24 規則を破る日 【24-5】



月曜日、私はローテーションで休みの日だったが、

朝、鬼ちゃんが『豊田市』に出発したのを確認した後、芹沢さんに連絡を入れた。


『お話があります』


土曜も、日曜も出社していたが、仕事中に言うことではない気がしたし、

芹沢さんに怒られて、鬼ちゃんに渡した社員証を取り上げられても困ると思い、

週末はあまり顔を合わせないように心がけ、仕事をした。



『それなら3時過ぎでもいいですか』



よく指定された3時を受け入れ、私は午前中、『七海』の海を見に行く。

冬の寒い海なんて、あまり見に来る人はいないのではと思っていたが、

釣り竿をたらす人、語り合うカップル、犬とおじいさんなど、組み合わせは色々で。


どこから流れてきたのかわからないペットボトルが、足元に転がっていた。

絶対に日本のものではないとわかるような文字が記されていて。

そのゴミを拾うと、少し先にある収集場に置く。


『龍海旅館』を辞めることになったら、次はどこに就職しようかな。

配送センターかな、それとも……

いや、この問題を作って辞めるとなると、地元では無理かもしれない。

『規則破り』だもの。


「はぁ……」


海風はやはり冷たくて、ここに長い間はいられない。

私は自転車に乗り、商店街を戻ってくる。

ゲームセンターの前に自転車を止めて、中に入ると、

この落ち込んだ気持ちを、少しでもあげてくれるような景品を探す。



『ほんわかくまさん』



少し薄めのクッションだけれど、中にカイロが入れられるため、温かい……か。

悪くはないけれど、頑張ろうかなという気持ちもおきない。

人気のアニメから生まれた商品や、昔からあるようなもの、

ぐるりと一周回って、店を出ようとした時、見慣れたぬいぐるみをみつける。



『ドラとマーレ』

『龍海旅館』の公式キャラクター。



『ぬいぐるみをゲットして、宿泊や食事の割引券もゲットしよう』



ここにも入っていた。

三田島の『ドリームコイン』だけではなくて、地元の小さなゲームセンターまで。



そういえばここで、芹沢さんに会ったな。

景山さんの娘さん、すずちゃんと一緒にいて、『ネコポーチ』取ってあげて、

その後……



氷が溶けないコップ、もらったな。



ゲームセンターを出て、また自転車に乗る。

少し曇ってきた空を見上げると、どこかでカラスが鳴く声がした。





午後3時10分前。

坪倉菜生、提出書類を持ち『龍海旅館』に到着。

大きく息を吸って吐いて、いざ企画室へ。


「あ、坪倉さん」

「あ……あ、うわ……」


芹沢さん、どうして下から上がってきます?

あなたに会うために来ましたが、こんなふうに会う予定では……


「いや、今日は清掃担当の人が足りなくて。それで急遽動いてきました」

「芹沢さんがですか」

「はい、人が足りないからといって、お客様が使う時間までに終わっていませんは、
通用しないですからね」


芹沢さんはワイシャツの袖をめくったまま、片手に上着を持ち、私の前を歩き出す。

足は当然、企画室に。


「何かあったのですか、お休みなのに話があるなんて」

「すみません、こっちの都合で」

「いえ、そんなことはないですけど……」


そう、最初の場所は清掃だった。こんなつもりではないと腹を立てたけれど、

五代さんとの出会いで、学んだことも多くて。

それから『海ひびき』で頑張って、景山さんや市尾さんたちとは今でもよく話す。

そう、持ち場の違う人達とつながっていることは、私にとってすごくプラスだった。

さらにフロント業務に入れて、木立さんや田川さんと会って。

仲居さんたちともコミュニケーションが取れるようになったし、

これからやっと、少しずつ芹沢さんの役に立てると思っていたのに、

こんな形で去ることになるなんて……


「どうぞ……」


芹沢さんは中に入り、いつものようにソファーへ座った。

私にも、ソファーの向かい側を勧めてくれるが、それには首を振る。


「いえ、この場で結構です」


座って向かい合うのは、無理だと思う。

立って話をして、できる限りの頭を下げないと。


「立ったままで話すということですか」

「はい」

「なぜ……」

「そうしたいからです。すみません、このまま話をさせてください」


ソファーと扉の前。

その距離感を保ちたい理由を、どうか察して欲しい。

あなたの目をしっかり見られる距離で、語れる自信がないのです。


「それなら、どうぞ」


ソファーに座る芹沢さんが、こっちを向いた。


「『龍海旅館』で頑張って、この『七海』をまた観光地として盛り上げて行けたらと、
思いながら仕事をしてきましたが、
私は……大切にしなければならない規則を破りました」


『規則を破った』

そのことをハッキリ告げた。


「規則?」

「はい」

「旅館の規則ということですか?」

「はい」


自分がしたことに対して、今更、弁解しようとかではないけれど、

どうしてこうなったのかその理由は語らないといけない。

お世話になったからこそ、きちんと言わないと。


「実は……」


私は『沢田久美』さんのこと、『イイヅカナナミ』さんのこと、

そして鬼ちゃんのこと、それを芹沢さんに全て語った。


【25-1】



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