5 告白の日 【5-4】



『七海』にいる頃は、どこかおかしな街だと思ってきたが、

一度別の場所に立つと、違った顔が見えてくるのかもしれない。

都会のように、人が造り出す街の形も魅力はあるが、

ここには人が入り込めない自然の魅力があって。

電車に乗り、目を閉じていたらつけるくらいの近さだからこそ、

アピール出来るものもあるはず。


「『龍海旅館』は『七海』の目立つ場所に建っているので、
いい意味でも悪い意味でも影響力が大きい。だからここが前進できたら、
このあたりの商店街や市場も、きっとまた、プラスになっていくと思って……」


洋平のお店も、理子のご両親が経営する病院も、

いや、私が知っているあの商店街もみんな、また賑やかな時間を迎えて欲しい。

それは私もそう思う。

鬼ちゃんが頑張ってくれている『坪倉畳店』も……



さらに椋さんと旅館の中を歩き、ゲームコーナーの前を通った。

理子が話をしていた『クレーンゲーム』を発見する。

中には確かにぬいぐるみ。あれがえっと……


「芹沢……」

「はい」


振り向いた場所に立っていたのは、ボン太。

理子の言っていた『レーシック』は本当なのだろう。

先日の車の運転同様、メガネがない。


「会議の時間が、そろそろだから。どこにいるのかと月島が……」

「あ……はい」


ボン太の目がこっちを見る。


「お前、畳屋の……」

「はい、お久しぶりです」


一応、ご挨拶。まぁ、実際には私、

少し前に、車で通り過ぎるあなたを見かけましたが。


「あぁ……」


ボン太はそれだけを言うと、すぐに奥へ消えてしまう。

『畳屋の……』で止めるか、普通。畳屋のなんだって言うのよ、

名前までたどりつきなさいよ。


まぁ、そういえば昔から口数は多くないんだよね、あいつ。

典型的な『お金持ちのおぼっちゃん』で、どこかおどおどしているうちに、

隣町の不良に絡まれていたことを思い出す。

確か、洋平が散歩をしていた犬を驚かして、急に吠えさせたら、

不良達、驚いて逃げたっけ。



「では、すみません。明日は3時頃でいいですか」

「はい」


椋さんは会議に出るらしく、ボン太の後を追っていった。

『龍海旅館』は、代々社長が熊井さん。

となると、跡取りは確かにボン太だけれど……


だけれど……


そう、15代続いた徳川家も、ただまっすぐに跡取りを置いたわけではない。

親の代まで戻って、将軍職を継ぐなんてこともあったもの。

芹沢と言う名を持っていても、2代前まで遡れば、ボン太と椋さんは同じルーツ。

あの雰囲気だと、時期社長は椋さんに傾きそう。



結局、『クレーンゲーム』を見つけ、

『ドリームコイン』で会った話を進めることは、ボン太の登場で出来なくなる。

私は、自転車置き場まで戻り、下に向かう前にあらためて景色を見た。


「『七海』か……」


私たちが『竜宮城』と呼んだこの場所は、椋さんの言う通り、確かに街のシンボルだ。

どんな形でもここがしっかりしてくれていたら、地元の人達の仕事も、

色々な形で生まれてくる。

畳を入れ替える『坪倉畳店』も、商店街でお土産を売る店も、

あの小さなゲームセンターだって、暇つぶしくらいにはなるだろう。

『七海駅』は当然、人が動くし、洋平の店、『伊東商店』は、

宴会などで使うお酒を、ここに納めている。



『『龍海旅館』が前進できたらきっと、このあたりの商店街や市場も、
また、プラスになっていくと思って……』



1つの動きが、さらにまた別の動きを呼ぶ。



私は先日見た場所に向かい、掲示物が残っていないか確認する。

採用面接の紙は、どこにも貼られていなかった。





「菜生が案内ビデオ?」

「うん、お願いされたの。私の声を聴いて、いいなと思ってくれたって」


坪倉家の食卓。

私はこの美声を『ラララ……』の音で表現する。


「内容を見たら、『龍海旅館』だけでなく、観光名所とか、お店とか、
『七海』全体を撮っていたけど」

「へぇ……」


お父さんは私が読み上げる文章を見ながら、自分でつぶやき始める。

いくら練習しても、あなたに仕事が回ってくることはないと言いたかったが、

辞めておくことにした。


「菜生の声、どこで判断したのかな」

「ほら、鬼ちゃんと畳を運ぶとき、声掛け合っていたでしょう」

「声……あぁ、あれか。いや、あれでか?」

「うん、椋さんはそう言っていた」


そう、あの人の鋭いアンテナには、私が『ピピッ』とひっかかったのだ。

その夜は文章を何度も部屋で読み直し、失敗しないようにと魔法をかけるため、

まくらの下にメモを敷いて寝ることにした。





次の日、午後3時まであと10分という時間に、私は『龍海旅館』に到着。

昨日と同じように事務所で名前を言って、昨日と同じように企画室へ向かう……



と思っていたのだが。



「どうぞ」

「失礼します」


今日、通されたのはボン太のいる部屋だった。


【5-5】



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