18 天気が崩れた日 【18-1】

18 天気が崩れた日



「この部屋?」

「うん」


理子から呼び出しを受け、仕事が終わった後『プロペラ』に向かう。

話の内容というのは、理子が引っ越し先を決めたと言うこと。

『七海』から駅が4つ動いた場所にある、『1K』のマンション。

お風呂とトイレはしっかり別で、3階建ての2階部分。


「最初は1階しか空いていないって言われて。場所や間取りは気に入ったから、
どうしようかと思ったけれど、防犯を考えるとね」

「1階は……うん、なるべく避けたいよね」


そう、私が東京に住んでいた時にも、業者の方からそれは言われた。


「そうしたら一昨日かな、2階が出ますよって連絡が来て。
見に行くのはこれからだけれど、それならいいかなと……」

「うん」


引っ越し先をどうするのか話をしている中で、理子が実家の仕事の手伝いを辞め、

仕事も新しくしようとしていることも初めて聞かされる。


「エ……そうなの?」

「うん。いずれはそうしようと思っていたから、引っ越しをするのがチャンスかなと」


引っ越しをすることは納得してくれたものの、

仕事を辞めようとしていることは話していなかったため、

お母さんが反対していると言う。


「それはそうだよ。私もそれは考えていなかったわ。
仕事も辞めたら、実家からますます遠ざかるでしょう。
理子はきちんと仕事をしていたし、これからだってすればいい。
基さんだって、それも辞めろとは言わないだろうし」

「お兄ちゃんはそうだろうと思うよ」

「お嫁さんになる人、そんな意地悪なの?」

「ううん……すごくいい人」

「なら」

「私がね、けじめをつけたいの」


理子はそういうと、『ナウミタン』にフォークを絡めていく。

『けじめ』とは何なのか。

私が東京から『七海』に戻ってきて、そろそろ3ヶ月。

まだまだ一人前とは言えないし、100%の言葉も着いてこないだろうが……


「ねぇ、理子」


私は、もう一度気持ちを前に出そうと決めた。


「前に話をした時には、私自身が東京から逃げてきたばかりで、
よく考えたら、数年間、ほとんどこっちに戻っても来なかったのに、
理子のことを責めるような言い方をして、申し訳なかったけれど、今はさ、
少しずつだけれど、仕事も頑張っているし、『これから』も考えるようになった。
だから言わせてもらう」


通り過ぎるような他人ではないから……だから。


「また言うのか、気に入らないってそっぽを向くのならそれでもいいよ。
このまま……心に何かを抱えたまま、知らんふりをして付き合っていくのなんて、
理子と私の関係ではないと思うから」


幼い頃から一緒に過ごして、大きくなってきた親友。

だからこそ、放っておけない。

臭い物に蓋をするような、そんな上っ面な付き合いは嫌だ。

他の人には言えないことが言えるからこそ、親友。

理子は下を向き黙ってしまう。


「結婚したくないからとか、洋平とは幼なじみだけでいいとか、
別に何もないなんて、私には言わないでよ」


『七海』との関わりを、全て断とうとしているのは、

ここに洋平がいるから……そうとしか考えられない。


「理子……今の状態じゃ、一緒に泣いてあげることも出来ないよ。私は……」


そう、私はいつも理子に助けてもらってきたから。

話を聞いてもらい、また明日も頑張ろうと思うことが出来たから。

私も理子にとって、そういう存在でいたい。


「私は、理子の苦しさとかを理解したいし、一緒に解決出来ないかとか、考えたいの。
今の私では、まだ信用出来ない? 本当のこと話せない?」


まだ、理子に心を語ってもらえないのだろうか、今の私では。

子供の頃のように、何も考えずに、屈託無く笑うことは出来ないかもしれないけれど、

でも、今の状態は……


「ごめんね……菜生」


まだ……


「まだダメなのか……」


私ではまだ……


「わかった。ならもういいよ、もう理子とは会わない」

「エ……」

「……なんて言えないよ、私は一生」


そう、言えやしない。


「だって、私は理子が友達でいてくれないと、絶対に寂しいからさ。
私はこれからも理子に色々と話を聞いて欲しいし……ずうずうしいけど」


私たちの、互いへの思いに差があったとしても、私は理子が大好きだから。

もう会わないなんて、言えない。


「ずうずうしくなんてないよ」


理子の言葉を受けながら、互いに『ナウミタン』を食べ進めていく。

ウインナーとピーマンとタマネギ。

ケチャップの中で一緒になって、甘かったり少し苦みがあったり……


「こんなものがさ、世の中で一番くらいに美味しいものだと思っていた時期、あるよね。
知らないからだけどさ、色々な美味しいもの」


私は『こんなものなんて言って、ダメだよね』と舌を出す。

目の前の理子の顔が、少しだけゆがんで見えて。


「ごめんね、菜生」

「理子……」

「菜生がダメとか、そういうことではないの。私の方が全然ダメで……」

「何言っているの」

「私だって菜生が友達でいてくれなかったら……寂しすぎるよ」


理子、涙声。


「菜生……もう少しだけ待ってくれる?
『七海』を出たら、けじめをつけられたと思ったら、そうしたら話をするから」


『七海』を出たら……


「うん、わかった。待っている」


理子が『七海』を出て、自分なりのけじめをつけて、

前を向けるようになったらきっと、過去を話してくれるはず。

それからは私の愚痴が7割、若手俳優の活躍ぶりの話が3割という話の内容になった。


【18-2】



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