23 忘れ物が語る日 【23-4】



気になる……やはりこのまま通り過ぎることが出来ない。


「何かお探しですか?」


思い切って声をかけることにした。社員証を届けてくれたパートさんは、

チェックアウトを終えたお客様がお土産を買うため、対応で忙しくて、

沢田様を見ていない。


「あ、いえ……」

「落としものとか……」


沢田様の顔が、こっちを見た。

でも、すぐにそらされてしまう。


「いえ、すみません、私の勘違いです……」


声のかけ方が悪かったのだろうか、沢田様はお土産コーナーを離れ、

フロント前に立ってしまう。

田川さんが応対しているから、このままチェックアウトだろう。


「菜生、どうした、何かあったのか」

「ううん……ごめん」


声、かけなければよかったのかな。明らかに迷惑そうだった。

私は洋平のところに戻ると、

ウエルカムドリンクをを乗せた台車を、再び押していく。


「誰か知りあい?」

「ううん……お客様が何か捜し物をしているように思えたから聞いてみたけれど、
違ったみたい」

「ふーん」


『沢田久美』

今朝のことといい、お土産コーナーでのことといい、なんか気になる。

フロント奥に戻り、名前を検索してみると、沢田様の予約は電話で取られていて、

パンフレットを送るために聞いた住所は……



『イイヅカナナミ』さんの社員証と同じ、『愛知県豊田市』だった。





「『七海中央銀行』から来ました。金村と申します。今までは……」


その日の午後、お客様のチェックインが始まる1時間前、

フロント担当者が集められ、社長とボン太、そして芹沢さんが前に立った。

今までにないことだったので、何が起こるのかと身構えたら、

そこで、金村さんという新しい人が紹介される。

金村さんは、『七海中央銀行』の三田島支店にいたが、

今日から月島さんに変わり、『龍海旅館』の仕事に関わってくれると話す。

年齢は50歳で、仕事も経験上も問題はなさそうだが、私だけではなく、

木立さんをはじめとしたメンバーも、突然の話に、驚きの方が勝ってしまい、

どう反応していいのかがわからなくなっていた。


「みなさんとお客様の関係性が、円滑にいくように一緒に努力しましょう」


だからといって、ボーッとしたまま終わるわけにはいかず、

どこか動揺したままの社員達も、すぐに頭を下げた。





「エ……月島さん、辞めさせられたのですか」

「静かに!」


その日の仕事の帰り道。

木立さんと私と田川さんが、一緒に坂道を下ることになる。

大きな声を出してしまった後だけれど、とりあえず周りを見た。


「一応、専務は月島さんは銀行業務に戻ったと言っていたけれど、おかしいだろう。
何年うちにいた? 今更戻るか?」


木立さんの言葉に、田川さんも大きく頷く。


「確かに……それはおかしいですよね、あれだけ存在感出していたのに急に戻るって。
しかも私たちに挨拶もないですよ」

「だろう、だから俺は辞めさせられたと思っている」

「理由は?」


田川さんの問いに、木立さんは『いいようにやり過ぎたんだろう』と話す。


「いいように……ですか」

「あぁ……」


私は、以前、月島さんが非常口の裏側で、誰かと話していたことを思いだした。

あの相手が誰なのかはわからないけれど、私の顔を見て、少し気まずそうだったし。


「芹沢さん、『三田島信用金庫』と取引し始めていたからさ、
月島さんは嫌だろうなと思っていた」


木立さんは、『月島さん外しでしょう』と話す。


「それが月島さん外しになります?」


田川さんの返し、私もそう思うという意味ですぐに頷く。


「なるよ。『龍海旅館』は『七海中央銀行』からずっと長い間、融資を受けてきた。
だから銀行側も月島さんを送り込んできて、経営にも口を出していたし……」


そう、そんな話も聞いたことがある。


「それが『三田島信用金庫』とも付き合いを作るとなれば、
『七海中央銀行』はおもしろくないだろう。自分たちが優位に立てなくなる」

「優位に……でも、簡単に融資って受けられます?」


またもや田川さんの方が一歩早い反応。私は同じく頷く。


「そこが芹沢さんのすごさだよ。まずは旅館の建て直しをして、結果を出した。
さらにそこから何度も東京に足を運び、大手代理店や観光関係の企業に出向いたわけ。
新しい『龍海旅館』がどういう客層を見て、経営をしているのかをしっかりアピールした。
まぁ、3年間で矢印を下から上に向けた人だからね。周りも当然、興味を持ってくれる」


赤字から黒字に……

その分、決断も色々とあっただろうが。


「ツアーに組み込んでもらったり、新しいことに取り組んだり、
あ、ほら、坪倉さんが声を吹き込んだ『七海』の紹介も……」


木立さんは、今やお客様を待っているだけでは、勝負にならないと教えてくれる。


「でも、金村さん『七海中央銀行』だって言ってましたよ。
『三田島信用金庫』とは……」

「まぁ、うん……」



『三田島信用金庫』



あれこれ想像の話は続いたものの、結局正解は導き出せないまま、

坂を下りたところで木立さんと田川さんと別れた。


【23-5】



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