさせないよう、学校だけに頼むのではなく、

もし、最終的には選手として残れなくても、

活動資金は自分の働きで返していけるようにすれば、途中で諦めるような人は、

減るのではないか。

旬は今、自分が思い描いてきたことが、どうすれば実現できるのか、

それを協力すると手を挙げてくれた人達と一緒に、考えている最中。


事務所の電話が鳴り、本田さんが受話器をあげる。


「はい、『バーズ広報部』本田でございます」


各自が自分の仕事に動き出し、旬の話題はそこで終わった。





松尾さんが嘆いていたように、

旬の活動はまだ色々と妨害が入るのかと思っていたある日、

私は鏑木さんから、ある情報を受け取った。



『#平野をカバーリング』



私たちが知らないところで、こんなものが動き始めていた。

旬の活動がどういうもので、今、どのあたりまで進んでいるのかを調べたファンだろうか、

雑誌に載ったような強引な計画はなく、地元の人達も動かなかった土地の活用方法に、

新しい期待を寄せていること、そして、『STEM』が冠大会を増やし、

未来のアスリートたちの資金を作ろうとしていることなどが、書かれてあった。

元々、『カバーリング』という言葉は、

色々なスポーツで、ミスをフォローするという意味で使われているため、

『バレーボールのファン』はもちろんのこと、

まだメジャーだとは言えないスポーツだけれど、

毎日熱心に取り組んでいる人たちからも、使われるようになる。


さらに……


「全日本の選手達が?」

「そうなんですよ、ビックリしました」


ネットでの活動が少しずつ話題になってきた頃、

市川君をはじめとした全日本バレーの選手達が、

『平野をカバーリング』のハッシュタグから、

活動を応援するというコメントを出し始めてくれたのだ。

さらに、旬がお世話になっていた『ブルーサンダー』のチームメイトや首脳陣、

そして、旬が以前、テレビの番組で指導したチームの子供や親たち、

そして、バレーボール以外のスポーツ選手達からも、使われるようになっていく。



この大きな輪が、新しい角度から記事に興味を持つ人を増やした結果、

『文応出版』が出した『強引な手法』という記事は消えていき、

遅れていた工事は、地元の人達に見守られながら、スタートすることとなった。





「最終的な遅れは、それほどでもなさそうだ」

「そう」


旬は資料を広げると、丁寧に見直している。

私はお茶を入れると、邪魔にならない場所に置く。


「カバーリングの声が、どこから出てきたのか、『STEM』でも調べたみたいだけれど、
一番最初がどこなのかはよくわからなくて」

「うん」

「でも、活動をしっかりと調べてくれて、大きく注目されるきっかけを作った人達の中に、
あの山倉君がいた」

「エ……あの?」

「そう。彼のツイッターとインスタに、子供達のバレーの活動が書いてあって。
その中に『カバーリング』の記事がさ」


旬が合宿をしていた時、茶化すようにしていた山倉君。

旬には、プレーヤーを引退した後に目標があることを、知っていた人。


「そういえばあの日、自分には目標があるって、旬、言ったものね」

「うん」

「山倉君はきっと、記事とか会社のホームページとかで一生懸命調べて、
旬の活動を知ってくれたんだ。だからこそ、誤解されないように、フォローをしてくれた」

「だな……」


励まし、励まされて、離れていてもつながる。

ネットには悪いところ、怖いところもたくさんあるけれど、いいところもたくさんある。


「今回は本当に、みんなに助けてもらった。正直、その場その場を乗り越えるのに、
必死になっていて、全体が見えていなかったのかもしれない」

「うん」

「『カバーリング』か……誰だか知らないけれど、
この言葉はどのスポーツにも当てはまる。俺の活動拠点はバレーボールだったけれど、
これからやろうとしていることは、バレーボールだけではないからさ」

「そうね」


全てのスポーツが、明るい未来を持てるように。

企業が応援していくシステム作り。


「旬がしてきたことを、みんなが理解してくれたからこそ、こうした輪が出来たのだから、
今度は旬がそれを無駄にしないようにしないと」

「そうだな。今回のことをいい経験だと思えるようにしないと」

「うん……」


8月に湧き上がった大きな雲は、激しい雷と台風並みの風と雨を運んできたが、

9月、そして10月と季節は進み、空には優しい青の色が戻ってくる。

『平野をカバーリング』の言葉は、それからもしばらく続き、

そこから、『STEM』のホームページには、

旬たちの活動を報告する体制が、しっかり取られるようになった。


【42-3】



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