42 あなたと私 【42-4】



それから1週間後の土曜日、あらためて旬が石橋家に向かうことになった。

私はアパートで拾ってもらい、一緒に行くことにする。

明日はリーグ戦に入る前の最後の日曜日だが、事情を知っている松尾さんから、

しっかりと有給をもらった。


「雨、上がったね」

「そうだな、向こうの空はずいぶん明るくなっているし」

「うん」


アパートを出る頃はまだ降っていた雨も、川を越えようかという今は、

あがったようで。


「平野さんは嫌いなものはあるのって聞かれたから、ないよって答えたの」

「は? なんで……」


旬は『ピーマンが嫌なこと、知っているだろう』と不満そうな顔をする。


「お寿司のネタです。ピーマンなんてないもの」


私が笑いながらそう答えると、旬がわざときつめにブレーキをかける。


「あ……」


私はすぐに左手を出し、前を押さえた。

わざとだと思い、旬を見る。


「あ、危ない、危ない……」

「ねぇ、そういうことする? 子供みたい」

「そっちだって同じようなものだ」


信号が赤から青に変わり、また車が動き出す。

旬の横顔を見ていると、なんだかおかしくなってきた。


「何笑っているんだよ」

「エ……楽しいなと思って」


そう、何かをすればすぐに反応があるから、面白い。

大きくぶつかるようなことがあっても、また元に戻れる自信が、

少しずつ私にもついてきた。


「このまままっすぐか?」

「さて……どうかな?」

「……崖に突っ込むぞ」


私は『次の信号を右』と教え、

このあたりは本当に坂道だからふざけないでねと忠告する。

曲がり角を過ぎると、『石橋家』がしっかりと見えてきた。

いつもなら父の車がある駐車場には、今日は車がない。


「いいのかな、入れても」

「いいと思う」


きっと裏の高木さんのところにでも、置かせてもらったのだろう。

年配のご夫婦なので、父がよく庭の草むしりをしてあげているから。



「ただいま……」


私の声に、一番初めに出てきたのは、嬉しそうに笑った朋花だった。





父と母は少し緊張しているように思えたが、その分朋花が明るくて、

旬の緊張も徐々に取れていく。みち君も来たかったようだが、仕事があり、

土曜日は休みが取れなかったらしい。


「別に無理しなくていいよ」

「いやいや、ねぇ……」


朋花は『間近に見ると、背が高いですね』と旬に話す。


「あ……でも、190はないので、選手としては決して高くなくて」

「そうなのですか」


外国の選手は2メートルを越えているのが普通で、

今は日本選手でも、190センチ以上ある選手が多い。


「お父さんやお母さんも高いのですか?」

「いえ、父は180ないですし、母は……結花さんと同じくらいだと……」


私の身長は160センチを少しかけるくらい。


「そうですか……」


我が家がいつも注文するお寿司屋さんから、大きな樽に入ったお寿司が届き、

あとは数種類、母の手作り料理が並ぶ。

テーブルの周りに全員が揃い、輪になる形で食べ始める。


「平野さん」

「はい」

「あの……一つだけ聞いてもいいですか?」


朋花はそういうと、自分の箸を置いた。

旬も同じように箸を置く。


「姉に、こんなご縁が生まれて、家族としてすごく嬉しい反面、平野さんにつく、
大きな企業名や色々な噂など、正直、怖さもあって。
姉には、幸せになって欲しいと思うから……だから教えて欲しいのです」


朋花……


「はい」

「姉を……選んでくれた理由を教えてください」


朋花は『失礼なことを聞いてすみません』と頭を下げる。

父と母は何も言わないまま、朋花の質問を受け入れているように思えた。

私は旬の反応が気になり、横を向く。

旬は一度私を見た後、小さく頷いた。


【42-5】



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