8 後悔 【8-2】


【8-2】


経済的に無理だと言うこともないのだからと、『一人暮らしの先輩』として、

当然の意見を言う。


「ん? うーん……そうだよね、一人暮らしか……」


風は、そんなことを真剣に考えたこともあったなと思い出し、

思わず笑みを浮かべてしまう。


「もっと早くに行動していたら、飼えたかな」


風は、『今更だけど』と写真をまたスクロールする。


「今からだと、遅いわけ?」


悠真は風の背中を包むように後ろから腕を回し、胸元へ手を伸ばす。


「ないかな……今からは」

「どうして」

「なんだろう……高校生くらいまでは色々と考えていたのよね。
大人になったらこうしたいとか……でも、だんだん、
気持ちが盛り上がらなくなったというか」


風は悠真から受ける刺激を素直に受け取りながら、

『もう一度』に向かい、舵を切ろうとする。

悠真の鼻が、風の背中に触れる。


「気持ち?」

「うん……。家にいたって、家族はほどんど一緒にいないでしょう。
一人になりたければいつでもなれる。でも、面倒なことはやらなくていいし……」


風は、『孤独』を意味するような言葉を出し、『ふっ』と寂しそうに笑った。

悠真は風の手から携帯を奪うと、それを横に置く。

風の体を押さえるようにした後、少し強引に時を進めようと、指先を下へ滑らせた。


「悠真……ちょっと、やだ……」


もう少し、ゆっくりと進めて欲しいと願う風は、

強引な悠真から逃れようと脚を動かすが、強い意志を持った手に払われる。


「悠真……」

「いいんだよ。嫌だって言ったって、お前の本心違うから……」


悠真は力で風の反抗を押さえ込むと、少し強引な状態で自分の気持ちを送り込んだ。


「あ……ねぇ……」


風は体を動かし逃げようとするが、逃げ切れないまま悠真を受け入れてしまう。

自分の感情を思うままに押しつけ、受け入れを要求した悠真に文句を言おうとしたが、

どこか辛そうな表情に、何も言えなくなった。

風は目を閉じ、ただ悠真の感情を受け続ける。

動き出してしまえば、他のことが忘れられる時が来るのは、

風にとっても、都合のいいことが今までにたくさんあった。

風は、悠真の背中に両手を回すようにして、小刻みな呼吸を繰り返す。

一人では味わえない快感の波が、押し寄せてくるような時に、

風もそのまま流されていく。



他のことは考えなくてもいい場所に、ただ連れて行って欲しいと……



『畠岡先輩とお付き合いをしている方が、私はとっても羨ましいです』

『なんだよそれ』

『話をしていて、とても楽しいですし、でも、仕事ではきちんと厳しいですし』



食事をした時、くるみが自分に言った普通の会話が、悠真の心の奥にトゲを刺した。

『お付き合いをしている方』というのは、ここにいる風のはずなのに、

こうして何もかも、自分にさらけ出しているはずの相手は、

一番大事な『心の中』だけは、自分に見せようとしない。

指先や舌先では触れられない、探り当てられないものが、風のどこにあるのか、

ただ必死にその場所を求めながらも、届かないジレンマに、

悠真の感情は、どこかおかしな動きになっていた。

何度体を重ねても、震えるような時間を与えてみても、

風の全てが自分のものではないことがわかってしまう。

悠真は『どこかで急に終わるかもしれない』関係性を目の前にしながらも、

それを風には言えないまま、時を流すことしか出来なかった。





タクシーが森嶋家の前に到着し、風は支払いを済ませた。

通りには歩く人など誰もいないような深夜のため、去って行くタクシーの音が、

階段を上がる間も聞こえ続ける。

風はポケットから鍵を取り出すと、開けて家の中に入る。

家族は全て家の中にいるのかもしれないが、すでに眠っているのだろう。

冷蔵庫の音や時計の音以外、何も聞こえてこない。

真っ暗な家に、風はひとりで灯りをつけ、そしてまた灯りを消していく。

自分の部屋に入ると、洋服を適当に脱ぎ、そのままベッドの上に寝転がった。


「はぁ……」


仕事をして、休みが来て、会いたい人と会っていたはずなのに、

重たい荷物を下ろしたのかと思うくらい、心が疲れていた。

風は立ち上がって浴室に行くのが面倒になり、『全ては明日』と布団に潜った。





そして、次の日。

少し早起きをした風が、シャワーを浴び、髪の毛を乾かしていると、

真由子が声をかけてきた。


「風……」

「何?」

「あなた、昨日はどこにいっていたの? お父さんが話をしたいと言ってくれたのに、
全然帰ってこないし……」


真由子は『携帯も鳴らしたのよ』と風に話す。

風はドライヤーのレベルを下げないまま、真由子の声を音でかき消していく。

それでも、真由子がそばを離れず、何度も同じようなことを言うため、

風はドライヤーをOFFにした。


「お父さんと何を話すっていうの?」

「いや、だから、ほら、おつきあいをしている畠岡さんのこととか……
それに神部さんのこともあるし……」


真由子の言葉に、風は『お父さんは? どこ?』と聞き返す。


「お父さんは今日早く出てしまったの。大阪でお会いする方いて、
帰ってくるのは……」

「どういうこと? 何よ、いないのなら話しも出来ないでしょう」

「だから、それは昨日……」


風は『仕事に間に合わなくなるから』と言うと、またドライヤーの電源を入れる。


「風……」

「話したいときは話します。忙しいのはわかるけれど、急に隙間が出来たからって、
話をしろとか……そっちの都合だけでしょう。そんなの無理」

「無理って……風」


真由子の声を無視したまま、風はドライヤーをかけ続け、

『朝ごはんはいらない』と言うと、階段を上がり部屋に入った。


【8-3】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (*´∇`)ノ ヨロシクネ~♪

コメント

非公開コメント