18 天気が崩れた日 【18-5】



理子を悲しませるなんてこと、洋平がするわけない。


「罰を受けるのは私なのに、洋平じゃないのに……」


罰……罰って何?


「理子、落ち着いて。ねぇ、ゆっくり話を聞くからさ、ここじゃ……」

「ダメ……もっとお願いしないと、私なんかどうなってもいいから。
洋平のことお願いしないと……」


理子は何を見ているのかわからないような、定まらない視線で、

『大丈夫だからほっといて』と言い、私をはねのけようとする。


「私のせい……私の……みんな私のせい」


理子がこれだけ取り乱すところなど、一度も見たことがない。

罰を受けるようなことって、何があったの……


「理子!」


理子の肩をつかんで、一度強く揺らした。

とにかくこっちを向いてもらうようにしないと。


「それなら私もここにいる。理子が離れないって言うのなら、私もここに残る」

「菜生……」

「落ち着いて理子。洋平を思う気持ちは、私だって一緒だよ。大事な友達だもの、
朝までずっと拝みたいよ。でも、意地になってここにいるって無理をするのは違うと思う。
祈ることならどこでも出来るでしょう」


そう、洋平ならそんなことを喜んだりしない。

理子がここで、暗くて誰もいないような場所で拝み続けることなど、絶対に望まない。


「こんなことをしていたら、洋平が怒るよ」


曲がったことが嫌いで、私や理子に、いつも正論をぶつけてきた。

いや、違う、私だけだ。あいつは理子に、メチャクチャ甘くて。


「『七海神社』の神様。伊東洋平は真面目に働き、この『七海』を愛している男です。
どうか、その辺をたくさん最大限に考慮していただいて、
この困難から救い出してください」


お願いの仕方が正しいのかどうかわからないけれど、

『七海』を見続けている神様なら、わかるはずだ。

大きな声でそう言い切ると、『よし』と気合いを入れて理子の手を握る。


「行こう」



理子を神社から連れ出し、私は『龍海旅館』に連絡をすることにした。

夜遅くて失礼なのは承知しているが、これが最善の方法だと思う。

東京から戻り、残っていた芹沢さんのご厚意で、トラブル用に空けていた部屋を一つ、

用意してもらうことが出来た。





「はぁ……お茶、美味しい」

「うん」


ただいま、夜の10時半。

理子の家や、私の部屋ではどちらにも他の人の存在がちらつくため、話づらい気がした。

その点、ここはしっかりと閉ざされた空間。

二人で向かいあいお茶を飲み、静かな時間を過ごす。

私はテーブルの上にあるゼリーを一つ持った。


「ねぇ、これ、『みかんゼリー』だけど、美味しいよ。
前に、芹沢さんから声の吹き込みを頼まれた時に、お礼でもらったことがあるの」

「うん」

「理子、どうせ何も食べていないでしょう……」


理子は小さく頷く。


「まぁ、そういう私も、夕食半分くらいしか食べられなかった。ほら、これなら……」


私は『みかんゼリー』を理子の前に置く。

理子はそれを手に取るが、食べることはせずにしばらく見ていて。


「ごめんね、菜生。色々迷惑かけて。お部屋代は払うから」

「何を言っているの。そんなこといいんだって。
ほら、理子が払うとお客様だけれど、私なら社員割引だよ」


もったいないと言った後、私はお茶を飲む。


「社員割引?」

「そう、私の働きぶりがいいから、芹沢さんがすぐお部屋用意してくれたでしょう」


実際には、大荒れの天気にキャンセルが入ったから、

用意してもらえたと言った方が正しいかもしれない。

トラブル用の部屋だが、明日からはあさっての花火大会に向けて、余裕はないはず。

この1日のズレで、救われた。


「そうか、そうだね。菜生はすごいね」

「お……そうそう、ありがとう」


理子の表情が、少しだけ和らぐ。

子供の頃から、理子はいつも私の話を聞いてくれて、くだらない私の自慢も、

きちんと感動してくれた。鉄棒の連続前回りの数を横で数えたり、

波のギリギリに立って、靴が濡れないかどうか試してみるうような遊びにも、

理子は真剣に付き合ってくれて。


「理子は本当に優しいよね。いつもそばで応援してくれてさ。
私にもし、すごい部分が少しでもあるのだとしたら、
その半分くらいは理子の応援があったからだよ」


たいしたことではなくても、褒められたらやる気も出る。

あまりにも『やる気』を前面に出すと、洋平がいいタイミングで止めてくれて。


「私が半分なんてないよ。菜生の思い切りの良さが大好きだから、
だから正直に話していただけだもの」


無理をしてそばにいるのではなくて、心の底から求め合える関係。


「あ、そうだ、お風呂も入っていいって言われたけれど……」


理子は『いい』と首を振る。


「そっか……それなら、布団敷く?」


ここに来るまでは、理子の心の奥にあるものを聞き出そうと思っていたけれど、

この状況で、さらに辛い話をさせるのが正しいのかわからなくなっていて。

どっちでもいいと思ってしまう。


「まくらとかさぁ……すごく……」

「菜生、ここに座って」


立ち上がった私に、理子がかけてくれた言葉は、話が始まることを意味していて。


「うん」


理子が話す気持ちになってくれたのなら、私は聞くだけ。

元の場所に戻り、私は急須の中に残されていたお茶を、それぞれの湯飲みに入れきった。

音のない部屋。

知らない人との時間なら、居づらくて自分からアクションを起こしてしまうけれど、

理子となら平気。

何時間でも、待てるから。



だから、理子のタイミングで……



「高校2年の夏だった」


理子の話が始まる。


「一花とは2年生で一緒のクラスになって、すぐに仲良くなれた。
一花もね、菜生と一緒で、すごく思い切りのいい人なの」


「うん……」


私も、小原さんとは数回会ったことがある。

髪の毛はショートで、背は私たちよりも少し高くて。

やはり、理子の悩みはこの人のことだった。


【19-1】



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