13 現実逃避

13 現実逃避


大和が第一回目のモデルをこなしている頃、比菜はお店の休憩時間を取り、

裏の小さなブロック塀に座り、何度目かのメール確認をした。

東京へ出て来たあの日、康哉に連絡を入れた後、

確かに一言だけ『ごめん』と戻っては来たが、あとは何度連絡を入れても、

返信が届くことはない。


換気扇から漏れてくる油の匂いと、夕焼けが消えていく空の変化が、

さらに気持ちを沈ませる。


「長瀬さん……」

「あ、はい、すぐに行きます」

「あ、そこにいたんだ。ごめん、いいよ、まだ休憩だから」


店の裏口から顔を出した靖史は、比菜が慌てて携帯をしまうのを見てしまい、

申し訳ない気持ちがまた顔を出す。


「今日はご予約さんがありましたよね……準備を早めにしないと」

「うん……」


何日か一緒に働いているだけで、比菜の性格や真面目な態度は見て取れた。

靖史は、それだけに知っていることを黙ったままでいるのが、辛くなり下を向く。


「長瀬さん、あのさ」

「はい」

「康哉のことなんだけど、実はちょっと気になることを聞いちゃってさ、話してもいい?」


比菜にも、靖史が真面目で優しい性格であることは、何日か一緒に働きながら、

感じ取ることが出来た。申し訳なさそうに話し始める態度に、

おそらくあまりいい内容ではないのだろうと身構える。


「いいですよ、話して下さい」


靖史は首にかけていたタオルを外し、比菜の隣に軽く腰かけた。

さらに夕焼けの色は強くなり、その日への別れを告げ始める。


「長瀬さんがこっちへ来る、2、3日前に、あいつ、女の子としばらく旅に出るって、
よく出入りする店で語ったらしいんだ。それを、あの日その店で働いている人から、
俺、偶然に聞いたんだけど、すぐに言えなくて、で、黙っていた」


比菜はその言葉に頷きながら、携帯を何度も開いては閉じを繰り返した。

パカンという音がむなしく響き、靖史と比菜の間に、微妙な空気を作る。


「あれからもう半月だ。康哉からの連絡はあるの?」

「あります!」

「エ……」


比菜が明るい顔で靖史の方を向くと、

予想外の返事に驚いたまま、口をポカンと開けている。


「と言いたいところですが、実際にはないんです。
最初の日、一度だけ返信をくれたけれど、それ以来、全く……」

「……そう」

「靖史さんが聞いた通りなのかもしれないですね。私のことなんて忘れちゃって、
新しい方へ行っちゃったのかも。でも、待ちます」

「待つ?……」

「待ちたいんです」


靖史には、その比菜の気持ちが理解できなかった。

どこかわかっていたかのような返事をしながらも、

口から出てくるのは『待つ』という言葉だけで、真意や本音がどこにあるのか、

表情から探ることは出来ない。


「岡山に戻りたくない理由でも……あるの?」


靖史のその言葉に、比菜は黙ったまま暮れていく夕日を見つめ、

別れの挨拶を頬に受け続けた。





「ありがとうございました」

「いえ……」


大和は決められた2時間のモデル仕事を終え、シャツを羽織った。

道具をしまい、大きめのシャツを脱いだみなみは、小さなキッチンへ向かうと、

冷蔵庫を開けパウンドケーキを取り出す。


「甘いものは嫌いですか? 大和さん」

「エ……いや……」

「昨日、母から届いたものなんです。時々こうして送ってくれて……」


白い箱に収まったパウンドケーキが姿を現し、みなみの手の平に収まる。

大和はそばに置いてあったサイン済みの書類を手に持ち、玄関へ向かった。


「あ……あの」

「すみません、この後、行かないとならないところがあって。
美帆にでも食べさせてやって下さい」

「あ……」

「ちょっとお兄ちゃん、どこに行くの? 一緒に帰るんじゃないの?」


息苦しいような部屋の扉を開け、大きく息を吸い込んだ。

あの人のみなみへの想いがあふれる部屋に、いることがどこか惨めな気がする。


「もしもし……貴恵? 今、いる?」


大和は仕事が休みで部屋にいるはずの貴恵に連絡をし、

そこからすぐに向かうと告げ、電話を切った。






14 ペディキュアの誘い


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コメント

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大和~T_T

帰ってきたら、アップされてた~(^0^)/

大和。。分かっていたはずなのに。。ね。。
貴恵に慰めてもらうのかい?!
ま、今はそれでもいいか。。
貴恵はちゃんと慰めてくれるのかなあ。。
冷たくしないでね。折れちゃうから。。

比菜ちゃんも健気だ。。

今朝、がっちりマンデーで
代行ビジネスでがっちり!をやってました。
朝から大和たちを思い出したれいもんなのでありました。

まさか???

