12 哀しい過去

12 哀しい過去


小さな台の上に左腕を置き、目の前にあるボールを握る。

自然に腕に力が入り筋肉が動く。

大和はみなみに言われた通りの姿勢で、動かないまま30分が過ぎた。


「いつも、美帆から聞いていました。自慢のお兄さんだって。
私は一人っ子なので、うらやましくて……」

「一人っ子なんですか」

「はい」


大和はみなみのちょっとした言葉から、懐かしいあの人のことを間接的に知った。

何も知らないみなみは、この春に父親が転勤となり、夫婦で大阪へ行ったことを語る。


「娘さん一人を東京へ残すのは、心配なんじゃないですか?」

「そうみたいです。食べているのか、寝ているのかと電話ばかり寄こして……。
そんなに心配なら残ればよかったのにと、笑うんですけど。
とにかく父は、母がいないと何も出来ない人なんで。
どっちにしようかと考えた結果、私が一人暮らしになりました」

「……そう……ですか」


同じお腹を痛めて産んだ子供のはずなのに、想いの深さが違うのは、

相手の違いからなのだろうかと、大和は写真立てに入っている人の顔を見ながら、

じっと考える。


「あの……少しだけ左を向いていただけますか?」

「あ、すみません、角度が違いましたか?」

「いえ、美帆からお兄さんの横顔を、必ず入れてほしいと言われているので」


みなみはそう言いながら軽く笑い、大和の視線の先で、美帆が満足そうに頷いた。

何の関係もなさそうなところに1本のつながりがあり、

この場にいるのは『兄妹』だけだと知っているのは、大和しかいない。


「お兄ちゃんはきっと、産んでくれたお母さん似なんだと思う。
私と違って、鼻がスーッと通ってるの。私はうちの母に似たから、
鼻がまん丸で嫌になるんだけど。母親が違うだけで、こうも違うものなのかと、
鏡を見るたびに思うわ」


自分と母親が違う兄妹なのだということは、美帆は幼い頃から知っていた。

大和の母親は亡くなったのだと父は語り、その意見に従い、

高杉の母も何も語ることはない。


大和が翻弄される自分の生い立ちを正確に知ったのも、中学に入ってからだった。

亡くなる前に父方の祖母から聞かされたことに、もやもやとしていた記憶が、

つながったことを思い出す。


大和の父親健児と生みの母である奈津は、学生時代の付き合いだった。

まだ奈津が20になったばかりで、大和を妊娠し出産した。

卒業してから結婚すると約束し、家庭を持ったものの、すれ違いは埋まらず、

2年ほどで離婚になった。


大和の育児は母である奈津がすることになったが、仕事と家庭の両立は難しく、

まだ年齢の若かった奈津の気持ちが不安定になり、祖父母の家で暮らすことも多かった。

そんな大和が6才になったある日、保育園の保育士さんから、あることを告げられる。



『大和君、今日はパパがお迎えに来ます』



記憶にないパパという存在に、小さな大和の胸は高鳴った。

友達にはパパとママが揃っていて、二人で迎えに来ることもあったのに、

自分にはそれがなかったからだ。

次々といなくなる友達を見送りながら、大和は小さな黄色いバッグを肩にかけ、

二人が揃ってくることを期待した。


「大和……」


夢に見たパパと一緒に来た女性は、大和の知っているママとは違う人だった。

二人の真ん中に入り、両手をつながれ歩いたものの、

どこかに連れて行かれるような、そんな複雑な思いしか、

小さな大和の胸には感じられなかった。


そして、1年経って手をつないだ二人は正式に結婚し、それから『美帆』が生まれた。

自分のあとを追いかけてくる未知の生物、『妹』は間違いなく愛しく、

大和は小学校から戻ると、美帆をとにかくかわいがった。

父と、いつのまにか母となっていた人が、それを喜ぶ顔を見るたび、

自分の立場がよくわからず、想いは複雑になっていく。


毎年お正月に届くお年玉は、サンタクロースの日本版なのだとそう思っていた。

奈津の両親、大和の祖父母が美帆の分まで『お年玉』をかかさず送り続けたのだ。


ある日突然、目の前から消えたママが、どこにいるのかわからないまま、

大和は小学校の高学年になったが、美帆と比べた自分の存在を不思議に感じ、

『お年玉』を送ってくれる祖父母に連絡を取り、何年かぶりに会った。


『本当のママに会いたい』という願いを祖父母は聞き入れ、

手紙を出すようにと住所を教えてもらう。

しかし、そんなまどろっこしいことは受け入れられずに、

大和はランドセルを背負ったまま、奈津の新しい住所に出かけた。

小さい頃の記憶の中のように、明るく優しい微笑みを見せてくれると思っていたママは、

玄関を半分だけ開き、暗い顔をして大和を出迎えた。


通された部屋は、幼い頃、正座をして足をしびれさせたような畳の匂いはなく、

降り注ぐ日差しが、部屋全体を自然に暖める。


「大和……もう、ここにはこないでね。あなたにはちゃんとパパとママがいるでしょ」


そう言ったママの後ろに、白いベッドですやすやと眠る赤ちゃんがいた。

それが、このみなみになる。





「お兄ちゃん!」

「ん?」

「みなみ先輩が、コーヒー飲みますかって聞いてるよ。どうしたの?」

「あ……あぁ、すみません」


大和が背中の方を向くと、反応が鈍かったことに、

どうしたのだろうかと、少し心配そうな表情を浮かべるみなみが立っていた。

あの人に似ている女性をどこか凝視できず、大和はすぐに視線を外し、

大きくため息をついた。






13 現実逃避


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コメント

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「?」と期待

こんにちは!!

