9 後悔を聞く日 【9-2】



「ゲームセンターが?」

「そう、ビックリしたの。あそこってさ、昔はお菓子とかパワーストーンとか、
少し時代からずれたような景品しか、置いてなかったでしょう」

「そうだっけ? 入ったことないからな」

「いやいや、そうなの。それが私がやってみたかったのがあったの。
もう、『三田島』までの交通費返せって……」


一応、そこでも何度かやってみたが、『あざらしまくら』はゲット出来なかった。

あまりの悔しさに『話を聞いて』と呼びだした理子は、

『アイスティー』を飲みながら笑っている。


「でもよかった。私の方から菜生に連絡しようと思っていたの。
『龍海旅館』での仕事どうかなって」

「うん……まぁ、一応やっている」


そう、『一応』という言葉をつけた私。

『清掃』がもちろん大切なことはわかっているが、

仕事という以外の気持ちは、さすがに持てない。

私は理子に、この1週間の慌ただしい出来事を説明した。


「樽井さんが?」

「そう、驚いた。確かに『七海』が出身だと話したこともあるし、
いいところだから行こうよとも言ったけれど、まさか来るとはさ」

「でも1ヶ月滞在でしょう。きちんと予約していないと取れなかっただろうし。
確かに、菜生とのこれからを、考えてくれていたのかもしれないよ」

「いや……いやいや、違う。ウソを3年つかれていたことは、絶対に譲れない」


そう、譲れない。

今ではこれだけ話せるけれど、当時は気持ちまで凍り付くほどだったのだから。


「明日からまた仕事だけれど、剛がいると思うとねぇ……」


両手の肘をテーブルにつき、頬杖をつく私。

そう、1ヶ月も滞在する。

それに、芹沢さんにも、ボン太やあの嫌みっぽい月島さんにも、

妙なところを見られたし。


「なんか楽しそうだね、毎日色々なことが起きて」


理子はそういうと、アイスティーを飲む。

私は、理子に『それならばもっと外に出ておいでよ』と誘いたくなる口を閉じた。

ここからまた、洋平のことを言いだしそうで。


「お兄ちゃんが秋には戻ってくるみたい。どうも結婚を考えている人がいるようで」

「基さん?」

「うん。この間、お母さんと電話でそんな話をしていて」

「ふーん」


理子のお兄さん、基さんは私たちよりも3つ上。

30歳という年齢も見えてくることを思えば、そういう人がいてもおかしくはない。


「出ようかなと思って……家」

「一人暮らしするの?」


クリームソーダに伸ばした手が止まる。


「まだすぐにではないけれど、でも、そういうことも考えないといけないかなって」


理子は、『七海』ではなく、

電車でいくつか駅を移動した場所に部屋を探そうかと思っていると話す。

休みの日には時々、不動産屋を見ているのだと初めて聞いた。


「なんだかもったいないね、理子の家、部屋もあるしさ」

「そうだけれど……」


基さんが戻ってくることを理由にしているけれど、話をすればするほど、

洋平の顔が浮かぶ。『七海』にいれば、噂も聞くし、顔を合わせることも多い。

私はクリームソーダを吸い込みながら、何も言えない空気まで、

飲む込む気分だった。





『龍海旅館』勤務、休みの翌日、

またいつもの時間に出勤し、作業服に着替えを済ませる。

五代さんは今日、東京から戻ってくるらしい。

お孫さんの手術も無事終了し、きっと胸をなで下ろしているだろう。

ホースの水かけから、ブラシでこする。

さらに洗う場所、そして補充など、今では誰に指示をされなくても、

こなせるようになった。その分、頭の中に余裕が生まれてきたのか、

少し疑問点も浮かび上がってくる。

お客様用に用意している、シャンプーやリンスの消耗品だが、

ここではボディーソープや石鹸まで、全て同じメーカーのものを使っている。

東京で企業の営業事務をしていたため、これは戦略なのだとすぐにわかった。


『メーカー統一』


これは営業マンにとってみれば、何よりも嬉しいことになる。

商品の納入も一気に出来るし、とにかく消費量が多い。

旅館側からしたら、当然、割引率をその分あげて欲しいと言える。

互いに『メリット』があるのだから、いい関係を続けようとするだろう。

しかし、表があれば裏もあり、商売では互いの結びつきが強すぎると、

競争というもの自体が狂いはじめ、癒着という嫌な言葉まで連想させられた。

そう、実はこの企業、浴室以外の場所にも進出している。



『トイレキラン』



私がトイレ清掃をする洗剤も、そして芳香剤といえるものまで、

全てが同一メーカーのものになっていた。

確かに大手の企業であることは間違いないが、

シャンプーなどはいい商品が多いとしても、

芳香剤はもっとおしゃれでかわいいものが、他のメーカーから出ているはず。

なんとなく気になり、事務所の中の小さなキッチンを見に行くと、

やはり、台所洗剤も同じメーカーのものだった。





「どれくらいの割引になるかって……」

「そう、同一メーカーに揃えれば、相当相手も儲かるでしょう。
だって、『龍海旅館』20部屋あるから、そこに泊まる人が使ってとなると、
1ヶ月は30日で、それをかけていくわけだし……」


そう、『龍海旅館』に来るお客様で、お風呂に入らないという人はほぼいない。

部屋数が人数ではないため、実際の人の数はさらに膨らむ。

消耗品の量は、やはり相当だろう。


「まぁ、どれくらい引くかは、交渉次第だろうけれど」

「交渉ね……確かに」


私はその日の仕事帰り、洋平の店に立ち寄った。

私より商売感覚があるだろうし、『龍海旅館』との付き合いもあるから、

そういった知識も当然上だろう。


「お前、妙なところに気づくな」

「妙かな。だって毎日同じ場所にいるでしょう。
容器を洗ったり、少なくなったものを補充したり、自然と目に入るし」


同じマーク、同じ色と形。


「あ、そうか、『龍海旅館』ではこのシャンプー使っているのかと最初は思ったの。
数年前に流行ったけれど、今はあまり聞かなくなった気がするなぁ……なんて。
で、リンスを見たら、さらにボディーソープを見たらってなって。
まぁ、でも、旅館のお客様はどちらかというと年配の方が多いから、
名前を知られているものがいい、そういうことかな……とか」


そう、うちの両親もどちらかというと『メジャー企業』のものを信用する。

『名前こそ信用』。その考え方はこびりついていて。


「でもね、トイレでも使われていた洗剤などが同一メーカーだったから、
首を傾げたのよ。ここは別メーカーではないのかな……って」


私のつぶやきに、洋平は『酒のように目の前に出てこないからな』と言い、

伝票を棚にしまった。


【9-3】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント