11 妹二人

11 妹二人


次の日、大和が別の仕事をしていると、妹の美帆から電話があった。

モデルを頼んできた先崎みなみさんが、自分のマンションでいいから引き受けて欲しいと、

あらためて申し出たのだと言う。


「わかった、日付は……」


17年ぶりに出会う人へ、少し気持ちを揺らしながら、

大和は電話を切ると戻らない過去への想いに、思わず空を見上げた。





「『とんかつ吉田』へ?」

「あぁ、今朝、靖史から急に電話が入ったんだよ。おばちゃんがぎっくり腰で
動けなくなったから、しばらくこっちの仕事から外してくれって」

「おばちゃんがか……それは大変だな。店が回らないだろう。あいつには出前もあるし」

「そうしたらさ、その話を横で聞いていた長瀬さんが、私を雇ってもらうって出かけた。
まぁ、この時間まで戻ってこないんだから、なんとかなってるんだろう」

「ん? あいつが?」

「あぁ……。なぁ、大和、様子見がてら、昼食行こう」


邦宏の言葉に、大和は入力途中の書類に付箋をつけ、PCを閉じる。

靖史の『とんかつ吉田』で一番の働き手、母の和子がぎっくり腰になったため、

その代わりになるようにと、比菜は臨時バイトを引き受けることになった。

いつものようにランチタイムを少し外し、店ののれんをくぐると

三角巾を頭に巻き、明るい声で出迎える比菜がいる。


「あ……いらっしゃいませ」

「どう、長瀬さん、頑張れそう?」


邦宏の問いかけに湯飲みにお茶を入れながら、比菜は頷き返事をした。

カウンターの奥では叔父さんがいつものように鼻歌混じりで菜箸を動かし、

靖史が材料を下ごしらえする。


「はい、飲食店は得意分野ですから、大丈夫だと……」

「おぉ、邦宏……。あ、大和も来たか。いやぁ、助かったぞ、比菜ちゃんには」


邦宏と大和は空いているカウンターに並んで座り、比菜の働きぶりを目で追った。

わからないことは靖史に聞きながら、無難に仕事をこなしていく。

揚がったカツを手際よく切りながら、清太郎は話を続けた。


「しばらく出前は断ろうかと思っていたけど、彼女がいるなら明日からでも再会出来る、
なぁ、靖史」

「うん、本当に助かったよ。パートを捜そうなんて言ったってすぐには無理だし、
期間も長い訳じゃないからさ……」

「私こそ、助かりました」


比菜は、お茶を入れた湯飲みを、邦宏と大和の前に一つずつ置く。


「ご注文は……」


比菜は、邦宏と大和の顔を交互に見ながら、

自分はこの場所にちゃんと馴染んでいるのだとばかりに言ってみる。


「比菜ちゃんいいよ。今日はロースを2枚揚げてやるから、な、ちょっと待ってろ」

「あれ? 叔父さん、もしかしたらおごり?」

「おぉ、紹介料だ!」


いい風の吹き回しに、邦宏と大和は顔を見合わせ手をパチンと合わせた。





それから2日後、大和は美帆と待ち合わせをして、

モデルをすることになったみなみのマンションへ向かうことになった。

普段自分がよく使う路線とは別で、初めて降りた駅だったが、

街路樹が行儀良く並び、歩道も整備されたなかなかの場所だ。

隣を歩く美帆は、友達の話をしながら大和を抜いたり、

後ろ向きになったまま語りかけたり、忙しそうに動く。


「美帆、お前転ぶって……」

「平気よ、お兄ちゃん助けてくれるでしょ?」


制服の少し短めのスカートが、軽快に歩く美帆のリズムで、ふわりふわりと揺れた。





インターフォンを鳴らし何秒かした後、ゆっくりと扉が開き、

顔を見せた人は肩まである髪を軽く揺らし、大和に挨拶をする。

すでに何かを描いているのか、大きなシャツを着ていて、

そこには何色かの絵の具が、細く短い線を残している。


「すみません、ここまで来ていただいて」

「いえ……」


みなみの声は、大和が頭の隅に残してあった声によく似ていた。

美帆は引っ越しの後、1度だけ来たことがあるのだと、

横に置いてあったスリッパを出し、先に部屋へ入っていく。

大和も靴を脱ぎ、遅れて奥へ入った。


アトリエなどと立派なことは言えないが、

リビングの隅にはキャンバスがしっかりと取り付けられ、それなりの道具が並ぶ。

小さなソファーは隅の方へ押され、場所が確保されている。


「作品の提出日はいつなんですか?」

「来月の中旬です。具体的に何回お願いすると言い切れなくてすみません。
ですので、高杉さんのご都合をうかがいながら、私の方でスケジュールを合わせます。
出来たら、今日のように週末が嬉しいんですけど、
期日が迫ってきたらそうも言っていられないので、平日の夕方とかでも、
受けていただけますか?」

「時間が空いていれば受けられます。ただ、美帆がいることが条件なので、
美帆と話しあって、早めに……」

「はい」


大和は『フリーワーク』の書類を出すと、横にある小さな机に置いた。

そこには写真立てがあり、知らない男と、ここにいるみなみと、そして……。



『大和……走ったら転ぶからね!』



そう優しい笑顔で、自分のことを何度も呼んでくれた人が、収まっていた。






12 哀しい過去


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コメント

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こんにちは!!

