4 言い過ぎの日 【4-4】



「わかった。何か探す」

「菜生」

「何?」

「理子ちゃんが意地を張ってまで心を隠そうとしていると、お前には見えるだろうが、
それにはそれだけのことがあるからだ」


それだけのこと……そう、だから心配なのだ。


「そうだよ、だから心配なの。理子のような人こそ、『お嫁さん』に向いているし、
お母さんに向いているでしょう。それなのに興味が無いみたいに言って。
絶対に何かあるんだよ、理子は私のようにピーピー言わないから」


そう、転べば膝が痛いと泣き、肘をぶつければ折れたかもしれないと騒ぐ私と違い、

理子はいつも我慢してしまうから。


「まぁ、そうだけれど、心を決めて貫こうとしているのも理子ちゃんの気持ちだろう」


理子の気持ち。


「深く沈めているものを掘りおこして、お前が聞き出そうとするのなら、
その『思い』を一緒に背負える覚悟と器を持ってからでないと、逆に失礼だぞ。
聞いて受け止めきれなかったら、結局辛いのは理子ちゃんだ。
こっちに戻ってきて、納得いかないからと突っ走るのはよくない」


鬼ちゃん……


「聞いてたの?」

「聞いていたわけじゃないけど、社長が寝ていて、奥さんが台所にいたからさ、
こっちが静かすぎて聞こえてきた」

「そっか……」


理子の思い。

洋平を徹底的に避け続ける理由。

人生が変わるかもしれないようなことを、やり続ける理由。

何があったのか、何をずっと……



心に抱えているのか。



「そうか……そうだよね」


私なりに、二人を思っているという『理由』を貼り付けていたけれど、

それはあくまでも自分都合。急に戻ってきて、まだ就職さえ出来ていないのに、

かき回そうとしているようにしか、今の段階では見えないかも。


「おやすみ」

「あぁ……」


『東京』から舞い戻り、親元でご飯を食べ、ぶらついている私に、

理子の『思い』を受け止めるだけの準備と器はまだなかった。

鬼ちゃんに言われた言葉を噛みしめながら、私は一人階段を上がる。

部屋の扉を開けて、中に入ると、『サンサン』を手に取った。

畳の上で横になり、顔に『サンサン』をくっつけてみる。

変わらない肌触りと、使い慣れた洗剤の香り。

ふわりとした優しいぬくもり。

『サンサン』を両手で持ち、まじまじと見た。

30センチの小さな体しかないのに、『サンサン』のこの格別な癒やし。

1メートル50センチと言われている『ビッグサンサン』が、

もしこの場にあったら、体のサイズと同じように5倍癒やされるだろうか。


「クシャン……」


私は『サンサン』を元の場所に戻す。

1階から『お風呂に入りなさい』という母の声が聞こえたので、

『わかった』とすぐに返事をした。





『今日は楽しく紅茶とクッキー』


電車に揺られながら、『龍海旅館』のブログを開けてみた。

そこに『ぬい撮り』の特集ページがあり、

『龍海旅館』や『海ひびき』で撮影した、

ぬいぐるみ達の『イメージフォト』が掲示されている。

そこからハッシュタグで各ブログに飛ぶことも出来て、

ある人のところに訪れると、『七海』の色々なお店で、

『ぬい撮り』をしているのがわかった。

そう言えば鬼ちゃんが話していたな。

商店街もみんな、協力しているって。うちにもB5サイズの畳、確かにあったし。

温泉饅頭のお店も出ているし、洋平のところで見た『ドラゴンビール』も……



『理子には言うなよ』



洋平か……。しばらく『伊東商店』には行かない方がいいな。

私は電車が走る方向を見ながら、浮かんだ曲を頭の中だけで歌った。





「東京で」

「はい」


『ハローワーク』の情報だけだと限りがあると思い、

携帯電話で自分なりに調べた企業を受けに行く。

この会社は惣菜を主に作り、近くのスーパーなどに卸しているらしい。

仕事は事務と経理。


「26歳ですか」

「はい」


一応の仕事経験は履歴書に記入しているが、具体的にどういう企業だったのか、

それなりに話をする。社長さんは履歴書を見ながら頷いてくれて、なかなか好感触。


「まぁ、うちはさ、あなたの親世代ばかりだから、
人生の相談には、乗れるかもしれないね」


『親世代』と聞き、何気なく周りを見ると、確かに事務所にいる人は3人とも、

結構ご年配の方。


「見ての通りだから、とにかくパソコンだのネットだの、そういったものに弱いんだよ。
だから募集もこっちにしてみてね」


社長さんは、自分の携帯を手に持つと、指で示した。

つまり、ネット関係から就職情報を見る人なら、それなりに知識持ちだろうそういう意味。


「坪倉さんも出来る?」

「えっと……まぁ、ある程度のことなら」


このお店の雰囲気では、最先端でなくても大丈夫だろう。


「ここがね、工場です。まぁ、事務担当だと、入ることはないと思うけどさ」


面接の後、一応見せていただいた惣菜工場にも、白衣や帽子をかぶった女性が働いている。

確かに『親世代』ばかりが働く場所だった。


「坪倉さん、26歳でしょう、親はそろそろ結婚しなさいと言わないのかい?」

「そうですね、あまり干渉しない親なので……」

「そう」


話を聞きながら、話しながら、私の中で動いていた頭の歯車が止まった。

仕事内容を重視して、この環境部分までわからなかった。

そのためにここへ来たのは来たが、まさかこれだけ平均年齢が高いとは。


「あぁ……腰が痛いよ」

「そうそう、バスターミナルの裏にさ、新しく整形外科出来たでしょう……」


聞こえてくる話題は、『体のこと』ばかり。

別に、新しい職場で恋人まで探せるものだと思っていたわけではないが、

多少、同年代として話が合う人がいないと、

毎日結構な時間を一緒に過ごすのだから、気持ちがついていかなくなる。

私は、話を聞いているふりをしながら、そう考えていた。


【4-5】



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