28 サプライズの日 【28-2】



「田川さんが、あのぬいぐるみからのつながりで、
こういう限定商品があることを話してくれたので、僕も知りました。
この『サンサン』……でしたっけ? 職業シリーズは、
2週間ごとにその職業が入れ替わるらしくて」

「2週間しか、ないのですか」

「はい」


しかも、今回は地方によって置かれる職業が違うため、

マニアたちは旅行も兼ねて、全国ゲームセンター巡りをすることになるのだという。


「メリークリスマス。少し忙しい時期が終わったら、また食事に行きましょう」


芹沢さんから、ホテルマン姿の『サンサン』が、私の手に渡される。


「突然お邪魔して、すみませんでした」


芹沢さんはそういって玄関を出て行ってしまう。

これ、私のために取ってきてくれたんだ。

情報を知って、2週間しかないから、おそらく不利な配置でも無理して。

だから今、手こずったと……

こんなことをしていなければ、もっと早く戻ってこられたのかもしれない。


「あ……」


やだ、私、お礼も何も言っていない。

慌ててサンダルを履いて、外に飛び出す。

『龍海旅館』に帰るのだから、方向は……


「せり……」


違う。


「椋さん!」


呼び止めた声に、振り返ってくれる。

このまま帰したらダメだと思い走ると、母の古いサンダルだったため、

片方が脱げてしまう。

それでも止まらずに走る。


「すみません、私、何も言わないままで……」

「菜生さん、足……それに、風邪をひきますよ」

「大丈夫です、サンダルは後で履いて帰りますし……気持ち、ほかほかなので」


私は少し息が上がった状態で、『ありがとうございました』とお礼を言う。

ビニール袋から『サンサン』を取り出して、あらためて見てみたが、

表情はいつもと同じ、とっても優しい笑顔。


「職業シリーズが出来たなんて、こんな情報、全然知らなかったです」

「そうですか、それならサプライズできてよかった」


何もない『クリスマス』だったのに、サプライスがあった。

それも、本当に心の底から嬉しくなるような、サプライズ。



「あなたが好きです」



気づくと、自分から言葉にしていた。

初めて駅で見かけた時から、素敵な人だと思ったけれど、

その見た目とか、声とか、そんなことはもう何もかもどうでもよくて。

あなたがいるというだけで、私の毎日が楽しくて、大切な日々になって……

突然の告白に、椋さんの驚いた顔がそこにある。

でも……


「うわ……先に言われたな」


椋さんは、少し照れくさそうに笑ってくれる。


「サプライズのサプライズ返しです」


思い切った私、笑ってくれた椋さん。

自然と互いに手が伸びていて、抱きしめあえた。

私たちは、ただの同僚……ではないですよという互いの気持ち。


「これも、サプライズでしょう」

「そうかも」

「メリークリスマス」


『クリスマス』なのに、いつもと同じ仕事だったことも、

いや、突然トナカイにさせられたことも、どこかに出かけられなかったことも、

夕食が冷蔵庫整理で豪華ではなかったことも、問題は全くなし。

全ては今、この瞬間のためにある。


「おやすみなさい」

「おやすみ……」


引き寄せられて重ねてくれた唇は、さらなる『サプライズ』だった。





家に戻り、『ホテルマンのサンサン』をレギュラーの横に置く。

これ、モデルのホテルがあるのかな。まぁ、確かにこういった制服は多いけどね。

さすがに、仲居さんの和服姿とかで『旅館』はないのだろうな。


椋さん、サイズが小さいって言ったけれど、大きさではない。

私のために、私のことを考えながら取ってくれた。

そう、ここに全ての意味がある。

『白のあざらしまくら』と『ホテルマンのサンサン』

『スキ』から『キス』に変わった日。

あぁ、もう、神様、素晴らしい1日をありがとう。



100%幸せ気分で、おやすみなさい。





次の日、明らかに二日酔い気味の父と、いつもと同じようにしっかりしている母。

そして、夢のような時間を思い出しながら、たくあんを噛む娘の朝食タイム。


「あぁ……頭が重い」


二日酔いをするからですよ、父上。


「昨日は結構早く戻りましたよね。それでもお父さん、そんなふうになるのなら、
もう、年齢ですよ、量を減らしなさい」


母の言うとおりだ。招いたのは自分。


「そうガミガミ言うな。仕方がないだろう。
町内会長さんが、『クリスマス』だっていって、勧める、勧める」


父よ、『クリスマス』というのは、おじさん同士が向かい合って、

互いに酒をおちょこに入れ合うような、そういうものではありませんよ。

『クリスマス』というのは……



そう、『クリスマス』と言うのは……



「何? 何か顔についている?」


そう、さっきから父の顔が、私をじっと見ているのが気になる。

隣にいる母に、何かついているのか聞いてみるが、

『何もないよ』と首を振ってくれた。


【28-3】



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