21 印象を変える日 【21-1】

21 印象を変える日



『七海』駅前に1件あるコンビニ『ハウスフレンド』。

そう、確かコンビニで、こういう写真をプリントアウト出来たはず。

そのコピー機械の前に立ち、いざ写真を出そうと思うものの……



思うものの……



「えっと……」


思うだけで何も進まない。

『アプリを起動』だの、『データ保存の場所』だの、自分の携帯とはいえ、

やったことがないことをやろうとすると、迷いが出てきてしまう。

こんなことをしていたら、次に使いたい人が来て、『早くしろよ』という意味で、

足をトントンやられてしまう。


「すみません」


こういう時には店員さんだと思い声をかけたが、

来てくれたのは母に近いくらいの女性で……


「写真?」

「はい。このスマホの中にある……」

「ごめんなさい、こういうのはよくわかっていなくて……。
昼間だと、詳しい若いバイトさんが来るのだけれど……」


昼間……


「わかりました」


一度家に戻ろう。鬼ちゃんならわかるかもしれない。


「すみません、お待たせしました」


店員さんと話している時に、そばにきた人がいたため、謝って機械を譲ることにする。


「坪倉さん」

「エ……」


機械を待っていたのは、田川さんだった。



「あぁ……ありがとうございます。助かりました」

「いえいえ、私もよくここでプリントするから」


機械を知っていた田川さんに、結局教えてもらいプリントが出来た。

これで明日、あの女の子が喜んでくれるだろう。


「あ……これ、『波の綾』の女の子」

「わかりますか」

「うん……このぬいぐるみを持って、お土産コーナーの前を女の子が歩いていたから。
少し要注意かなと思ったの。小島さんにも話しておいたし、小島さんもわかっていた」


担当をする小島さん。ベテランの仲居さんだから、宿泊客の雰囲気を見て、

感じていることがあるのだろう。何がどうという具体的な指摘は私も出来ないが、

確かに少し違和感がある気がする。


「それじゃ、また」

「あ……ありがとうございました」


私は田川さんに頭を下げて、『コンビニ』を出る。

なんだろう、フロント業務になってから1ヶ月以上が経過しているけれど、

こんなふうにフラットに話が出来たのは初めてかもしれない。



この前、ゲームセンターから出てきた時の笑顔や、今日のこと……

案外、悪い人ではないのかも……

そうだ、そもそも、私と田川さんの間に出来た溝は、芹沢さんがらみ。

向こうに相手がいるとなったら、そもそも戦う相手ではない。

私は自転車をこぎ出し、家への道を進んだ。





次の日、『龍海旅館』に出社すると、すぐに木立さんにつかまった。

何か急ぎの仕事があるのかと思い身構えると、今朝、6時くらいに、

『波の綾』の女の子がパジャマのまま部屋を飛び出し、

その後、フロントに連絡が入ったと言う。


「朝の6時ですか」

「あぁ、女の子が大泣きしたままフロントに走ってきてね。
スタッフが一緒に部屋に向かったら、色々なものが散乱した暗い部屋の中に、
お母さんが座り込んでいたって。どうしても思い切れなかったと泣かれてしまって……」


この『龍海旅館』で立原さんは、娘さんと一緒に命を絶とうとしていた。

『思い切れなかった』というのは、それが実行出来なかったということ。


「芹沢さんが今、『波の綾』に入っている。
坪倉さんが来たら、娘さんと約束している写真を持ってきてくれってそう言っていた」

「はい」


私は制服に着替え、昨日の写真を持ち、『波の綾』に向かう。

ノックをし、声をかけてもらい、そのまま扉を開けた。


「あ、昨日のお姉ちゃんだ」

「おはようございます」


『波の綾』では、芹沢さんとお母さんが向かい合って座っていて、

女の子は、落ち着いたのか、自分の買ってもらったおもちゃを広げて遊んでいた。


「坪倉さん、申し訳ないけれど、智奈実ちゃんといてもらっていいかな」

「はい」


芹沢さんは、ここでお母さんと話をするつもりなのだろう。

小さな子供に聞かせたくない台詞も出てくるはず。


「智奈実ちゃん、あっちでジュースでも飲もう」

「写真は?」

「ちゃんと持ってきたよ」


私は制服のポケットを軽く叩く。


「見せて、見せて」

「うん、だから一緒に行こう」


私はぴょんを持つ智奈実ちゃんを連れ、ロビーに向かう。

『オレンジジュース』をお願いして、写真を出してあげた。


「うわぁ……ありがとう」

「いいえ」


ぴょんがロッキングチェアに座った写真。

豆絞りを頭に巻いて、『いい湯だな』状態の写真。

智奈実ちゃんがぴょんを持って、笑っている写真。

たった数枚の写真に、これだけ喜んでもらえるとは。

やり方を教えてくれた田川さんに、感謝しないと。


「ママ……これを見たら元気になるかな」


智奈実ちゃんは1枚写真を持ったまままそういうと、下を向いてしまった。

どういう状況で今朝を迎えたのか私は知らないが、この子はこの子なりに、

お母さんの苦しみに寄り添おうとしている。


「大丈夫だよ、智奈実ちゃんが嬉しそうにしていたら、ママもきっと、
力が出てくる」

「力?」

「そう。頑張ろうって思えてくる」


私のガッツポーズを見た智奈実ちゃんは、両手で写真を持ったまま、

少しだけ笑顔になって小さく頷いた。


【21-2】



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