15 梅水晶を知る日 【15-2】



『東京の近くで、これだけ自然があるのですね』

『『七海』と言えば、昔は新婚旅行で有名だったけれど、寂れて沈んだと思っていたよ。
なんだ、今もまだあるんだ』



何このコメント、あるに決まっているでしょう!

土地が急に消えたら、日本中大騒ぎだって。



『子供の頃、好き嫌いが多く泣いてばかりだった私に、
野菜を飾り切りして、楽しませてくれた板前さん。今でもお元気でしょうか。
来週、家族で宿泊させていただきます』



飾り切り……



「景山さん」

「何?」

「景山さん、前に話してくれましたよね。娘さんが椎茸が嫌いで、
で、市尾さんがえっと煮物を……」

「飾り切り?」

「そうです、そうです、それ。確か飾り切りをして、作ってくれたって……」

「そうそう。包丁でお花のようにしてくれてね。市尾さん上手なのよ。
厨房にいた頃も、よくやっていてみたいよ」



『野菜を飾り切りしてくれた板前さん……』



「だとするとこれって、市尾さんのことじゃないですかね」

「ん?」


100%ではないかもしれないけれど、景山さんの娘さんの好き嫌いにも、

『飾り切り』を使ってきた市尾さんなら、昔、お客様に同じようなことをしていても、

おかしくはない。



私は、仕事を終えた後、ホームページの書き込みについて話そうと、

芹沢さんを探すことにした。

お客様は来週『龍海旅館』に宿泊すると書いてある。

となれば、すでに予約をしてある人の中にいるわけで……。



「雑誌?」

「そうなのよ」


芹沢さん、企画室にいるのかと思っていたら、

県の観光協会が出しているローカル情報紙、『てくてく』の記者と一緒に、

『龍海旅館』の中を歩いているだろうと、事務の藤原さんに教えてもらう。

それほど時間はかからないはずだと言われたため、企画室の前で待っていようと思い、

携帯をいじりながら立っていると、ボン太が隣の部屋から出てきた。

無視するわけにもいかないので、軽く会釈。


「『海ひびき』で何かあったのか」

「あ、いえ、そういうことでは……」


携帯いじりを止めて、『お疲れ様です』と一応ご挨拶。

頭の中は『ボン太』でも、立場は専務。


「芹沢に何か用か」

「あ、はい、少し……」


具体的にこうだと言う話でもない気がして、なんとなく濁した返事。


「仕事内容に、問題でも出ているとか」

「いえ、そういうわけでは……」

「それなら、何を……」


あれ、あれ? 面接をした時の、あの反応のなさから一変し、

今日はなかなかしぶとくくるけど。ここでボン太に語るべきなの?


「いえ……えっと……」


どうしよう、ボン太って市尾さんのこと、辞めさせていい派だったよね。

いや、月島さんの話だけ聞いて鵜呑みにするものどうだろう。

顔だけあげて見ると、動かないボン太と目があった。

これは、何かしら語らないと、また大嫌いな沈黙タイムが訪れる。

全くもう、求めていないときに張りきらないでよ。


「それなら、一つ伺いたいことがあります。専務はどう考えていますか?」


そう、聞く気があるのなら、それなら聞いてみよう。

ボン太は芹沢さんを頼りにしているのか、それとも疎ましく思っているのか。

もし『面倒な親戚、もしくはライバル』くらいに思っているのなら、

私にも動き方がある。


「市尾さんのことです。長く旅館の厨房で働かれて、現在は『海ひびき』にいます。
おそらく以前から健康診断で悪い部分が見つかっていたのに、忙しさからそのままで、
今回、ご本人が退職を希望したそうですが、芹沢さんはそれならば所属したまま、
指摘された部分の治療をしてくれと勧めています」


そう、市尾さんが肝臓を悪くしたのは、ここ数ヶ月ではなく、おそらく以前から。

でも、忙しいし、治療をしろとうるさく言うはずの家族もないため、放置されてきた。


「でも月島さんは、健康診断の結果など関係なく、
辞めるのが本人の気持ちだから、すぐにでも退職でいいと話していて……」


『TATUUMI』として関わりを持っている人数は、

正確にどれくらいいるのか私は知らない。ボン太の立場からすると、

『一人』の重みは、一体どれくらいなのか。


「専務は、どちらの判断を支持されるおつもりですか」


さぁ、どっちだ。

ここは本人の口から、芹沢か月島かを聞いてやる。

さぁ、さぁ、どっちだ、どっちなんだ。


「僕は……」


そう、専務という立場のあなたは、どっちなの!

ボン太の唇が……


「坪倉さん」


ボン太の返事を聞く前に、芹沢さんが現れた。

芹沢さんは、立っているボン太に近づくと、取材の打ち合わせが終了したことを話す。


「専務にも挨拶をと言われているので、お願いできますか」

「あぁ……うん」


いや、芹沢さん、ちょっと待っていただけますか。

今、私はボン太に質問をしている最中でして。


「専務……」


ボン太の目が、一度こちらを見た。

ほら、忙しいのなら早く、問いの答えを……


「社長のところに行く時間もありますので、すぐに……」

「あ、うん……」


社長?

ボン太は芹沢さんの提案に数回頷き、何かを受け取ると、

結局、私の問いに答えることなく、その場を去ろうとした。


【15-3】



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