14 ペディキュアの誘い

14 ペディキュアの誘い


ソファーに座り大和は落ち着く場所を探すように、チャンネルを変え続けたが、

笑い声も、聞こえる音楽も何か邪魔になり、結局スイッチを切る。


「どうしたのよ、週末は仕事が忙しいって言ったのはそっちだったくせに」

「うん……」


貴恵はカップを二つ手に持ち、コトリと音をさせ大和の目の前に置いた。

会社で出す時と同じように、好みを全て知っているいつもの味がそこにある。


カップの横には女性誌が何冊か積み重なり、気になる記事でもあるのか、

何カ所かに付箋がついている。

貴恵は大和の横には座らずに、ソファーの前で、腰を下ろした。

軽く横に出された脚に目を向けると、

綺麗に整った爪に、少しラメが入ったペディキュアが塗られている。


「珍しいね、ペディキュアなんて……」

「ん? そうでもないけど。大和が気付かないのよ。
いつも、違うところばっかり見ているから」

「なんだよそれ」


貴恵は冗談だと笑いながら、小さなカゴの中に入っている小瓶を取り出し、

ハワイへ出かけた友達が、お土産でくれたものだと説明する。


「仕事があるから、マニキュアだって色のあまり強くないものを使っているでしょ。
でも、休日だし、ちょっと気分でも変えたくてつけてみたの。どう? おかしい?」


大和はその脚の先を見ながら何度か首を振り、自分もソファーから下へ座り、

貴恵を引き寄せ前に座らせた。

後ろから抱き締めながら、左手で見慣れないペディキュアの指に触れる。


「……くすぐったい……私、脚弱いんだから」

「見せてきたのはそっちだろ」

「見せてきたって……変な言い方。ねぇ……何があったの?」

「別に何もないよ。会いたいと思ったらいけないの?」

「それ……本音?」


貴恵は大和の右手に自らの右手をからませながら、そう小さく問いかけた。

大和はその問いに答えることなく、ペディキュアに触れていた手を、

脚から少し奥の方へと移動させる。


「また、大事なところをはぐらかす」

「ん?」


貴恵の少し不満そうな唇に、これ以上のセリフが出てこないように、大和は唇を重ねた。





ペディキュアが塗られた貴恵の脚は、隣にある大和の脚に軽く触れた。

少し荒くなった呼吸を整えようとする胸の動きに頬を合わせ、大和の顔を確認する。


「仕事でも失敗したのかなとも思ったけど、違うみたいね」

「ん?」


大和の心の中を見ようとする貴恵の髪に触れ、流れた時間の余韻に浸る。

ほんの少し前に見せてくれた表情を思い出し、

大和は、その温かさに自分の居場所を感じ取る。


「意味のない時間を過ごしてきた」

「エ……」

「でも、過ごさないとわからなかったんだから仕方ない。
もたついた気分だけが残って、体全体が重い……」


大和は天井を見上げたままそうポツリとつぶやいた。

外はすっかり暗くなり、夕焼けの残りも見えることはない。


「……で、ここへ?」

「あぁ……」


貴恵は大和の鼻を指でつまむと、軽く何度か動かし体を起こす。

そばに落ちている下着をつけながら、テーブルの上に置いた雑誌の付箋を見た。


「大和……何食べる?」

「貴恵に任せる……」


貴恵が離れて寂しくなった腕を、大和は自分の頭の下に戻す。

何もない天井を見つめる大和の目は、貴恵には意味のない……と告げたその時間を、

思い出しているように見えた。





次の日の午前中、チケット購入の列に並ぶ仕事を終えた邦宏は、

駅から事務所へ向かう途中に、笹本さんの家の前を通ることにした。

飼い犬ハヤトの散歩は、1週間に2回ほど頼まれるのが普通だったのに、

比菜がこっちへ来てからもう2週間以上、何の依頼もない。

もしかしたら高齢のイネが病気になって倒れ、電話をかけることが出来ないのかと、

高い壁に囲まれた家を、背伸びするようにのぞき見る。


「何をしているんですか?」

「ん?」


首を伸ばした邦宏のそばに、ランドセルを背負った女の子が一人立っていた。

見たこともない子供を、軽く左手であしらって見せたが、その子は動くことなく、

邦宏をじっと見る。


「何しているの? ねぇ、どうしてのぞいているの?」

「シーッ! いいから、自分の家に帰りなって」


邦宏がそういって子供を見ると、指をまっすぐ示した先は、間違いなく笹本家だった。

防犯なのかなんなのか、今時の子供は名札をつけてないため、

ウソだろうと思い無視して歩き始める。


「お兄ちゃん、ママに用事? それともおばあちゃん?」

「……は?」


ランドセルを揺らした女の子は、邦宏の前を通りすぎ、大きな鉄製の門を開けると、

なんの躊躇もなく玄関のインターフォンを鳴らした。

それは本当に一瞬の出来事で、庭にいたハヤトがかけより、

子供の給食袋を甘噛みしてからかっている。


「ハヤト、ダメ! やめて!」


何秒後かに扉が開き、そこから現れたのは見たこともない女性だった。

不自然に門の前で立っているという自分の状況を忘れ、

邦宏はその場で立ったままになった。






15 異空間の人


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コメント

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笹本家にも……

yokanさん、こんばんは!

>笹本のおばあちゃん、娘さん親子と同居を始めたんだ。
 これでちょっと安心だね^^でも、何かあるのかな?

うふふ……
あるのですよぉ……とだけ、言っておきます。

大和のなんとなく複雑な感情も、またグルリとめぐる時がくるはずなのですが。
しばらくは、流れに身をまかせ、読んでいてくださいね。

おぉ~妹達と彼女?

ももんたさん、こんばんは。

お久です。^^

しばらく眼を離したうちにひゃ~~~、こんがらがってる。@@

妹同士が友達で、その妹達も知らないんだろうね。
どちらの妹とも縁のあるのが大和でーーー
で・・・どちらの親とも一線をおいてる大和。

きっと傷ついて、どちらも自分の場所と思えないんだろうなぁ。
妹達はきっと兄貴の隠し事には気が付いていない。
事実を知ったらこの二人もどうなるんだろう。


そこで出てきた貴恵ちゃん。
彼女は大和の彼女だね。@@
しかも親密な^m^

お嬢様っぽくない風けど、きっと大和にはしっかりした彼女が必要だったんだね。
こんな複雑は彼と付き合うのは、もしかしたら年上の女性かな?

こんにちは!!

大和は慰めを貴恵さんに求めてるくせに、今回の事だけじゃなくても
その彼女を少なからず淋しくさせてるのに気が付いてない?
じぶんの居場所確保ばっかりで
貴恵さんの居場所確保まで気が回らないのかしら・・・

笹本のおばあちゃん同居は幸せじゃないの?
邦宏は不審者のなっちゃうのか?
どうなるんだろうね

    では、また・・・e-463

寂しさの訳は?

過ごして見なければ分からなかったみなみとの時間。
やはり重かったんだ、そりゃそうか他人だけど真っ赤でなく、ピンク程度の他人。

じっと見詰められて、どんな自分が描かれるのか・・・

貴恵に縋っても解決策は出ないと思う。

笹本さんちも一波乱あるのね。ウズウズ・・・

相関図を頼って!

tyatyaさん、こんばんは!
こんがらがってますか? よかったら、相関図を見てください。
誰が誰の誰なのか(笑)、書いてありますので。

>どちらの妹とも縁のあるのが大和でーーー
 で・・・どちらの親とも一線をおいてる大和。

高杉の親とは、申し訳なさみたいなものもあるだろうけれど、
産みの母に対しては、一線をおかれてしまったと言う方が、正しいかもしれません。
事実を知ったら? 今は考えないようにしておきましょう。

>こんな複雑は彼と付き合うのは、もしかしたら年上の女性かな?

いえいえ、貴恵は一つ年下の女性です。その辺もまた、紹介しますね。

大和め!

mamanさん、こんばんは!

>大和は慰めを貴恵さんに求めてるくせに、
 今回の事だけじゃなくても
 その彼女を少なからず淋しくさせてるのに気が付いてない?

そう、気がついていない……ように見えますよね。
貴恵が大和に何を求めているのか、それがいまいち見えてない。
さて、ここら辺のズレが、何を呼ぶのかぁ……
笹本家の問題は何なのか……

それは続きでご確認ください。

ピンクの間柄

yonyonさん、こんばんは!

>過ごして見なければ分からなかったみなみとの時間。
 やはり重かったんだ、そりゃそうか
 他人だけど真っ赤でなく、ピンク程度の他人。

向こうは何も知らないですからね。
どうしたらいいのか分からないのが本音でしょう。
しかも、女の子だから、母の面影も感じるだろうし。

笹本さんちの一波乱? うん、あるよ。
これから関わってくるからね!

いろいろでてきたねぇ

笹本さんち、ひと波乱ありそうな展開ですね~
(ワクワク・・)

そして、貴恵のもとに行った大和
寂しさや諸々を抱えながら受け入れてもらって・・・
でも、彼女の寂しさは見えてる?
雑誌って、ブライダル雑誌だったりして~
と思っている私です^^v

男って、幼い部分があるからね ふぅ・・・

いろいろあるんだよぉ

なでしこちゃん、どうも!

>笹本さんち、ひと波乱ありそうな展開ですね~

ありそうでしょ? あるんだよん(笑)

>そして、貴恵のもとに行った大和
 寂しさや諸々を抱えながら受け入れてもらって・・・
 でも、彼女の寂しさは見えてる?

本当だよね、目の前のものはどうも見にくいらしいです。
自分を出すことがうまくないのが原因なんでしょうが、それが問題を……

と、いうことで、それはまだ先へ続きます。