10 心揺れて

10 心揺れて


大和の家は、地元では結構評判の住宅街にある。

都心と結ぶ電車の急行がホームに入り、スーツに身を包み、

1日の戦いを終えたサラリーマン達が家路を急ぐ。

商店街からまっすぐ坂を上り、最初の信号で右に曲がると景色は一気に変わる。

リビングの明かりが庭の木々の間からもれ、中にいる家族団らんの影を映す。


「ただいま」

「あ、大和君お帰りなさい」


リビングから聞こえてきた声は、母親の礼子だ。

近くのスーパーで長くパートをしながら、主婦としての仕事もしっかりとこなし、

サラリーマンとして疲れて帰ってくる父を支えている。


「美帆は? 戻ってる?」

「あぁ、美帆ね、ちょっと前に駅前の本屋に行ったのよ、もう帰ってくると思うけど、
どう? 夕飯は」

「美帆が戻ってからでいいよ、あいつ、なんだか話があるんだって言ってたから」

「そう……」


大和は階段を上り、今はほとんど使っていない部屋へ向かう。

生活の拠点を事務所に移していたため、荷物が部屋のほとんどを占領していた。


「ねぇ、大和君。美帆の言うこと、あんまり聞いてやらないでね。
わがままばっかり言うんだから」

「うん……」


最後の1段を上り終えたあと、大和は空に浮かぶ月を一度見た。

明日は大学の後輩3人が、近くの空き家の草取りをする予定だ。

怪しい雲がないことに安心すると、扉を開け、部屋へ体を入れる。



『大和君……』

『美帆』



母、礼子に深い思いはないのだろうが、その少しの違いが、大和の居心地の悪さだった。

自分の家だと言われても、どこか間借りしているようなそんな気持ちになる。

美帆がいてくれないと、この部屋から出ること自体、面倒なことだった。

ベッドに横たわり、携帯のメールをチェックしていると、

階段をパタパタと上がる音がする。


「お兄ちゃん、ごめん、開けていい?」

「あぁ……」


扉を開け、入ってきたのは買い物を終えた妹の美帆だった。

女子大の附属高校へ通い、なかなか成績も優秀で、

明るく何でもハッキリと言う性格からか、男女問わず友達が多い。

年齢は10歳違うけれど、大和にとって美帆は、遠慮なく語れる数少ない人だった。


「モデル?」

「うん、男性の筋肉を描かないとならないんだって。みなみ先輩、
一人暮らし始めたばっかりで、課題に取り組むのが遅かったからか、
頼めるような友達も見つけられなくて、困ってたの。
でもさ、上半身とはいえ裸になるから、誰でもいいってわけにはいかないでしょ。
お兄ちゃんでもいたらよかったのに……ってぼやいていたから、
うちにいますよ! って手をあげた」

「は?」

「『フリーワーク』って便利屋さんをしているんですって言ったら、
それなら逆に仕事として割り切れるから頼みやすいって、そう言ってくれたのよ。
わたしもね、おにいちゃんなら出しても恥ずかしくない自信もあるしさ、
正直、見せたいくらいなの、ねぇ、わかる? わかるでしょ、この気持ち!」


