4 言い過ぎの日 【4-3】



「ごめん、突っ込みすぎかもしれない。
洋平には、理子を責めるようになるから言うなと言われたけれど、私は言うよ。
私は二人のこと、ずっと見てきたもの。だって、おかしいでしょう。
中学の頃から理子は洋平のこと好きだよね。サッカー部の練習……」

「菜生……」

「ずっと見ていたでしょう。試合の応援だって行ったしさ。
それなのに洋平、理子に3回も振られたって、だからもういいってそう言っていた。
理子の家は医者一家だからとかなんとか……
自分と合わないくらいに言いたかったのかもしれないけれど、どうしてよ、
何でこうなるの。おじさんやおばさん、そんなこと言わないでしょう」


優しくてしっかりしている理子と、それをさらに包み込めるくらい、

気持ちの優しい洋平が、認め合えないはずがない。

『七海』という街から逃げ出した私と違い、二人はずっとこの場所を愛して、

そして役に立っている。

昔なら、『家を継ぐ』とかそんな不条理な縛りがあったかもしれない。

でも、理子の家にはお兄さんの基さんがいる。今、医者になるため実戦勉強中。

つまり、病院のことを考える必要もないし、

関口のおじさんとおばさんなら、『洋平はダメ』だなんて、

理子にそんなことは言わないはず。


「菜生……洋平が悪いとかではないし、うちが医者だからなんてこともない」

「でしょう、だったら……」

「だったらではなくて、ただ、私は結婚をしたいと思わないから断った。
幼なじみとしての付き合いはそのままでいいと思うけれど、
洋平は『伊東商店』を継ぐし、当然、ご両親も結婚を望むことになるでしょう」

「理子」

「私は、そういう未来を求めていないから」


理子は自分の意思を出し切ったのか、ゆっくり麦茶を飲む。

本当にそうだろうか、あまりにもあっさりと戻された返事に、余計混乱する。


「そういう未来って……」


私と理子は、中学まで同じだったが、高校だけは別のところに通った。

理子と洋平は、高校も同じ。

理子のことで、わからないことがあるとすれば、この時期のこと。

その少しだけ開いた距離の中で、出てきた違和感。



それは、とある事件が絡んでいて。



「理子……高校の時、仲のいい友達いたよね」


そう、当時、理子には友達がいた。

私たちの友情は、もちろん変わらなかったが、

高校に入ってから出来た友人も、当然互いにある。


「『小原一花』さん……彼女と仲良しだったよね、理子」


『小原一花』さん。

当時、『七海』から3つ駅が離れた場所に住んでいた彼女は、

理子と高校時代に知りあい、仲良くしていた。

友達同士ということで、私も数回会ったことがある。

洋平が所属していたサッカー部のマネージャーだと、確か聞いた。


「いたよ、仲良くしていた。どうして今更そんなこと……」

「彼女も、洋平のこと好きなのかなと……会うといつもそういう気がしていたからさ」


高校生になった理子と洋平。

中学くらいから気持ちはあっても、あまりにも存在が近すぎて、

あらためて向かい合うことが、難しかった年齢。


「一花はマネージャーだったから、洋平とも親しかったし、
それはあったかもしれないね……」

「あったかもって、それで遠慮とかしているうちにおかしくなったとか?
あ、そう、ほら、あの小山の『ショッピングモール』の事件、
あれ……彼女のことだよね。私いつだっけ、少し経ってから知って……」


そう、私たちが高校2年の春、『七海』から少し離れた『小山』という駅に、

『ショッピングモール』が出来た。高速道路の拡張で住宅地が出来て、

それを見込んでの出店。


「当時、名前は伏せられていたけれど、でも後から……」

「菜生……辞めよう、そういう話」


理子は、話題を避けるように立ち上がる。


「理子……」

「傷ついた人がいるのだから、興味本位のように言うのは辞めて」

「いや、あの……」

「過去の話まで持ち出して、妙な勘ぐりとかするのはやめて欲しい。
私の気持ちは私が一番わかっている。今の世の中は、女性だってひとりで生きていけるし、
洋平とはこのままでいい。それでいいから。もう、あれこれ言わないで」


理子は『そろそろ帰るね』と立ち上がり、家の方をのぞくと、

うちの両親に『また来ます』と挨拶をする。

母はどこからからいただいたネギを数本ビニールに入れ、理子に渡していた。


「すみません」

「いいの、いいの」


私は中途半端になった追求をどうすることも出来ないまま、去って行く理子を見送る。

工場に残された、麦茶の入っていたグラスが2つ。



『ごめん……洋平』



言うなと言われていたのに、言ってしまった。

理子を責めているつもりはないけれど、でも、心のどこかでやはり責めていたかも。

どうしてなのか、納得がいかないって……。


私なんかより、洋平の方がずっと、ずっと辛いのに。

思い続けて、続けて、それが叶わないと諦めて。

それでも『理子を追い込むな』と、どこまでも理子を思っていたのに……



ダメだな、私。

何か考えると、それを前に出したくなる。



もう少し冷静に……



「入るぞ、菜生」


鬼ちゃんが扉を開き、工場に入ってきた。

ここが工場だったことに気づく私。


「ごめん、もう終わった。どうぞ、ご自由におつかいください」

「なんだそれ」


鬼ちゃんは帰る前に確かめたかったと、何やら書類を取り出した。

『伝わらなかった感』にあふれ、すっかり力の抜けた私は、立ち上がる気力もない。


「鬼ちゃん」

「なんだ」

「なんかこう……気持ちがもやもやするときには、どうしたらいいのかな」


どう表現すればいいのかわからないが、とにかく晴れ晴れしない。

大事なところが何かに覆われているようなこの状況が、苛立ちを生み出していた。

理子と洋平。

私にとっては、どちらも大事な友人。

二人には、幸せな未来を築いて欲しい。


「海にでも行って、『うわぁ!』って、叫んでくるか」


鬼ちゃんは、大きな声を出すとストレス発散になるぞと話す。


「ストレス発散か……」


確かに、大きな声を出せば何かが変わるかもしれない。

そう……


でも……



行くのが面倒。

ダメダメな私の頭は、こっちの考えを優先した。


【4-4】



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