28 サプライズの日 【28-1】

28 サプライズの日



『芹沢 東京』


掲示板の名前と予定。芹沢さんは今日も『東京』に行っている。

社長が戻り、金村さんが動き出し、ボン太もいる。

だからなのか、以前よりさらに芹沢さんが外向きになっているのはよくわかった。

観光関連の企業と打ち合わせ、さらに我が県のアンテナショップに向かい、

『ドラ』と『マーレ』を置いてもらったり、『七海』を発信している。

『カプセルトイ』の種類もまた増えて、『七海オリジナル』のものも作る話が、

観光協会と協力して進んでいるという話題も、ちらほら出ていて。

そういう予定はわかっているし、仕事なのだから仕方が無いけれど……



一度食事に行ってから、その後……がなかなか続かない。



12月24日、そう、『クリスマス』なんていう特別な日が、カレンダーに存在するから、

もしかしたらお誘いがあるかと変に意識してしまって、

何も無いことがこうして決定すると、数倍空しい。

元々、この仕事はローテーションのため、予定が合わせにくいこともあるし、

特に冬休み期間に入ると、かき入れ時のため、余計に難しくなるだろう。



『クリスマス』か……

子供じゃないからな、サンタももう来ないし。



「お先に失礼します」

「お疲れ様」


それでも精一杯トナカイとして仕事をし、ナイトスタッフに挨拶をして、

自転車に乗って家を目指した。

今年は父の判断で、坪倉畳店は年内の営業を昨日で終了した。

それは鬼ちゃんに長い休みをあげたいという社長の気遣い。

だから、鬼ちゃんはもう、豊田に行ったはずで。

七海さんのところに向かい、実家にも顔を出し、戻ってくるのは年明け。

こんな日だから、洋平と理子は、二人でご飯でも食べに行っただろうし……

そろそろ夜の9時という時間。


「ただいま……」

「お帰り」


出迎えてくれたのは母の声。


「ねぇ、今日は菜生と二人だけだから、適当でいいよね」

「何、お父さんは?」

「町内会長さんと『クリスマス会』だって。前から楽しみにしていたでしょう」

「あれ? そうだっけ」

「そうよ、ほら」


母が指さしたカレンダー。確かに父の字で『会長さん』と書いてある。

年頃の娘には予定がなく、父には予定があるという七不思議。


「はぁ……なんだか疲れたわ、今日、トナカイの着ぐるみ着て」

「何、それ」

「木立さんのピンチヒッター、インフルになってしまって、急遽」

「あら、そう」


そこから私は母と二人、夕食を取った。





母に、お風呂に入りなさいと言われ、『わかった』と言った後に部屋へ向かう。

着替えを持ち、ふすまに手を置こうとした時、

『サンサン』が視線に入ったため、思わず手に取った。

畳の上で横になり、『サンサン』を顔の上に置く。

そう、私の落ち着くポーズ。


「はぁ……」


静かな『クリスマス』だな。

鬼ちゃんと七海さんも、そして洋平と理子も、

止まっていた時がすごく長くて、やっと動き出したからなのか、

流れがとてもスムーズに思える。

私と芹沢さんは、同僚という別の立ち位置があるからなのか、

動いているのか、止まっているのかさえ、よくわからなくなっていて。


東京に戻るのか、どうなるのかとか、聞いてみたい気持ちもあるけれど、

聞いていいのか、結果が思った方向にならなかったらと思うと、急に自信がないし、

仕事場では毎日のように会うけれど、立ち話するような内容でもないから逆に難しい。


「菜生……お風呂どうするの?」

「ごめん、今行く」


そうだ、お風呂だった。いつまでもここでゴロゴロしているわけにはいかないので、

『サンサン』を戻していると、インターフォンが鳴った。

母が出たような声がして、誰かと話しているような雰囲気も感じられる。

誰だろうこんな日に、今日は『クリスマス』だよ。

勧誘にしては遅いし、配送便とか頼んだ覚えないし……


「菜生……」


私?


「芹沢さんだよ」


エ……


「はい」


芹沢さんがどうしてここに。

すぐに部屋を飛び出そうとして、一度窓ガラスに自分の姿を映した。

部屋着だけど、まぁ、いいや。

階段を降りて玄関に向かうと……


「こんばんは」


本当に芹沢さんがいた。


「こんばんは」


どうしたのだろう、仕事、終わったのかな。


「今、『東京』から戻ってきました。もう少し早く戻れると思ってましたけど、
意外にてこずってしまって」


『手こずった』って、仕事、大変だったのかな。


「田川さんが話しているのを聞いて、時期を逃すと手に入らないことがわかったので。
結構頑張りました」


田川さんが話して? 時期を逃すって……何?


「あ……はい」


芹沢さん、何を頑張ったのだろう。


「これを菜生さんに……」


芹沢さんが出してくれたのは、

水色の手提げビニールに入った『サンサン』のぬいぐるみ。

しかし、いつもの『サンサン』ではなくて。


「これ……」

「地域限定で、職業シリーズが出るという話を、田川さんから聞いて。
田川さんもこの後休みを取って、『東京』に行くと話してました。
東京はホテルマンのようでして……」


『ホテルマン』、確かにベルボーイのような格好をしている。


「取れるのは今年いっぱいだそうです。ですから、今日はなんとしてもと……」

「これ、限定なのですか」

「はい……サイズは、小さいですが……」


『サイズ』って……。

芹沢さんは、田川さんに『ビッグサンサン』をあげてしまったこと、

気にしてくれていた。


【28-2】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント