4 言い過ぎの日 【4-2】



「そう、100円とか、200円とかを入れてね。
最初はバスに乗るまでの時間つぶしと思って入ったの。
でも、そこから楽しくなってしまって」

「うん」

「今の景品はいいよ。ぬいぐるみも素人が縫いましたなんて、粗悪品は全然無いし」

「ふーん」

「取れるかな、取れないかなとドキドキするのが楽しくて、
それからは気分転換によく行っていたの。最初は取ることが楽しかったからさ、
景品自体は近所の保育園のバザーに寄付したりしてね」

「へぇ……」


そう、最初はそうだった。

段ボールの中にぬいぐるみを入れて、近所の保育園に持って行くと、

結構喜んでもらえた。


「でも、『サンサン』に出会って変わったのよ」

「サンサン?」

「うん、ものすごく柔らかい、肌心地のいい『くまのぬいぐるみ』なの。
洗ってもその風合いがなくならないことにとにかく感動して。
それからは、自分好みのものを選んで、並べていって。それがどんどん増えて……」

「へぇ……」


理子は、子供の頃からいつもこうだった。

私が何か話をすると、正面を向いてきちんと聞いてくれる。

今振り返ったら、どうでもいいような話もいくつかあったが、

バカにしたり、上の空なんてこと一度もなくて。

だから信頼出来るし、私も理子を受け入れたいといつも思って……。


「そういえば、芹沢さんはどうして『ドリームコイン』にいたのかな」


そう、『どうしてここに……』という、基本的な会話が出来なかったのよ。

あの『満腹宣言』のおかげで。


「あ、もしかしたら『マスコット』のことじゃないの?」

「マスコット? あぁ、なんだっけド……」


『ドラ……』

あれ? 確か水色とピンクと2種類いて、名前別だったよね。

あの時、鬼ちゃんに聞いたのに覚えていない。

なんだっけネコ型ロボット、いや、お菓子みたいな名前だったはず。


「『ドラ』と『マーレ』でしょう。イタリア語で『龍』がドラーゴだからドラ、
マーレは『海』らしい」

「あ、そうそう、それだ。そうか、『龍』と『海』なのね」

「そう『龍海旅館』だからね」



『龍海旅館』



そうか、それで。うわぁ……思っていたより理由は単純だった。

しかもなぜ『イタリア』? かっこいいとかそんな理由かな?

誰だろう考えたの、ボン太だろうなきっと。


「ぬいぐるみを作ってって、そのアイデアを出したのも、
確か芹沢さんだって聞いた気がするよ。名前も単純で覚えやすい方がいいとか……」


……ん?


「イタリア語なのは、七海とイタリアのどこか……ごめん、名前を忘れたけれど、
そこが友好都市だからだったと思う」

「友好都市」

「うん。『龍海旅館』の中にも、ゲームコーナーがあってね。
そこに『クレーンゲーム』が置いてあるのよ。このマスコットを取る」

「うん」


マスコットを取らせるための『クレーンゲーム』か、

まぁ、かわいくなかったとは言わないが、それほど客に受けるだろうか。


「それぞれのマスコットに、小さなカプセルがついていて。
その中に、宿泊の割引券とか、喫茶室のコーヒー無料券とか入っているの。
宿泊すると、とりあえずコインが人数分もらえるから、ひまつぶしにもなるし、
結構子供も大人もやるみたいよ」

「あ、そうなんだ」


そうか、ぬいぐるみだけではない『付加価値』だ。

マスコットの名前は単純だとそう思ったけれど、確かに覚えやすさは重要。

そうそう、近頃はあまりにも凝った名前で、先生達も読めない子供がいるってニュース、

聞いたことがあるし。

それに『イタリア語』なのは『友好都市』。仲良しの証ってこと。


「色々、考えているわけだ」

「うん」


フロントで最初にコインをもらっていたら、割引も気になるし、

使わないともったいないとなるよね。とりあえずチャレンジはするよ。

カップルや友達同士なら、『クレーンゲーム』をやるということで盛り上がる。

子供がいれば、親に『取って』とせがむことは予想が出来るし。

そうか、ゲームをゲームだけで終わらせない工夫。



うん、これはボン太ではないな、確かに芹沢さんだ。



「そうか、そういうことか、付加価値……。やっぱり仕事が出来る人だ。
この前、鬼ちゃんと話をしている時にも、そう感じたけれど」

「うん」

「知れば知るほど、ボン太と血のつながりがちょっとあるというのがさ、
全然信じられないというか……」


従兄弟という話に、全く説得力がない。


「ねぇ、菜生。それなら『TATUUMIグループ』に入ればいいのに。
菜生が前向きになれるのなら、いいと思うけど……」



『TATUUMI』



「いや……」


そういえば、採用面接がどうのこうのって、前に話していたな。

もう、終わったのかな、採用。

そうか、もし『龍海旅館』の中に入れたら、当然、芹沢さんと職場が同じになって。

事務員さん達が話していたように、挨拶をしたり、世間話をしたり、

当たり前のように距離が近づくのかも。




……かも。




かもかも……




『おはようございます、芹沢さん』

『おはようございます、菜生さん。そんなに堅苦しく呼ばなくていいですよ、
椋さんくらいで……』

『エ……でも』



なんて遠慮するけれど、そうそう、菜生さんには椋さんと返さないとね。

これからはそう呼ぼう。



「菜生……」

「ん?」

「何考えていたの?」


理子を目の前に置きながら、勝手に飛んでいく空想と妄想の世界。


「あ……えっと……」

「菜生って同級生なのに、かわいいよね」


理子は麦茶を飲みながら、笑い出す。


「エ……何それ」

「だって、今、『あ、それいい』って思っていたでしょう。
すごくまっすぐで、明るくて……見ているだけで楽しくなるというか……」


理子は『羨ましいときがあるよ』と話す。


「理子」

「何?」


理子の言葉に、私はタイミングはここだと決める。


「日曜日、洋平、お見合いの人と会ったと思うよ。
前向きに会うようなこと、この間、お店に行ったら話していたから」


そう、理子を工場に入れたのには、この理由がある。

洋平とのことを聞きたかったから、二人で話がしたかった。


「そう……」


そこまで流れていた、楽しげな風は、ピタリと止まった。

重たい空気になるのはわかっていて、あえて話をしたわけだけれど。

それにしても、そう……って、それだけ?


「ねぇ、いいの? 本当に2人はこのままでいいの?」


つかみどころのない言い方かもしれないが、理子にわからないはずがない。

言いたいことはきっと、伝わっていくはず。

私が高校を卒業し、東京に向かう時には、今度地元に戻ってきたら、

理子と洋平は当然、付き合いを始めていると思っていたし、

『七海』と離れていたこの3年こそ、動いていると信じていて。


「いいも何も、洋平が決めたことだし」


下向きになる理子の顔。


「決めたことだしって、理子が断ったって洋平が言っていたよ。
どうして断ったの、理子」


私の台詞に、理子の顔がすぐに上がった。


【4-3】



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