9 後悔を聞く日 【9-1】

9 後悔を聞く日



芹沢さん、『ごゆっくり』だなんて……

いやいや、私だってここにいたいわけではないのです。

この剛が……もう!

今日は本当に最悪な日だ。朝から怒られたし、こんなところ見られたし。


「へぇ……すごいな、菜生。ほら、見所とか付箋を貼ってくれているよ。
細かいなサービスが……」

「いつそんなこと頼んだのよ」

「いつって……チェックインの時だよ、今、そう言ってくれただろ」


当然だろうという剛の顔。


「言ったよね、私にとってここは職場だって。どうして私がいるときに、
来てもらうようなことをするのよ」

「ん?」


眉毛を上げて、『ん?』って返事、そう、剛の癖。

全然悪いと思っていないよね、これ。私は荷物を持って立ち上がる。


「剛の話は聞いた。とにかくもう、元に戻ろうとは思わないから。
剛がここで創作活動をしようが、温泉に浸かろうがどうでもいいけれど、
話し合いはおしまいです。はい、失礼します」

「菜生……ちょっと待てって」

「待たない」

「とにかく俺の気持ちは変わらないからさ」

「結構です」


カバンを肩にかけて、とにかく部屋の扉を開ける。

どうして私、こんな男が好きだったのだろう。

東京のごちゃごちゃした場所だと、素敵に見えていたのかもしれないけれど、今は……


「菜生! ほら、ハンカチ忘れている」


忘れ物だと言われ、振り返ってみると、廊下をちょうどボン太が曲がってきたところで、

その斜め後ろには、月島さんが難しそうな顔をして立っていた。





「ごちそうさま」

「お風呂、入りなさい」

「うん……」


あれから家に帰り、着替えて食事をした。

当たり前の時間を送りながらも、気持ちは重たいまま。

着替えを取りに行こうと階段を上がっていると、携帯にメールが届く。

しつこく剛からかと思い見てみると、それはお孫さんの手術の成功を祈るために、

東京へ出かけた五代さんからで。



『坪倉さん、ありがとう』



メッセージと一緒についていたのは、あゆちゃんが3色の『にぎにぎビーンズ』を持ち、

嬉しそうに笑っている顔だった。明日の手術前に、応援団が間に合った。

ほっぺたが赤くて、目はトロリンとするくらい嬉しそうに……

最悪に近かった一日の最後に、少しだけ気分がよくなる。


「ほら見て、君たちはこうした笑顔を作り出せる」


『サンサン』をはじめとした、私の『クレーンゲーム』の仲間達。

明日は休みだ、そうだ、『にぎにぎビーンズ』の場所が空いている。

この1週間のストレス発散と、あらたな仲間をゲットするために、

ちょっと足を伸ばそう。



三田島の『ドリームコイン』まで。



「よし、明日は戦うぞ」


私はエイエイオーと言いながら、『サンサン』の手を何度か上に向けた。





『ハローワーク』のために以前来た街、『三田島』。

今日は『クレーンゲーム』をするために到着する。

『ドリームコイン』なら、それなりに面白いものがあるだろうと思い、

やる気満々で扉を開けた。

そう、先日、『満腹宣言』Tシャツを着た男のおかげで、

戦意喪失した『あざらしまくら』。

私はまずはここからとコインを入れ、レバーを握った。

1回目は、小さめのぬいぐるみを落とすことに決め、それが落ちることによって、

周りのぬいぐるみに動きを期待する。

少しでも動いて、ぬいぐるみが別の場所に入り込むと、

『あざらしまくら』の場所も、今よりいいところに動くかもしれない。

『ここだ』と思い、ボタンを押すと、クレーンが下に降りて、

ぬいぐるみの尻尾部分にかかる。


「あ……よし……」


思っていたよりもしっかりかかった。

これなら取れるかもしれないし、もし落ちたとしても、動きは結構ある。

クレーンの片方に引っかかったぬいぐるみは、半分くらい持ち上がったところで、

そのまま下に落ちた。


「あ……」


ダメだ、動きの割に動きがない。

私はまたお金を入れる。

今と同じように、ぬいぐるみを動かすつもりで取り組んだが、

結果は、『リピート』されたかのような、同じ結果に。

おかしいな、作戦は間違っていないはず。

相手はぬいぐるみだけれど、ある程度の重さがある、

周りをずらしていけたら、『あざらしまくら』もずれる。

これでいいと思いながら悔しくて挑戦し、気づけば投資が2000円を越えて行く。

一つだけ小さなぬいぐるみを取ったが、

結局、『あざらしまくら』まではたどり着けなかった。





「七海、次は終点七海に到着します』


ストレス発散のために向かった場所で、ストレスをためて戻ってくる私。

こんなことなら、理子にでも電話をして、

『プロペラ』でクリームソーダを飲めばよかった。

2000円あったら、3杯は飲めるのに。

『七海』のホームで降り、そのまま自転車置き場に向かう。

今日は土曜日、午後なら理子も大丈夫かなと思い、商店街を歩いていく。


「エ……」


昔から商店街の中のある『ゲームセンター』。

ここは景品がたいしたことが無いからと、頭に入れていなかったが、

出てきた人の後ろに見えた『クレーンゲーム』。

私は自転車を止めて、中に入る。



『あざらしまくら』



なんと、ここにもあった。


【9-2】



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