9 現実 【9-1】


【9-1】


「は? レンタルの畑?」

「うん」

「何をまた……お兄ちゃん、頭の中大丈夫?」


その日の夜、伊吹が家に持ち帰った書類を見た紗菜は、

どうしてそんなことをと伊吹に尋ねた。


「どうしてって、生活にそういうことがあってもいいかなと思ってさ」

「仕事をして、休みの日に実家の手伝いをしているお兄ちゃんが、
さらに畑の仕事? もう何しているのよ。あのさ、少し考え方を変えないと、
若いからって過労死するよ」


紗菜はそういうと、カリポリに提出する書類を横に置く。

伊吹は『楽しみだからいいんだよ』と言うと、パンフレットを見始めた。

紗菜も視線をパンフレットに向け、そこに掲載されている写真を見る。

楽しそうに何かを植える子供の写真や、どんなふうに管理されているのかという、

説明イラストも軽く読んだ。


「まさかとは思うけど、ここに彼女と一緒に出かけようなんて思ってないよね」


伊吹は美緒に話せば、一緒にやってくれるのではないかと思っていたため、

紗菜に『ダメなのか』と当然そうなるという顔で聞き返す。


「デートが畑、土まみれ? いやいやいや……私ならドン引きする」

「お前ではないから」


伊吹はそう言い返すと、『何か取れてもわけてやらないぞ』と紗菜を見る。

紗菜は『結構です』と笑いながら言うと、お風呂に入るため立ち上がった。





「沼田さんが?」

『そうなの、今日、『カリポリ』に来てくれて、
なんと、『アスパラガス』を借りてくれることになりました』


道佳が、自分で拍手をしているような音が受話器の向こうから聞こえ、

昴は自然と笑顔になる。


『あ、でもね、私が強引にお願いしたとかではありませんから』

「言ってませんけど、そんなこと」


道佳は、伊吹が『カリポリ』に来て、畑を借りるようになったこと、

過去の決断に後悔があると話していたことを語る。


「過去の決断?」

『そうなの。自分で決断したことなのに、今、悩んでいるみたいなことを言っていた。
きっと、昴とする仕事だと思う。だって最初に会った時には話していなかったもの。
ねぇ、種明かししていい?』


道佳は明るい声で、そう話す。


「道佳……」

『何?』

「君らしい決めつけ方だけど、まだ言わない方がいいと思うよ」

『決めつけ? あれ? そう?』

「そうだよ。過去のことって聞いて、すぐ結びつけなくても……」

『そうかな……』


道佳は納得がいかないのか『そう?』とさらに聞いてくる。

決めたらこうだと突っ走りそうになる性格は、

父親の完太によく似ていると昴は考える。


「まだ、こっちの仕事がスムーズに動いていないし、種明かしはもう少し待ってよ」


昴は、『ストロボ』との打ち合わせが行われたばかりで、

仕事として流れていくようになったら、種明かしをするべきだと話す。


『うーん……まどろっこしい』


道佳の楽しそうな声を聞きながら、昴にはその表情が想像出来て思わず笑ってしまう。

この仕事がうまくいったら……と、道佳の声を聞きながら、

人生の次のステップを考えていた。





それから、さらに数日が経過する。

カレンダーが8月に入ると、気温はさらに上昇した。

湿度も高いため、ゲリラ的な豪雨も起こりやすくなっていく。

今も、空には真っ黒な雲が広がり出していた。

かおりは、上司に頼まれた書類を出すため郵便局に行き、

その帰りに見た空が、今にも降り出しそうだったため、

のんびり歩くことは辞めて、少し足早に会社へ戻ることにする。

楽しそうな笑い声が聞こえ、道路の反対側を歩いている人に自然と目が動く。


「あ……」


歩いていたのが悠真だったため、軽く手をあげ、声でもかけようとしたが、

しかし、その隣には知らない女性がいた。

悠真は並んだ女性と笑顔で話しながら歩いているからか、

少しだけ上げたかおりの手に、気づくことなくすれ違ってしまう。


「……まぁ、いいか」


かおりはそのまま角を曲がり、会社があるビルに戻った。





『地域発展と自然を守るための活動』

『これからの日本経済を、どう盛り上げていくか』

『地方が立ち上がる時』



「直輝さん」


直輝は父の秘書『生島尊』に声をかけられたため、

『はい』と返事をし、見ていた広報誌を横に置いた。

生島は『これを持って、よしのへ向かってください』と封筒を渡す。


「よしの? あの?」

「はい、そうです。先生がお待ちですので」


生島は天羽がいつも使う『よしの』という店にすぐ向かうよう、直輝に指示を出した。

直輝は封筒を受け取ると、タクシーに連絡をする。


「よしのってことは、誰かがいるわけでしょう」

「宮田先生がいらっしゃいます」

「ふーん……」


直輝は上着を取ると、そのまま事務所を出て行く。

しばらく携帯をいじっていたが、タクシーが直輝に気付き、ブレーキをかけたので、

後部座席に乗り込み、『よしの』の住所を話した。


「かしこまりました」


タクシーはそのまま事務所前を離れていく。

直輝を見送った生島は、携帯電話を取り、すぐに天羽へ連絡を入れた。


【9-2】



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