27 冬に春が来る日 【27-4】



「でね、次の日、鬼ちゃんが七海さんを連れてきてくれたの」

「うん」

「鬼ちゃんの仕事をする様子を、1時間くらい見学してくれて。
鬼ちゃんもさ、色々説明しながら?」

「へぇ……」


鬼ちゃんと七海さんは、『青海原』の部屋でゆっくりと話しあう時間が取れた。

次の日、二人で『坪倉畳店』へ顔を出してくれて、

この先のことについて、もう一度二人で歩み出そうと思っている話もしてくれたと言う。


「それなら、鬼澤さん、もう一度お付き合いをしようって?」

「そう、離れていた時が無駄にならないように、これから一緒にって、
鬼ちゃん申し込んだらしい。もちろんその先は結婚……あ、やだもう、私が照れる」


そう、照れくさい。思わず顔を両手で覆う。


「どうして菜生が照れるのよ」


理子はそういうと、少し笑みを浮かべ、

その後、『まぁ、確かに照れるね』と笑顔を見せてくれた。


「でしょう、あの鬼ちゃんがと思うとさ。で、七海さん、
今のスーパーにすごくお世話になっていたらしいの。
真面目に働いていたから、責任のある仕事もしているみたいだし、
だからすぐには辞めにくいし、中途半端にはしたくないみたいで。
なので、今から数ヶ月時間を作って、
お互いに一緒に暮らすための環境作りをしていこうと……」

「環境作り……それなら鬼澤さんが豊田に行くの?」


理子の質問に首を振る。


「そう、私もそこは心配していたの。
鬼ちゃんが『坪倉畳店』を辞めたらうちは廃業だし」

「廃業?」

「そうだよ、無理無理」

「だって……おじさんは」

「お父さんがそう言ったもの。鬼ちゃんがここを離れるのなら、うちは廃業だって」


これはウソでは無く、本当のこと。

それでも、鬼ちゃんの気持ちが大事なので、愛知に戻って仕事をするのなら、

知りあいに頼むからと父が話すと、

鬼ちゃんはこのままここで働きたいと言ってくれて、

生活の拠点は『七海』に持つことを決めてくれる。


「そうか……それでいいのか? なんて言って、お父さんすごく嬉しそうだったって。
それを話してくれたお母さんも、嬉しそうだった。なんだろう、もうあの二人にとっては、
鬼ちゃんは息子なのよ」

「うん」


私は仕事が休みになった日、

いつものように『プロペラ』で、理子に色々と報告をした。


「息子かぁ……そうだよね、ある時期は、菜生よりも一緒にいたわけだし」

「そうそう。だから、鬼ちゃんはこれから物件探し。
今までのところは独身者用のアパートだから、2人で住めるようなところを探すって」

「年が明けると色々と出てくるでしょう。2月くらいから一番動くし」

「だよね。でもほら、うち畳屋でしょう。そういうところの情報は結構早いのよ」


そう、仕事柄、『どこどこの人が引っ越すので畳の表替え』など、

情報が業者から入ってくる。そのため、すでにいくつか候補地があがっていた。

まぁ、家族が増えるような気がして、そわそわしている父が、

勝手に挙げているだけだけど。


「はぁ……なんだかさ、嬉しいようなちょっと寂しいような……だな」

「寂しい?」

「理子は寂しくなかった? 基さんが結婚するの」


おめでたいことの裏にある、ちょっとした寂しさだろうか。

距離が開くことに対しての、不安とか、迷いとか。


「……全然。お兄ちゃんは、大学から東京に行ったでしょう。
それからほとんど家にいなかったしね」

「そうか」


私にしてみると、『兄が結婚する』感覚と近いものかと思っていたが、

兄のような師匠のような、先輩のような、心を許せる友のような、

確かに鬼ちゃんとの関係は、一言では言い表せない。


「私ね、お正月の開店から3日間、『伊東酒店』のお店番するの」

「お店番?」

「うん……おじさんとおばさんがお墓参りで岐阜に行くって言うから。
洋平も年始だし、お店は閉めて、配達だけすればいいと思っていたらしいの。
でも、それなら私、お店番しようかって提案して」


理子は楽しそうにそう話す。


「ほぉ……理子から?」

「うん。だって、年末年始は観光客も多いでしょう。うちは逆にお休みだし」


理子は『役に立つかわからないけれど』と笑顔になる。


「こちらもしっかり前進だね」


理子とカフェオレを飲みながら話していると、

カランカランと扉が開く音がして、飲み物を運んできた洋平が入ってきた。


「すみません、『伊東商店』です」

「はい、どうも」


洋平の目が一度こっちを見た。

私を見たわけではないことくらい、わかっているけれど、

アピールのために手を振ってやる。


「お前達、あんまり長居するなよ、営業妨害だぞ」

「あら、妨害だなんて失礼ね。売り上げにはしっかり貢献してますけど」


私は、テーブルの上に置かれたカップを2つ指さしてみせる。


「洋平……」

「大丈夫、あとで持って行くよ」

「あ……うん、ありがとう」


理子が『洋平』と言うだけで、二人には全てがわかるようなこの会話。

当然、私には何がなんだかさっぱりだが。


「それじゃ、失礼します」

「はい、どうも」


洋平は、いつものように私には嫌みを、理子には優しい言葉を残し、

『プロペラ』を出て行った。

鬼ちゃんの10年もすごいと思うけれど、洋平は……



26年ってこと?

生まれた時から、理子しか好きになっていないと思うよ、あいつ。



「すごいね、『洋平』って言うだけで、理子が何を聞こうとしたのかわかるんだ」

「それは、電話で話をしてあるから」

「いやいや、そんなふうに言わなくてもいいですよ。
二人の仲がいいことは、私が一番望むことだし」


そう、それはウソじゃなく、本当のこと。

何が嬉しいって、理子のこういう表情が見られることが嬉しいのだから。


「あ、そうだ、洋平と理子も、『龍海旅館』にお部屋でも取ったら?
私、予約してあげようか」

「エ……」


鬼ちゃんと七海さんのように、二人でゆっくりする場所の提供。

洋平も、理子も実家にいるから、『二人っきり』は難しいでしょう。


「あ……それが……」

「うん」


理子から聞いたのは、正月明けに店番をした後、

洋平と理子は東京に向かい、

『Building Blocks』に泊まることになったという話だった。


【27-5】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント