14 結果を拾う日 【14-5】



「これ?」

「そう。『龍海旅館』に入れた座布団があるだろう」

「うん」


そう、芹沢さんから頼まれた畳を使った座布団。

秋くらいから『海ひびき』で利用されるという話は、すでに聞いていて。


「それを少し改良して、作ってみたんだ」

「へぇ……おもしろいかもね」


畳の材料にも、色々と余りの部分が出てくることがあって、

鬼ちゃんはそれをうまく利用して、新しいものを生み出そうとしている。

『コースター』に『ティッシュカバー』。さらに畳縁だけの販売。


「マスキングテープってあるだろう」

「あぁ、手帳とかに貼り付ける」

「そう、そういう雰囲気で売り出してみたら、売れた」

「エ……そうなの?」

「うん、アクセントになるらしい」


和の模様だけでなく、今、畳縁に使うものも、結構デザインに凝っているものが多い。

家具などのアクセントにこれだけを買っていく人も多いと聞き、驚く私。

『仕事が来るのを待つ』ではなく、自ら攻めていく姿勢。

父と母が毎日過ごしているだけでは、絶対に生み出せなかった物。


「ねぇ、鬼ちゃん」

「ん?」

「どこから、気持ちって切り替えられた?」

「どこからって……なんだよ」

「だからさ。ほら、鬼ちゃんがここに来たのは、偶然が重なっていたでしょう。
なんていうのかな、現実から少し逃げようとしたというか……」

「うん」


いつもと同じように、鬼ちゃんは手を動かしながら私の話を聞いてくれる。

その『ながら感』が、変な力が入らずに話せるポイントなのだろう。


「畳職人になるのだって、急になれるわけではないし、でも、意地だけでは続かないし、
どこから気持ちって切り替わるのかな……と」


突然悲しい出来事が起きて、もがき苦しむ中、偶然鬼ちゃんがたどり着いた場所、

それがこの『七海』であり、『坪倉畳店』。


「切り替わる……か」

「うん」


最初は、現実と理想に近づけるために、ただ貼り付けていただけかもしれない。

でも、今、鬼ちゃんの中には、別の感情が生まれているはずで。


「そうだな……仕事がおもしろいと思えた時かな」

「畳を作る?」

「あぁ……。もっと覚えたい、もっと知りたいと思えたら、
自然と気持ちは前を向いているのかもしれない」



おもしろいと思えた時……



「そうか」


『龍海旅館』に入り、五代さんから教えてもらったお風呂やトイレの掃除。

『海ひびき』のみなさんとお客様の満足した顔を見る、レストランの仕事。

その一つ、一つをおもしろいと思えたら……



私もまた、ステップを上がれる気がする。



「今日さ……」

「うん」


私は鬼ちゃんに、今日の出来事を語っていく。

母が扉を開け、『ご飯を食べないのか』と言ってくるまで、

私の口が止まることはなかった。





市尾さんの待遇は保留のままだが、芹沢さんが話していた通り、

次の日には『海ひびき』に2名が加わった。

そのため、小林さんは以前のようにフォローの仕事に回る。

本橋さんに頼まれて、

私はお店を抜け、取引先の伝票を芹沢さんのところに運ぶ仕事を引き受けた。

昨日の今日だから、少し気になるところもあったしね。

扉を軽く叩くと、『どうぞ』の声。


よかった、今日はソファーに倒れているわけではなさそう。


「失礼します。あの、本橋さんから……」

「よぉ……」


芹沢さんと向かい合っていたのは、洋平だった。

『結構似合ってるな』と、レストランのユニフォーム姿を評価される。


「あら、ありがとうございます。そうですね、
私、なんでも着こなせてしまうセンスがあるもので」


その場でくるりと回り、こんな台詞を言ってみる。

洋平の褒め言葉には、この返しくらいで十分。


「は? 何言っているんだよ。誰でも似合うように出来ているんだよ、
そういうものは」


一つ言えば、一つ言い返す関係。

さすがは洋平、どんなタイミングで投げても、それなりに打ち返す。


「あ、そうそう、洋平もいつも似合ってるよ、あの『伊東商店』のエプロン」

「エプロンと言うな、前掛けと言え」

「どっちだって一緒じゃないの?」


私は芹沢さんの前に渡された書類を置く。


「ありがとうございます」

「いえ……」

「そうだ、今朝、市尾さんに言われました」

「今朝? エ……芹沢さん」

「お前は坪倉さんまで巻き込んだのか……と」


芹沢さんは、今朝も早くに市尾さんのアパートに向かい、

まずは関口内科に出向き、先生から話を聞いて欲しいと伝えに行き、

そこで言い返されたと言う。


「あ……いや、すみません。理子の家の前で芹沢さんに会った後、
海のそばにいた市尾さんが、健康診断の紙をこうビリビリって破ったので……」


私は、市尾さんがしていたように、両手で紙を破く真似をした。


【15-1】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント