2 時の流れを感じる日 【2-4】



「はぁ……」


あらためて、高い場所から下の景色を見る。

確かに、屋根の色が変わったところもあるし、父が話していた常松さんの土地。

大きな庭付きの家が、3つに別れたことで、見える緑が減った。

昨日、駅に着いた時には何も変わっていないと思ったが、そうではない。

田舎なりに、変わっていくんだな。

理子が話していたことがあったっけ。同窓会を開くたびに人が減るって。

お土産もの店だったり、漁業関係の人だったり、

同級生の親は地元に根付いているけれど、子供世代は新たな仕事を求め離れた人も多い。

クリーニング店も、美味しいコロッケを出す肉屋さんも、

同級生達は継ぐことなく、お店はもう閉められて……

そういう私も、あんなことがなければ、

きっと、『七海』に戻ってくるという気持ちにはならなかっただろうし。

今はまだ、親世代が元気だから成り立っているけれど、

また、寂れていくのだろうかこの街は。


どことなくセンチメンタルな気分になっている私の後ろを、

燃費の悪そうな車が、走っていく。


「ん?」


振りかえって運転席を見ると、左ハンドルを動かす『ボン太』の姿があった。

確かに、理子が言っていた通り、

トレードマークと思っていたメガネは顔になくなっている。

車はすぐに左に曲がった。

視線を車が出てきた方向に動かしていくと、『熊井家』。

視線を今度、反対側に動かしていくと、『龍海旅館』。

両方の建物の間には、100メートル徒競走をするくらいの距離しかないはずだけれど。

わざわざあの車を使って出勤とは。

あいつには、歩くという選択肢はないのだろうか。



帰ろうかと自転車にまたがったが、そういえばと思い、さらに『龍海旅館』に近づいた。

私の『目の保養』、芹沢さんの職場はここ、

昨日のように、偶然会うことがないとは言えない。

そう、昨日は全く知らない者同士だったが、今日は違う。

向こうは何も知らないが、私は……少し知ったのだから。



『あ……こんにちは』

『どうも……何か……』



そう、もしここで会えたとして、最初は当然そう聞かれるはず。

そうしたら私は、『景色を見ていたので……』と話して。



『私、『坪倉畳店』の娘です』

『あぁ……坪倉さんの……』



少なくとも鬼ちゃんとは接点があるし、今朝、工場にいたのだからまずはそこを話す。

自己紹介を軽くしたら、いつもお世話になっていますと挨拶をして、

職人の鬼澤さんや、お父さんとしかお会いしたことがなかったけれど、

こんなお嬢さんがいたのですね……と言われて……



『あ、はい』



こういう時は、少しはみかむような笑顔を見せること。

初対面からガツガツ行くのは、よくない確率の方が高い。



『少し前に、東京から戻ってきまして……』

『あ……東京からですか』



理子が言っていたよね、芹沢さんも東京から来たって。

ここは共通点をうまく出し、話を続けるため、戻ってきたアピール。



『はい。東京の慌ただしさに、少し、疲れてしまって……』



こんなふうに言った後、下を向いてため息でも落としたとしたらきっと、

『何があったのかな』と思ってくれるでしょう。

とすれば、次回店を訪れた時には、『お嬢さんは』と当然気にしてくれて。


「クシャン……」


なんだろう、急にまた鼻がムズムズする。

そういえば、ここも昔の雰囲気と少し変わったな、入り口も……


「あの……」

「はい」


来たか? 振り向く私。


「採用面接を希望する方ですか」

「エ……いえ、あの……違います」

「あ、そうですか、何か見ているように思えたので。ごめんなさい」

「いえいえ……」


こちらこそごめんなさい。ただ覗いて、妄想していただけで。

って、面接? そう思い視線を左右に動かすと……



『TATUUMIグループ』採用試験会場はこちら』



どうして今まで気づかなかったのかと思えるくらい、

しっかりとした文字で書かれた看板が置かれていた。



グループ? 『龍海旅館』って、いつの間にグループになったの?

すると、本当に採用試験を受けようとしている人なのか、

数名が自転車や車、徒歩で上がってきた。

今日がそういう日なら、あまりウロウロするべきではないな。

私は関係者ではないので、芹沢さんを見るという目的を諦め、

とりあえず坂を下ることにする。


「ヤッホー……」


子供のように風を受けながら、下っていくと、あっという間に下まで到着した。





「いらっしゃいませ……って、なんだ菜生か」

「なんだって何かしら。私だって客ですよ」


『伊東商店』の店内を見たら、洋平しかいなかったので入ってみた。

地元のお酒から、地ビールとも言えるものが並んでいる。


『ドラゴンビール』


「何、これ」

「ん? あぁ、それは『龍海旅館』が協力して作った地ビールだよ。
椋さんから頼まれて、うちが知りあいの会社に話をした。
このあたりのお土産としても売っていて、海に来る客に、結構人気があるんだ」


椋さん……ここでも芹沢さんが話題に。


「これは?」

「それはチューハイ。お茶を利用して出来ているのと、こっちがみかん」

「ふーん……」


『伊東商店』って、『気合一本』みたいな、

ドンと存在感のある一升瓶ばかりが並んでいるイメージだったのに、

テーブルがちょこちょこ置かれて、何このおしゃれな感じ。


「なんか、変わったね、店内」

「そうか? 毎日いるとわからないけどな」


私は、ふと目にとまった小さな瓶を持った。


【2-5】



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