24 規則を破る日 【24-1】

24 規則を破る日



私は、以前買ってからお気に入りになっている小さなワインを取り、購入。



『芹沢さんはフリー』



いい情報をくれた『伊東商店』へ、さりげない売り上げ貢献。

用事を済ませたので、自転車で家に戻ることにする。

商店街を抜け、少しだけ登っていく道にさしかかった。

なんの曲だかわからないけれど、自然と出てくるハミング。



そうか……『ビッグサンサン』について芹沢さんが話してくれたあの日。

誕生日プレゼントとしてぬいぐるみを渡そうとしていたのは、友人の遺した娘さんで、

女心とか、似ているなどの台詞も、その娘さんが関連していたのか。

だったら……



『……あ、今のは全て、亡くなった友人の娘について話したことです。
特定の彼女がいるとかではないですから』

『あ、いえ……』

『勘違い、しないでくださいね』



そう、こんなふうに言ってくれたらさ、私も変な心配をしなくて済んだのに。



『菜生が『あなたの考えに着いていく仲間はたくさんいる』って励ましたこと、
本当に嬉しかったみたいだぞ。見舞いに来た日、言っていたし』



神様、芹沢椋さんをこの『七海』に導いてくれたこと、

私、坪倉菜生、生涯忘れません。



ワインはまだ自転車のカゴの中にあるのに、気分だけはすっかり酔っていた。





「ただいま」


ご機嫌な私、玄関に向かわずに、こういう時はいつも工場へ向かう。

『話したい話』は、話を聞いてしっかり反応してくれる人に話したいから。

仕事中の鬼ちゃん、まだ許可ももらっていないけれど、すぐにそばに行き、

簡易椅子に腰掛ける。


「鬼ちゃん……あのさ」

「何だよ、今日は愚痴か、それとも……」

「違う、違う……これが愚痴を言う顔に見える? 今日はね」



『飯塚様』



鬼ちゃんが書いたメモの文字が、チラッと見えた。

住所はうちから道を2本ずれた、4丁目の奥にある一軒家。

畳の表替えを頼まれたという内容……



でも私は、その名字から、お土産もの店で拾われたスーパーの社員証を思い出した。

『イイヅカナナミ』という名前が書かれた……



「ねぇ……鬼ちゃん」

「ん?」

「七海さんってさ、名字何?」



そう、聞きたくなった。

『飯塚様』の文字を見た瞬間、胸にぞわぞわとうごめくような何かが満ちてきて、

マルでもバツでも終わりを示して欲しくなる。


「なんだよ急に」

「いや、イイヅカさんってこと……ある?」


鬼ちゃんの『どういうこと』という顔が、目の前にあった。


「エ……そうなの?」

「どうして菜生が、七海の名字を知っているんだ」

「いや、あの……」



『イイヅカナナミ』



「ここに電話でもあったのか、菜生」

「ううん違うの。そうじゃなくて……」

「ならどうして」

「あの……少し待って」


『飯塚様』のメモから、頭に浮かんだことをすぐ口に出してしまった。

鬼ちゃんの圧、半端ないくらいで。

でも、この状態の鬼ちゃんに納得してもらえるように答えるには、

今浮かんでいる疑問の正解を、自分が知らなければ無理だ。

私は携帯を取り出し、鬼ちゃんから逃げるように外に出ると、フロントに連絡を入れる。

出てくれたナイトスタッフに、忘れ物として預かった

『イイヅカナナミ』さんの社員証は、どうなったのかと聞いてみた。

『少し待って下さい』と言われ、数分待った後、

まだフロントに保管されていると教えてもらう。

私は『ありがとうございました』と電話を切った後、

一度深呼吸をすると、工場で心配そうな顔をしている鬼ちゃんを見た。

七海さんの名字のことを自分から切り出しておいて、

今更『何でもないよ』はいくらなんでもおかしい。


「あのね、今朝、旅館のお土産コーナーの前に、
『イイヅカナナミ』って名前の、スーパーの社員証が落ちていたの」

「スーパーの社員証?」

「うん、でもね、宿泊客にそういう名前のお客様はいなかったから、
一応フロントで預かったのだけれど……『ナナミ』って名前がさ……」

「本当に『イイヅカナナミ』なのか」


話をしながら、だんだん気持ちが重くなった。

事実よりも期待感の方が、数倍も大きく強い。


「うん……片仮名だけど、でも間違いない。『イイヅカナナミ』だった」


そう、間違いはない。


「宿泊していないって……それなら、何か買いに来たのかな」

「いや、あのさ……」

「そのスーパーはどこの? この辺か、それとも……」


自分の思慮のなさにあきれかえる。

鬼ちゃんに語れば、こうなることは予想が出来た。

10年、心の片隅にいつも思っていた人のことだ。

小さな小さなきっかけでも、すがりたくなるだろう。

鬼ちゃんの『知りたい』という熱量を感じながら、私は、今知っている情報で、

どこまで言えるのか、ただ不安になった。


【24-2】



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