9 現実 【9-5】


【9-5】


恭一は、成長している息子の姿に頷きながら、昴の話を聞き続ける。


「『ストロボ』は、とにかく色々な企業と仕事をしているので、
業界を超えたデータを持っています。今回うちも取り入れてみようかと」

「業界を越えた資料?」

「はい。データを調べ、それを提供する代わりに、得たデータはどこと仕事をしても、
使って構わないというオープン方式をとっているそうです。
なので、自分たちが気づけないところを、見せてもらえたらと……。
まだ担当をしてくれるようになった青柳さんと、打ち合わせをした段階ですが、
雑談を挟みながら、売り上げデータとかも見比べていて……」

「営業部の出しているデータでは、問題があるのか」


恭一は、『営業部』の中で、売り上げや取引先とのデータをまとめているため、

それではまとまらないのかと昴を見る。


「ダメということではないのですが、でも、他のデータと掛け合わせて見ないと、
どこかがかけていることに気づけない気がして。
結局、最終的に自分たちのいいように並べてしまう可能性があるなと……」


昴は、『こっちも試されるし、向こうの実力も試される』と話す。

恭一は昴の説明を受け入れるつもりなのか、頷いた。


「昴。お前が思うことを周りに理解してもらえるのなら、
色々とチャレンジしてみるといい。私が父から会社を引き継いだ時には、
何もかもが手探りだった。お前の言う通り、独りよがりになったところもあったと思う。
でも、当時は時代がそれを受け入れてくれた。しかし、今は違う」

「はい」


昴は恭一をまっすぐ見ながら、そして恭一も視線に昴を捉え話続ける。

風は、少し斜めの方向から、視線を恭一に向けた。

幼い頃から、恭一と昴が向かい合って話すことを、いつも羨ましく思っていた。

子供の頃は親子として、そして現在は、

『Breath』を作り上げようとする仲間であると感じられる。

風も社内にいるが、仕事の内容がデータを管理することなので、

昴のように熱く語るような出来事は何もない。


「これからはデータを取って、それをしっかりと分析する能力。
そこが絶対に必要になる。『ストロボ』の社員が、
お前の仕事を膨らませてくれるのなら、それでいい」

「はい。青柳さんにどんどんぶつけていくつもりです」


昴が食事を終えたタイミングで、真由子がそれぞれにお茶を出した。

風も昴の隣で、湯飲みを受け取っていく。


「そうだ、『ストロボ』の青柳さんと話をしていて、
会議には営業部も絡めた方がいいのではと、今、うちで色々考えているんだ」

「エ……うちが?」


風は顔を上げて昴を見た。

『販売促進部』の会議に、『営業部』が参加することなど、今まで一度もない。


「そう。本社内にはスーパーやコンビニに卸している商品の、
全国データが入ってきているだろう。
今回の企画は、冷凍分野の拡大もあるけれど、
『ブレスガーデン』の商品開発の一部でもあるからね。
目の前で互いを掛け合わせた方が、より具体的に戦略を練れる。
一緒に活動している営業マンたちにも、絶対に役に立つから」


昴はそういうと、

『仕事を広げて行くことで、なんとか関わってくれないかと思うからさ』と声に出す。


「今来てくれている青柳さんも優秀だと思うけれど……、
実は、菊野さんから『ストロボ』を紹介された時、
『この人に仕事を振れ』って、個人名も出してもらっていて……」

「あぁ、もういい」


風は、手を広げて昴の顔を遮るようにし、話をそこで止めてしまう。


「お兄ちゃんが仕事熱心なのはよくわかった。大事な話なのもわかる。
でも、私は営業部の中心ではないの。営業部とコラボしたいのなら、
まずは杉田部長に話して」

「ん?」

「そうだな、風にあれこれ言われてもな」


恭一が笑ったため、風は昴の膝を軽く叩く。


「……ってこと」

「あ……うん」


昴も、仕事が流れ出したことが嬉しかったため、つい話しすぎたことを反省する。

真由子は風が笑顔を見せていることが嬉しくて、自然と微笑んでいた。





日曜日、美緒と一緒に『カリポリ』に出かけようとしていた伊吹だったが、

その日は朝から強い雨が降り、予定はまた次に変更された。

それでも会う予定を決めていたため、

伊吹は配達に使う軽自動車に貼り付けた、『沼田クリーニング』のロゴを取り、

美緒を迎えに行く。


「これだけ降ったら、さすがに土を触る人はいないよね。
せっかく頑張ろうと思っていたのに」


美緒は空を恨めしそうにみると、悔しさを表現しているつもりなのか、

顔を少し歪めてみせる。


「別に来週に延びただけだろう。で、本当に場所を見に行くの?」

「行きます、行きます。ドライブ、ドライブ」


美緒は『どこに行くのも楽しいの』と言い、

伊吹は車を走らせて、『カリポリ』の場所に向かった。

さすがに雨の中、畑にいる人はいないが、事務所には誰かがいるのだろう、

しっかりと灯りがついている。


「ほら、あそこ」

「エ……どこ?」


美緒は車の窓ガラスを少しだけ開けて、前が見えるようにする。


「ほら、あの真ん中に何もない場所があるだろう。あれが『アスパラガス』」

「何にも……あぁ、わかった」


美緒は『真ん中』と言いながら、伊吹を見る。

雨が吹き込んできたので、すぐに窓を閉めた。

美緒は『濡れた』と笑いながら言うと、ハンカチで腕部分を拭く。


「実際には、道佳さんが小松菜の種をくれて、もうすでにまいてあるんだ」

「エ……種をくれたの?」

「そう、場所を借りる契約をするとみなさんもらえるらしい。
時期によってまくものは違うし、なるべく最初は簡単に育てられる方がいいからって」

「へぇ……」


美緒は『小松菜かぁ……』と言いながら、ダッシュボードの上に腕を乗せ、

少しまえのめりになる。


「両隣はもう数年間借りられているらしいよ。両方とも忙しい人なので、
それほど頻繁に来ているわけではないらしいだけど」

「こういうところを借りるのは、家族が多いのかな」

「どうかな……確かにご家族で借りている人の話も聞いたけれど、
それは、たまたまうちの……クリーニングのお客さんになってくれた人だったからね。
個人情報はあまり教えてくれないな」


伊吹は、『キャロット』と『スナップえんどう』はどういう人が借主なのかと考える。


「『キャロット』さんは特に忙しい人らしい。
道佳さんがよく面倒を見て写真を撮っているから」

「ねぇ、さっきから言うけど、道佳さんって誰?」

「あ、そうか。この『カリポリ』の娘さんのことだよ。
来られない借主さんのために、野菜の成長を携帯で撮影して、報告したり。
ほら、野菜のイラストの看板。あれも彼女が手書きで描いたイラストから、
作られているらしい」

「エ……うーん……さすがにここからはよく見えない」

「まぁ、それは今度かな」

「そうね」


伊吹は『行こうか』と声をかけ、『カリポリ』の前を離れていく。


「ねぇ、ボーリング行こうよ、伊吹」

「急だな、美緒」

「エ……思い出したの、ゼミでよくやっていたこと。どこかにないかな」


美緒はそういうと携帯を取り出し、『ボーリング』と検索し始めた。


【9-6】



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