比菜ちゃんは分かっていてそれでも「待ってる」と
何がそうさせるのかしら?謎が深い子だわ。

まさか・・・みなみちゃん、大和のことが?
ちょっと怖い想像しちゃったよ(゚_゚i)タラリ

逃げるか大和?

現実とのギャップ

れいもんさん、こんばんは!

>大和。。分かっていたはずなのに。。ね。。
 貴恵に慰めてもらうのかい?!

もらいたいんだろうね……
もらえるかしら。

>今朝、がっちりマンデーで
 代行ビジネスでがっちり!をやってました。

私も見ました!
いや、私、あの番組は毎週見ています。
結構、色々と役立つこと多いですよね。
大和たちのことを、思い出してくれてありがとう!

心の変化

yokanさん、こんばんは!

>あんな現れ方をした比菜ちゃんだけど、
 彼女の本来の姿が見えてきましたね。

それぞれ、第一印象があると思うのですが、
それがだんだんとつきあっていくうちに、変わっていくものだと思います。

大和も邦宏も、まだまだこれから……です。

それってどうだ?

yonyonさん、こんばんは!

>比菜ちゃんは分かっていてそれでも「待ってる」と
 何がそうさせるのかしら?謎が深い子だわ。

謎は深くないとね。
あ、そうだったのかと後から分かってもらえると
思うのですが。

>まさか・・・みなみちゃん、大和のことが?

あはは……違う話になっていきそう。
でも、あり得ないとは言えないのが怖い(笑)

グールグル (◎o◎)?

こんにちは!!

比菜も大和も切ないなぁ

聞かれて黙りこむ比菜
岡山に帰りたくないわけがあるんだろうね

大和の惨めでいたたまれない気持ち
貴恵さんに逢って慰めてもらったら消えるかなぁ
心をさらけ出さない大和を受け止めきれる?

私もちょっと思いました、みなみが…って
でもチョッと早過ぎかなぁ、一目惚れ?お兄ちゃんていいな症候群?
みなみが大和に想いを寄せたら大騒動!ですね
もしかして兄と知ってる?・・・そんなわけないか

♪今日もまた「?」がグールグルe-275
(好きな音で歌うように読んでください・・いい歳しておバカで、すいません)

     では、また・・・e-463

切ないなぁ・・・

あの人のみなみへの想いが溢れる部屋の中

複雑な思いを抱えたままの大和は
いたたまれない気持ちになっちゃったんだね。

空しさだけが残る大和の心が
貴恵ちゃんの所で癒されれば良いけれど・・・

康弘の事を聞いても
比菜ちゃんは待つんだね。

>「岡山に戻りたくない理由でも……あるの?」

比菜ちゃんも家庭に何か事情を抱えてるのか・・・
早く独り立ちしなくちゃって思ってる?

比菜の理由

mamanさん、こんばんは!

>聞かれて黙りこむ比菜
 岡山に帰りたくないわけがあるんだろうね

あるんだと思います。
今は言えませんが……

>大和の惨めでいたたまれない気持ち
 貴恵さんに逢って慰めてもらったら消えるかなぁ

さて、貴恵に語れるでしょうか、大和。
うーん……それは次回へ続くのです。

色々な『?』が渦巻いているでしょうが、
それはゆっくり、ゆっくり、解決させましょう。

ということで、まだまだよろしくお願いします。

やすらぎ?

パウワウちゃん、こんばんは!

>空しさだけが残る大和の心が
 貴恵ちゃんの所で癒されれば良いけれど・・・

おや、パウワウちゃんも、そこらへんが
怪しいと思っているようで……
それは次回で見てね。

>比菜ちゃんも家庭に何か事情を抱えてるのか・・・
 早く独り立ちしなくちゃって思ってる?

うーん……それぞれ悩みがあるんですよ。
まずは大和が明らかになり、徐々にですね。
さらに続きますので、お付き合いよろしくです。

ふんふん・・・

現実から目を背けたくなるときってあるものね。

比菜も大和も、そんな状況だったわね。

二人の選択は・・・次へ!

ため息かも

なでしこちゃん、こんばんは

>現実から目を背けたくなるときってあるものね。

そんなつもりじゃなかったけれど、行ってみたら空しくなったんでしょうね。
比菜の方は、まだまだ謎だらけで、語れないのですが。

さて、次!