17 ライバル誕生の日 【17-2】



「今日から仕事を教えます、木立です」

「よろしくお願いします、坪倉です」


木立さんは40代だろうか、明るそうな雰囲気の男性だ。

何やら用紙を渡されて、とりあえず椅子に座る。


「まずは、これをしっかり読んでください」

「はい」


木立さんからもらった書類には、フロント業務の人達が行う仕事内容が書かれてあった。

新米の私は、しばらく朝からの勤務シフト。

お客様の宿泊予定を確認し、色々な条件をチェック。

その情報を接客スタッフへ正確に伝えるために記入。

アレルギーについては、注意しないと命にも関わってくるわけで。

さらに、以前、剛が芹沢さんに頼んでいたように、観光スポットの紹介や、

チケットの手配、タクシーを呼ぶことなども仕事に含まれる。

当然、チェックイン、チェックアウトは関わるわけで。

さらに、電話での予約受付、ネットの受付の確認、さらに旅行代理店の対応、

そして見積もりと請求書発行、先日の田川さんのようにクレーム対応。


「どうですか?」

「あ……はい、予想以上に仕事の内容があるなと」

「ですよね」


さらにシフトの管理も自分たちで行うし、ウエルカムドリンクのチェック、

そして、他の部署の応援も含められる。

だからこそ、ボン太をはじめとした管理職の面々も、ここに所属となっているのだろう。


「まぁ、これだけの内容が書かれてますけど、さすがに全員で全部をやるのは、
逆にごちゃごちゃするだけですからね。だいたいは内容をわけています」

「あ、はい」


よかった。そうだよね、これだけの仕事をみんなでまわしていたら、

逆に情報量が多すぎて、漏れの原因になるだろうから。


「何もかもをすぐには出来ませんから、坪倉さんにはまずPC前に座ってもらって、
予約のチェックをお願いします」

「……はい」


予約のチェックか。とりあえず、『文句も言わない』し、

『急な変更もしない』パソコンとお仕事することになり、なんとなくほっとした。

旅行代理店が絡む、大型の予約に関しては、月島さんと芹沢さんが絡んでいて、

特に法人関係は月島さんとボン太がメインのようだ。

あ、そうか、だから、剛が知りあいの会社に紹介すると言っていたのを、

チャンスと思ったわけね。

なんだか専門学校とも絡みが出来たって、嬉しそうに話していたし。


「坪倉さん」

「はい」


田川さんだ。


「これもお願いできますか?」

「あ……はい」


えっと、いいのかな、安請け合いして。


「これは先週宿泊分の名簿書類です。お礼の手紙をこちらから出していいのか、
チェックしてあるので、そこをしっかりと見て、打ち込みをしてください」

「はい。わかりました」


こちらは宿泊済みの名簿か。


「いらないという方に丁寧にお礼状など出しても無駄ですし、
むしろ怒らせることにもなるので」

「はい」


確かに、頑張って怒らせたのでは意味がないよね。

『龍海旅館』では、宿泊してくださったお客様がOKしてくださると、

『お礼』の手紙を出すことになっている。

季節で変わるイベントなどの情報も加えた、ダイレクトメールも、

集客にはなかなかな効果があるという。

予約のチェックと仕事の内容が違うから、どちらかを集中して取り組んだ方がいいな。



「ふぅ……」


ふと気づき、時計を見ると軽く1時間以上経っていた。

なんだろう、東京にいる頃は、PCとにらめっこなんてしょっちゅうだったのに、

『龍海旅館』に入ってからは、清掃だのレストランだの体を動かしていたから、

ずっと座っていると、体が硬くなる気がする。

少し立ち上がって、肩とか首とか動かそう。


「おっと……」

「あ、すみません」


外から戻った木立さんに、私の動かした手が当たりそうになる。


「そうだよな、座りっぱなしだと肩とか凝るよな」

「すみません、よく見ていなくて。ぶつかりませんでしたか?」

「大丈夫、俺、学生時代サッカーやっていたから、よけるの得意だよ」


木立さんはそういうと、足でボールを蹴る真似をした。


「そうですか、それならよかったです。
私、ここに入ってから清掃とか『海ひびき』で動いていたので、
久しぶりのPC作業に、体が固くなると言うか」

「そうか」


木立さんは私の前に座る。


「どう? やってみて、わからないところはない?」

「今のところは、ここにマニュアルを置きっぱなしですけど」


私は隣で開いてあるマニュアルを手で持ち、木立さんに見せる。


「いいんだよそれで。でも、最初だから、あまり気合いを入れすぎない方がいいよ。
緊張すればするほど肩も凝るし。で意外にミスするし」


木立さんは『リラックス、リラックス』と笑ってくれる。


「そうですよね、だから2種類の仕事が、混ざらないようにとりあえず」


木立さんが置いていったものと、田川さんが置いていったもの。


「あれ? 2種類? 俺2種類頼んだ?」

「いえ、あの……こちらは田川さんから」

「田川さん?」


あ、まずいのか、これ。

以前の会社にもこういうことがあったぞ。

仕事をいくつか頼まれて、誰のからやるとか考えたり、そうそう……



『田川が坪倉さんに仕事を振るのは、おかしいな』

『いえ……あの……』

『あいつ、いつも無表情で、こっちにケンカでも売っているのか……』

『いえいえ、ケンカだなんて』


無表情に近いくらいな顔を確かにしていますし、愛想もなさそうですけど……

さすがにケンカは……


「クシュン……」


極端に私よりの妄想タイム、ここで強制終了。


【17-3】



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