美帆は部屋へ入るなり、電気をつけ楽しそうに語り出した。

仕事とはいえ、見ず知らずの女性の前で肌を見せることに、抵抗感があった大和は、

それは出来ないと拒絶する。


「だったら、うちの大学生たちに頼んでみるよ、誰だっていいんだろ、モデル」

「ダメ! お兄ちゃんにやってほしいの。みなみ先輩が描いてくれたお兄ちゃんを、
見てみたいのよ!」

「お前の趣味に答える必要なんてない。モデルなんて出来ないからな」

「お願い、お願い! ねぇ、場所はさ、邦宏君に頼んで、事務所を貸してよ」


事務所に先輩を連れてきて、自分が立ち会う形で作品を作りたいという美帆に、

大和は比菜のことを説明した。メンバーの康哉のことは、美帆も知っていて、

何度か顔を見たこともある。


「エ……じゃぁ、康哉君を信じて、一人であの場所に暮らしているの?」

「あぁ、そういうことになってるの。だから、夜も空いてません、残念ながら。
今すぐ断れよ、そのみなみ先輩? も困るだろうが」


大和はそう言うと、夕食を取るために立ち上がった。

美帆は納得のいかない顔で、仕方なさそうに携帯を取りだし、

電話番号を呼び出そうとする。


「あぁもう。いい話だと思ったのに……えっと……みなみ先輩って苗字なんだっけ……。
あ、そうだ、先崎だ……」


その名前を聞いた瞬間、大和の足がピタリと止まった。

みなみという名前だけでは気付けなかったが、先崎という苗字がつくのなら、

知っている女性が一人いる。


そしてその人が、冷たい目で自分を追い返したあの日のことも、鮮明に蘇った。



『もう……ここに来ないでね』



「美帆……、先崎みなみさんって、いくつだ」

「ん? 19だけど、なんで?」

「ふーん……」


大和の遠い記憶の中に、口元にほくろがあるあの人が蘇る。

少し後ろにあった白いレースをかけたベッドで、すやすやと眠っていた赤ちゃんに、

温かい日差しが降り注いでいたことを思い出す。


「あ、みなみ先輩ですか? 美帆です。すみません、あのモデルの件なんですけど、
兄に話したんですが……エ……うーん」


美帆がどこか不満そうに、もう一度大和の方を向いた。

その表情はなんとか気持ちを変えて、この話を受けて欲しいと願っているように見える。


あの、幸せの中で眠っていた赤ちゃんは、今、どんな姿をしているのだろう。

そんな想いが、大和の心の中を一瞬で支配した。


「美帆……」

「ん?」

「もし、その先輩が場所を確保できるのなら、受けてやれ……」


大和は部屋を出たが、扉をしっかり閉めずに廊下に立ち、

美帆とみなみの会話を聞きながら、流れてきた月日をため息とともに吐き出した。






11 妹二人


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コメント

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大和君の事情?

今回は大和のお宅事情ですね。

大和君、美帆 この呼び方は事情がありそうです。

モデルのお話といわくありげなみなみ先輩。^^
大和にみなみ先輩となにか関りがありそうだけど・・・あんまりいい思い出じゃなさそうね。

もしかして、過去の苦い思い出?
この意味深な雰囲気がまた・・・楽しみだわ。

>もし、その先輩が場所を確保できるのなら、受けてやれ……
この言い方がね~~
挑発しているみたいにも聞こえるの。

こんにちは!!

出てきましたね、複雑な人間模様
(根性悪い事だけど、ちょっと喜んだりしてて…)

今のお母さんが嫌いなわけではないみたいですね
淋しさもあるのかなあ
逆に今のお母さんも、淋しいって思っているのでは・・・
血の繋がりがなく大和から見ると
家の中ではただ一人の他人で、反抗的ではないだろうけど
心も開いていないでしょうから・・・
(継母、継子と決め付けたものいいですが、ですよね?)


実母の「もう来ないで」は大和を思ってなのか
自分の生活をかき乱して欲しくないからなのか
それとも両方?
話し方や状況によるだろうけど
意を決して行ったはずだと思うから
きっつい、傷つく言葉だったんじゃないかな


先崎さんは何も知らずに美帆とともだちになったのかなあ
二人の妹と大和かぁ・・・

みなみに逢った時大和は何を感じるんだろう
この事実を知ったら美帆はどうするか、おかあさんたちは・・・

ももんたさん!!
この先が益々、気になってしょうがないです!!!


     では、また・・・e-463

どんな関係?

おやおや、大和には複雑な家庭の事情があるようですねぇ
そう言えば相関図があった!と今頃見た私^^;
「おぉ、なるほどぉ。。。」
「えッ?!…」
なんて一人PCの画面とにらめっこ~♪
いろいろな人間模様にわくわく~♪
大和と“先崎さん”との関係は?
大和のお家の事情とは…
次のお話が待ち遠しいです^^

それにしても大和君、自慢したくなるイケメン君❤
私も小さい頃お兄ちゃんが欲しかったぁ
お兄ちゃんのいる友達が羨ましかったもの
美帆ちゃんが羨ましいわぁ

描く時は呼んで!

みなみちゃん・・・もしかして(もしかしなくても)美帆ちゃんと同じ妹なのかな?
父親が違う。

みなみは知らないのか?
何度もみなみって書くと変な感じ。主人の名前が南なの(プ)

裸体を描くときは覗いてみたいプー!(*≧m≦)=3

家族のこと

tyatyaさん、こんばんは!

>大和君、美帆 この呼び方は事情がありそうです。

はい、あるんですよ。
今回の幕末4人組には、それぞれ『家族』に想いがあります。

大和の口調、大和の考えにも通じる理由が隠れてますので、
続きもお付き合いしてね!

大和の生い立ち

mamanさん、こんばんは!

>出てきましたね、複雑な人間模様
(根性悪い事だけど、ちょっと喜んだりしてて…)

いいんですよ、いいんです!
書き手の私も、このmamanさんのコメントに喜んでますので。

大和と高杉家、そして登場してきたみなみとの関係、
生い立ちについては、この後……

うぅ……mamanさんのレスに答えを出してあげたいけど、出せない!(笑)

気になってくれて嬉しいな。これからもよろしくお願いします。

謎が謎を……

Arisa♪さん、こんばんは!

>いろいろな人間模様にわくわく~♪
 大和と“先崎さん”との関係は?
 大和のお家の事情とは…

ここには書けないよぉ(笑)
続きで知ってね!

>それにしても大和君、自慢したくなるイケメン君❤
 私も小さい頃お兄ちゃんが欲しかったぁ

私も欲しかった……。
美帆には、私の理想が入っております。
こんな兄と妹の関係、作ってみたかったわ(笑)

美帆とみなみ

yonyonさん、こんばんは!

>みなみちゃん・・・もしかして(もしかしなくても)
 美帆ちゃんと同じ妹なのかな?
 父親が違う。

そうなのです。『相関図』も出ているからね。細かい事情は、後々。

ご主人のお名前なんだ……確かに、変な感じかも(笑)
私はパパさんの名前は、絶対に使わない。苗字も使わないわ

大和と家族

yokanさん、こんばんは!

>大和君のお母さんは、実のお母さんではないのかな?

ないのです。ちょっと複雑なんですよ。
そこら辺は、大和の心情とともに、続きで読んでね!

また『?』だらけになりましたか?
うーん……、この先もそうかも(笑)

謎の男*^^*

今回のお話と↑みなさんのお話と人物相関図で
大和くんの背景が見えてきました♪

うふ♪やっぱりいい男なんだ~(^-^)ノ
私もこんなお兄ちゃんほしかったです~

この謎の男も真実の愛に目覚めるときが来るんだろうか。。
楽しみです♪

美帆ちゃん、真実を知ったらショックでしょうね。。
それは、みなみ先輩も同じか。。
複雑な二人になりそうですね。

愛に目覚めるのか?

れいもんさん、こんばんは!

>今回のお話と↑みなさんのお話と人物相関図で
 大和くんの背景が見えてきました♪

はい、よかったです。
大和の冷たい感じの裏が、理解してもらえると嬉しいんですけど。

>この謎の男も真実の愛に目覚めるときが来るんだろうか。。

ウキャー!

>美帆ちゃん、真実を知ったらショックでしょうね。。
 それは、みなみ先輩も同じか。。

うーんと、そこら辺は次回、その次くらいで
あれこれとわかってきますよ。
複雑になりそうですけど、 ついてきてね!

絡まってきたねぇ

妹は無邪気だね、それに引き換え大和は重い物を抱えてるみたいだけど。

みなみ先輩、赤ちゃん?
謎だらけ・・・

大和には、なにかと女が絡むのね^^;
家庭が複雑な冷たそうなキャラに、女は惹かれるのか・・・

他のメンバーもこれから家庭背景が明らかになってくる?

ももちゃんの話は、根本に「家族」があるでしょう。
これからの展開を楽しみに待ってます^^

またまとめて読ませてね~!

家族があってこそ

なでしこちゃん! とりあえずゴール!

>妹は無邪気だね、
 それに引き換え大和は重い物を抱えてるみたいだけど。

うん、この兄妹の違いは、この後に出てきます。
美帆にとっての大和は、自慢の兄で、大和にとっても美帆は、かわいい妹なのよ……
(兄のいない私の理想だわ……・笑)

>大和には、なにかと女が絡むのね^^;

ん?  女と言っても、妹だからね……
まぁ、からんでいると言えば、からんでいるけど。

>ももちゃんの話は、根本に「家族」があるでしょう。

はい! だって、家族の影響がない人なんて、あり得ないと思っているので。
いい意味でも、悪い意味でも、絶対に家族の色が影響するはず。

この作品は特に、そう思っています。
また、まとめて読んでね。
あ、そうそう、感想は1つずつじゃなくてもいいから、
無理せずに!