比菜は何気に
とんかつ屋さんにも邦宏、大和にも
なじんでる…みたいな?
そうしようと頑張ってるんでしょうね

大和は妹美帆の頼みとはいえ
みなみに逢ってどうしたいんだろう?
「走ったら転ぶわよ」と言ってくれた
母の面影を今を知りたかった?

すぐにではないにしろこの事は、母二人に知られる?
知ったら複雑だろうね 

     では、また・・・e-463

お互いは?

比菜ちゃんは何でもこなすね~~
苦労してきたのかな? こんな良い子に嘘ついた康哉は今どこに?

邦宏はなんだか比菜に惹かれているみたい。

美帆とみなみ。お互いは知ってるの?

後でお互いの親に知られても大丈夫なんだろうか??(??と尋ねてばかりだね^^;)

大和の心

比菜ちゃん、短い時間で
すっかり「とんかつ吉田」の一員になっちゃって
ひとまず頑張れる場所ができて良かったね^^

思わぬ事から
もう一人の妹と会うことになった大和・・・

みなみの前で冷静に今回の仕事についての話しをする大和の中に
優しかったはずの実母に冷たく追い返された
あの日のままの大和の心が見えるような気がして
ちょっと切なくなりました。

大和の秘密、謎のみなみちゃん

>17年ぶりに出会う人へ
うーん、ここらへん、大和の気持ちがチラッと伺えますね。
なんか意味ありげ~な女性なんでしょうね。^^
クールな大和だけに・・・気になります。

あらら???
私の思っていたみなみちゃんは片思いの人かと思ったんだけど

>知らない人といっしょの写真。
>大和……走ったら転ぶからね

う~~謎が謎呼ぶ写真。

大和~T_T

大和は、どこかで期待してるのでしょうか?!

その期待にこたえてくれるのかな、お母さん。。

二人の妹も、大和も一度は傷つくことになるのでしょうね。。

それでも、会わずにいられなかったんだろうなあ。。

比菜ちゃんの明るさに救われます~

思わず……

mamanさん、こんばんは!

>大和は妹美帆の頼みとはいえ
 みなみに逢ってどうしたいんだろう?

どうしたいんだろうか……
おそらく、どうしようという想いからではなく、
咄嗟に言葉が出てしまったと言った方がただしい気がします。

計画しているわけではなくてね。

さて、この再会から何が起こるのか、
それは後々。

比菜の苦労

yonyonさん、こんばんは!

>比菜ちゃんは何でもこなすね~~
 苦労してきたのかな? 
 こんな良い子に嘘ついた康哉は今どこに?

ねぇ、康哉はどこにいるのでしょう。
比菜は結構苦労人なんです。
それはこれからわかるんですけど。

疑問符ばかりですけど、いずれは明らかになるからね!

大和の妹達

yokanさん、こんばんは!

>みなみさんは大和君の妹なのか~(ーー;)
 人物相関図はこういう関係だったんだ、
 しかし両親は友達関係なんだ。

あ、yokanさん、両親は友達ではないですよ。
あの線はみなみと美帆に直接ついています。
(わかりづらくてすみません)

お互いのつながりを知らないまま、美帆とみなみは親しくなっていたわけです。

そこに大和が入ってくるのですが……

次回、このつながりがハッキリと見えますからね。

それぞれの過去

パウワウさん、こんばんは!

>比菜ちゃん、短い時間で
 すっかり「とんかつ吉田」の一員になっちゃって

比菜の性格ももちろんあるのですが、
比菜なりの理由も、この後見え隠れします。

大和の哀しい過去も、次回で明らかになるので、
切なさを引きずったまま、お待ちくださいませ。

大和の記憶

tyatyaさん、こんばんは!

>>17年ぶりに出会う人へ
 うーん、ここらへん、大和の気持ちがチラッと伺えますね。

チラリと見えている大和の過去ですが、
次回、それが明らかになります。
クールになってしまう要因も、見えてくるのでは。

知らない人というのは、みなみの父親のことで、
一緒に収まっている人と言うのは……

では、次回!(笑)

比菜の笑顔の裏

れいもんさん、こんばんは!

>大和は、どこかで期待してるのでしょうか?!

期待しているというよりも、想いが消化できてないんですよ。
それは次回で明らかになります。
みなみの名前を美帆から聞き、
思わず会うことを選択してしまった大和ですが……。

>比菜ちゃんの明るさに救われます~

比菜にも、明らかになっていない切ない部分があり……
うぅ……なんだか暗いよぉ(笑)

今年もよろしくね^^

新年のご挨拶はあらためて向こうに書くね^^
これから追いかけます!

比菜ちゃん、どこでも一生懸命だね。
損得抜きで体が動いちゃう子なんでしょう。
大和とは正反対だ・・・

して、妹二人
そうか・・・何も知らない妹が二人
でも、このふたりが話を突き詰めていったら、兄の散在がわかりそうだな。

と、勝手にドキドキしてます^^

こちらこそ

なでしこちゃん、こんばんは

>比菜ちゃん、どこでも一生懸命だね。
 損得抜きで体が動いちゃう子なんでしょう。
 大和とは正反対だ・・・

あはは……そうそう、だいたい度胸がすわっているのは女のような気がします。
大和と反対、確かにね。まぁ、そこら辺はのちのち。

妹二人、これからどんな展開を見せるか、
ドキドキしていてくださいませ。