大和の複雑な想いは
みなみのモデルをすることで益々複雑?


幼稚園のお迎えの時、期待とは違った組み合わせで来た2人
その時から今の家族に大和は心を閉ざした?

もう一人の妹に、近づきすぎて大丈夫かしら?

相変わらず「?」がたくさんだけど
この先早く知りたい度いっぱいです!!


     では、また・・・e-463

幼い大和

小さな大和、健気に新しいママに馴染もうとしていたのね。
でもどうしても『大和さん』と呼ばれると寂しいよね。
自分だけが他人みたいで。

二人の妹は知らないのか・・・知ったときは・・・

少しづつ分かっていく大和、フリーワークの仲間のこと。

比菜ちゃんの事も気になる。

そりゃ、あんまりだ~T_T

大人には大人の事情があるんだろうけど、
幼い大和にとって、それはあんまりだ~T_T

子どもは分別がつくようになってから産んでくださいT_T

美帆と大和の関係だけが救いです。
そこにみなみが加わると、こりゃまた複雑。。

すったもんだがあってもいいので(覚悟してます 笑)、
大和の幸せをお待ちしてます(切望)

大和びいきのれいもんでした。

成り行きから

mamanさん、こんにちは!

>大和の複雑な想いは
 みなみのモデルをすることで益々複雑?

成り行きで、会ってみよう……と
思ってしまったんだろうけど、
なんとなく空しさだけが漂っている
大和の状態です。

今の家族に心を閉ざした……というより、
美帆、みなみ、どちらも羨ましいのでは。

『のぞまれた者』への嫉妬はある気がします。

まだまだ『?』が出てくると思いますけど、
続きもお付き合いお願いします。

大和の心の傷

yonyonさん、こんにちは!

>どうしても『大和さん』と呼ばれると寂しいよね。
 自分だけが他人みたいで。

そう、微妙なところなんだよね。
全く母親の記憶がなければ、想いもないけれど、
突然状況が変わっただけに……

少しずつメンバーの心の中が、明らかになります。
もちろん、比菜も……。

男の魅力?

ナイショさん、こんにちは!
お久しぶりなんていいんです。
来てくれて、ありがとう!

>昔から生い立ちや過去、
 正体に謎や翳がある男性主人公に惹かれるんです~(笑)

あはは……わかる、わかる。
でも、実生活は確かに嫌かもね。

それぞれの悩みや状況が明らかになり、
話も進んでいきますので、相関図を頼りに、
おつきあいよろしくお願いします。

また、いつでも声かけてね!

せつない

yokanさん、こんにちは!

>大和君がどんな視線でみなみちゃんを見てるかと思うと、
 またまた切ない(T_T)

はい、成り行きで会ってしまったけれど、
母の存在を感じ、みなみの状況を知り、
どこか空しさの残る大和です。

母にもう一度……さて、それは……
この続きを読んでいってくださいませ!

よし、頑張れ!

れいもんさん、こんにちは!

>子どもは分別がつくようになってから産んでくださいT_T

はい、その通りです!

『のぞまれた者』への嫉妬心は、あると思いますよ。
大人の事情は、何も教えてもらえてないだろうし。
逆に大人になってから考えると、
二人が無責任に見えることもあるだろうしね。

>すったもんだがあってもいいので(覚悟してます 笑)、
 大和の幸せをお待ちしてます(切望)

あはは……すったもんだありでいいんですね(念押し!)
幸せに向かって、頑張りましょう!

恋してしまったら・・・

みなみちゃんが大和に恋しちゃったら・・・
読みながら、私の頭はそっちの方向へと動き出して困ってます^^;

母親に仕返しをするつもりで、みなみにその気がある振りをして、手痛くふってしまうとか、「アンタの母親に聞け」と冷たく突き放すとか・・・

あぁ・・・ももちゃんの話って、布石がありすぎて妄想が・・・あはは^^;

危ない関係?

なでしこちゃん、さらに……

>母親に仕返しをするつもりで、みなみにその気がある振りをして、
 手痛くふってしまうとか、「アンタの母親に聞け」と冷たく突き放すとか・・・

あはは……。『なでしこ劇場』完全に開演中じゃないの。そうなるかどうかは、不明でございます。

>ももちゃんの話って、布石がありすぎて妄想が・・・

妄想、空想大歓迎。それがまた楽しいもんです。