15 梅水晶を知る日 【15-1】

15 梅水晶を知る日



「風に飛んだ紙片がちょうど私の前に来て、見たら気になってしまって。
辞めたい理由が、私たちと合わないからと言うより、体の具合の悪さなのかと……」


私は紙が飛んできたからわかったのだと、そこを強調した。

理子が勝手に、ペラペラ話したと思われては困る。


「あ……そうか、関口先生の娘さんは、坪倉さんの同級生でしたね。
となると、洋平君とも同級生ですか」

「あ……はい」


私と理子と洋平。

洋平は、なんとなく気まずそうに頷いて。


「いいですね、同級生か。大人になってからも色々と語り合える間柄は貴重ですよ」

「そうですね」


私はすぐに洋平を見てしまう。

普通に返事をしているように思えるけれど、心の中は複雑だろう。

私は両方に言葉を出せますが、理子と洋平は色々とあるようなないような……なんて、

芹沢さんには関係が無いけれど。


「とにかく、これ、持って行きます」


気まずさを感じたのか、洋平が立ち上がる。


「すみません、来ていただいたついでにお願いしてしまって」

「いえ、うちの親も市尾さんのことは気にしているので」


洋平は軽く頭を下げると、部屋を出て行ってしまった。

理子といい、洋平といい、『ただの同級生です』と振り切れていないことが、

私にもよくわかっているのに、もどかしい。


「洋平君が、この後市尾さんのところに配達をするそうなので、
手紙を届けてもらいました。僕が行くと、玄関を開けてもらえなくて」

「あぁ……お酒の配達に」

「はい……あ、でも、また言われますかね。
今度は『伊東商店」まで巻き込んだのかと」


芹沢さんはそういうと、笑顔を見せてくれる。


「大丈夫ですよ、洋平なら。そういうところはうまくやります」


芹沢さんは、私が渡した書類を軽く見ると、『ありがとうございました』と言い、

ソファーから立ち上がる。

私はそのまま、『海ひびき』に戻るつもりでドアノブを握ったけれど。


「あの……」

「はい」

「すみません、余計なことかもしれませんが、
『孤独になる覚悟があれば、前に出られる』って……前にうちの父が、
海で芹沢さんと話をした時に、そう言っていたと聞いて」

「……はい」


少し遅れた気がしたが、『はい』という返事、

芹沢さん、本当にそんなことを言ったんだ。


「それは確かにそうかもしれませんが、でも、やはり寂しいです。
一人で何もかも受け止めるのは、絶対にキツイですから」


そう、『孤独』なんて寂しいだけ。

東京で、『同僚』に認められていない、求められていないと思った瞬間から、

私の心は凍り付いた。それが大丈夫だなんて人、いて欲しくない。


「少なくともここには、芹沢さんの思いに賛同して、
一緒に動こうとしている人が、何人もいますから」


そう、芹沢さんが『龍海旅館』をよくしようとして動いていることを、

きちんと認め、その考えについていこうとしている人は間違いなくいる。

今日だって、月島さんの前に小林さんは出てくれた。

『芹沢さんのしていることは、間違っていない』とそう言うために。



『坪倉はこう言うけれど、君たちもそう思うのか』



という上司の問いかけに、黙って下を向くのではなく。

清掃担当の五代さん、それから『海ひびき』の厨房にいる本橋さん、

さらに景山さんも芹沢さんに感謝しているし……

旅館の厨房から、応援団としてきてくれる人達だってきっと……


「私も……微力ですが、この場所をよくしようと思っていますので」


そのまますぐにドアノブをひねり、芹沢さんの顔を見ないまま、外に出る。

廊下をまっすぐ歩きながら、なんだか自分の鼓動が速くなるのを感じてしまった。

何、私、急に宣言してしまって。

あんなふうに……



『孤独になる覚悟』



そう、あの言葉が……それに誰に対しても、

後先考えずに向かっていく芹沢さんの潔さが、少し怖いくらいで。

以前、公園で見かけた時の表情、そしてこの台詞。

芹沢さんの覚悟を感じるからこそ、助けてあげたいと思ってしまう。



『あなたが好きです』なんて台詞も、思わず言ってしまいそうになるくらい。



私なんて全然実力もコネもないけれど、『同僚1』くらいにはなれるはず。


「戻りました」


私は『海ひびき』に戻り、すぐに仕事を再開した。





『七海を見ながらくつろげる、ここ龍海旅館は……』


市尾さんが辞めると言いだし、職場を放棄してから5日が経過した。

『七海』の夏の一大イベント、花火大会のポスターも貼り出され、

一気に夏ムードが広がっていく。

宿泊予約もいっぱいだろうし、『海ひびき』も当日は混むだろうな。


月島さんは、『有給扱い』も限界があるし、本人に戻る気持ちがないのだから、

いい加減にしろと芹沢さんに迫った。その月島さんの話によると、

専務であるボン太も、『どこかで区切りは必要だ』と発言したらしく……。


まぁ、でも仕事は止まらない。この状況ならば、『退職』となるのが、

ごく普通の考え方で。


「坪倉さん、何を見ているの?」

「あ……すみません。休憩終わりですか?」


先に休憩を取らせてもらった私。

後からきたのは景山さんと園田さん。

園田さんは、私より少し早く『TATUUMIグループ』の面接を受けたパートさんだ。

年齢は少し上と聞いたけれど、いつもニコニコしていて、とてもかわいらしい人。


「ううん、あとまだ10分くらいある。お店がちょうど区切りだから、
行っていいって本橋さんに言われて」


『海ひびき』での仕事もずいぶんと慣れてきたので、ため息をついたりすることは減り、

その分、昼休みに色々と考える時間は増えた。

しかし、芹沢さんの心意気に賛同し、何かいいアイデアがないかと思っても、

なかなか浮かばない。


「エ……これ、坪倉さんの声なの?」

「そうです。お恥ずかしながら、素人の私が吹き込みました」


『龍海旅館』の紹介から、『七海』の魅力を紹介するホームページ。

以前よりも閲覧数は増え、感想もちらほらいただけている。

景山さんは携帯でホームページを開き、私の声が聞こえるように耳に当てて、

『本当に坪倉さんの声だ』と驚いていた。


【15-2】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント

こんばんは

拍手コメントさん、こんばんは

>こんばんは、毎日読んでいます。
 菜生のつぶやきも楽しくて、これから恋愛モードになるかなと、
 期待してます。


菜生のつぶやきも楽しんでいただけて、嬉しいです。
色々な人たちを絡めながら、恋愛モード……になる予定ですが。
このままのんびりお付き合いください。