17 ライバル誕生の日 【17-5】



私は咄嗟に扉を強く引き、非常口をしっかりと閉める。

今のは誰だろう。



それと……



なんとなく見てよかったのかと不安。

月島さんの視線が、いつにもまして冷たく見えたし。

『2時間サスペンスドラマ』だとしたら、今の私の行為、絶対次に狙われるよね。


『見てはいけないものを見て、あっけなく殺されてしまう善良な市民』



あっけなく……



いや、そんなことはあり得ないと私は首を振り、

とにかくその場を立ち去ることに決めた。

持ち場に戻ると、私を騙し、芹沢さんの手伝いをゲットした田川さんが、

何もなかったかのように、デスクで仕事を開始していた。





「隠された?」

「そう。意地が悪いと思わない? 芹沢さんは私を仕事を振ろうと指名してきたのに、
田川さんって人がそれを言わずに、自分の仕事を押しつけて、自分がそっちにいったの」

「へぇ……」


勤務終了後家に戻り、夕食準備をしながら、母に愚痴をこぼす。


「あ、ほら、この間も話をしたよね。企画室で怒られた……」



『二人の部屋』



余計な情報まで思い出す私。


「ちなみに企画室はね、お母さんが以前話していたような、二人の部屋ではないから。
だって、田川さん、私と同じ場所にデスクあるし」


そう、落ち着いて考えたらそれが当然。

あの部屋には芹沢さんが使うデスクしかなかったもの。

あるのは応接セットと、パーテーションと、向こう側のダンボールがいくつかで。


「何、その『二人の部屋』って……」


母は『誰と誰の部屋よ』と、首を傾げている。


「あ、そう、忘れているのならいいよ」


無理に思い出させないとならないほど、重要な情報ではない。

私は食器戸棚から、数枚の皿を出す。


「田川さんってさ、なんか冷たいのよね、挨拶はするけれどそれだけで」


接客業をする人が、すべて愛想のある人だとは思わないけれど、

声をかけにくいなと思う人は、今のところ関わった中では田川さんだけで。



あ、月島さんは別格。



「色々な人がいるわよ、世の中。初めての人でもニッコリ話せる人もいれば、
思ったことが言えなくて、じっと我慢してしまう人もいたり」


母はお味噌汁の味見を済ませ、納得しているのか一度頷く。


「でも、菜生の方から毛嫌いしない方がいいわよ。なんていっても先輩だし、
これから助けてもらうことだって、きっとあるだろうから」

「助けてもらうこと……か」


まぁ、確かに。フロントと仲居の業務を両方学ぶとなると、

確かに助けてもらうことがあるかもしれない。


「そうだね、気をつけるよ」


私はそれぞれの箸を取り、食卓に並べていく。

工場を開け、何やら計算機を使っていた鬼ちゃんに、『ご飯だよ』と声をかけた。


「あれ? お父さんいなかった?」

「社長なら町内会長さんと……」


鬼ちゃんは、『今、工場の前で話をしていたけれど』と道の向こうを見ようとする。

道路のこちら側にも、あちら側にも、人の姿はない。


「あれ……いないなぁ」


ようするに、二人は飲みに行ってしまったのだろう。

家族の誰かに言えば、『また行くの?』という顔をされることがわかっているため、

UFOにでもさらわれたかのように、気配を全く残さない。

私は母に『お父さんが会長さんと旅に出た』と告げた。


「エ……うそ」


母はお玉を持ったまま、工場を見る。


「何よ、もう。お父さんの分までお魚を焼いちゃったのに」


母は、ブツブツ文句を言いながらも、それで父とケンカになることもなく、

3人になった坪倉家の夕食では、鬼ちゃんのお皿に魚が2切れ乗った。





『フロント』の補助業務として仕事をし始めてから、数日が経った。

主な仕事は、まだまだPCだけれど、やり方を覚えてきたから、

最初の頃よりかかる時間が明らかに減った。

となると、『空き時間』が出来てくるわけで。


「おはようございます」

「あら、坪倉さん」


仕事と仕事の空き時間を使って、清掃担当のところに向かう。

というのも、お客様が残してくれたアンケートの回答で、

ぜひお知らせしたいことがあったから。


「『清潔感は、今まで泊まったどこよりも上です』だって……」

「あら、本当だ」

「ですよね、読んだ瞬間、どうしてもみなさんに見せたくて来てしまいました」


いただいたアンケートの内容は、関係ある部署になるべく回るようにしているが、

コメントをまとめたものになっているため、筆跡を感じることが出来ない。

そのため、薄っぺらくも見えてしまう。

こうしてお客様が書いた、本物の用紙を見ることが出来たら、さらに嬉しくなるだろう。


「いいの? こんなところに油売りに来て」

「ひどいなぁ、五代さん。油を売りに来ていませんよ、ちゃんと用事があります」


私は清掃担当の洗剤や道具がなくなっていないかなと、

五代さんからチェックシートを受け取っていく。


「はい、確かに」


必要な洗剤名、やはり以前と同じように、あるメーカーのものが並ぶ。


「それと五代さん」

「何?」

「実は……」



『数年前までは使っていたみたいなの。でも、急に統一されたらしい』



そう、以前も『龍海旅館』を利用していたお客様の別アンケートには、

以前は、シャンプーが2種類あったので、選べたのがよかったと書いてあった。

清掃担当をしている時にも感じていたことのため、五代さんに話を振ると、

やはりみなさんもなぜ急に統一されたのかわからないらしく、首を傾げていた。


【18-1】



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