11 再出発 【11-2】


【11-2】


挨拶を済ませ、歩き出した伊吹だったが、

エレベーター方面に風が立っているのがわかり、

まっすぐに進むことを辞めて階段を選択する。

風もその動きに気付き、横目で伊吹を捉えた。

エレベーターが開いたが、中に数名社員が乗っていたため、

風はそれを見送ることにする。

『下に降りていく』タイミングが、伊吹と合うことも、どこか避けたい気持ちもあった。

風は後ろを向き、廊下の窓から外を見る。

しばらくすると、階段で下に降りた伊吹が姿を見せた。

伊吹は、点滅した青信号を渡ろうと思っているのか、軽く走り出す。

伊吹が渡り終えると、歩行者の信号は赤になり、待っていた車が動き始めた。

公園の中に入っていった伊吹は、風の視界から消えていく。


『何かをする』


風はそれを目標に、自分で手を上げて販売促進部の会議に参加したが、

今日一日で、『何も出来ない』ことを痛感していた。

頼まれて仕事にきた伊吹は、当たり前だが、自分が前に出てこようが、

動揺しているところは何もない。

風は、ただ一人、これからも無駄な時間を重ねていくのかと考えてしまう。


「沼田さんの家は、商店街の中にあるクリーニング店なんだ。
『沼田クリーニング』」


いつの間にか横に立っていた昴の言葉に、風は伊吹を見ていたことを知られたと思い、

『へぇ……』とあまり感心がないような言い方で返事をする。

エレベーターを見送ってから、

この階に呼ぶためのボダンを押していなかったことに気付き、

風は慌てて押そうとしたが、昴が先にボタンへ触れた。


「風が、営業部の代表で来るとは思わなかったな。でも、そのおかげで、
どうして昨日、沼田さんのことを聞いたのかがわかったけどね」


昴は、風が昨日、急に『ストロボ』のことを気にして質問してきたのは、

こうして参加しようとしていたからだと考えた。


「どうだ、初参加のお前の感想は……」


視線を風に向け、感想を聞く。


「わからない……参加は今日だけかもしれないし」

「ん?」

「面倒だなと思ったらやらない。他の人に投げる」


風はそういうと、エレベーターの前から離れ、階段を選び、2階に降りていった。





『商店街の中にある……』


風は、ランチのために1階の『ブレスガーデン』に降りたが、

そのまま店内には入らず、パンとコーヒーを買うと、『柴橋中央公園』の中に入った。

どこか空いているベンチに腰かけて、食べようと思いながら歩いていたつもりが、

足は商店街の方まで向かってしまう。



『沼田クリーニング』



『柴橋』の駅で降りた後、毎日のように通っていた商店街の中に、

伊吹の家があるとは、今まで一度も考えたことがなかった。

ここに『Breath』の本社が出来てからも、

商店街は風にとって、会社と駅の間にある道程度の意識しかないため、

店の名前も気にしたことがなければ、他の店にも入ったこともない。

風は、突然誰かが出てきたら困ると思い、

反対側の道路に路駐している車の影に隠れながら、店の様子を見る。

中では男性が一人動いていて、ビニールをかけた洗濯物を持った女性が店から出てきた。

店の横に止めていた自転車のカゴにそれを乗せ、すぐに走り出す。


風が、伊吹と初めて会った日は学園祭で、

アクシデントで汚れた、スカートの応急処置をしてくれたことがきっかけだった。

家が『クリーニング店』だと言うことは聞いていたが、

会うときはいつも外だったし、実家の場所など知ろうと思ったこともなかった。

風が『家族の話』をすると、伊吹はいつも聞いてくれたが、

自分から家族のことを話すことはなく、店の看板、商店街の状況……

自分と出会うもっと前から、伊吹はこの街に住み、ここで大きくなってきたのかと、

風は店のたたずまいを見ながら、じっと考える。

数分後、路駐をしていた運転手が戻ってきて、目の前の車が動いてしまったため、

風を隠してくれるものがなくなった。

風は、あらためて公園の中に戻っていく。


「あ……」


気付くと、昼休みが30分以上が経過していたとわかり、

風は慌てて座れるベンチを探した。





その日、仕事を終えた風は、『三国川』の駅まで戻ってきたものの、

足は北口には向かわずに、『ニャンゴ』に向かう。

平日でもあり、閉店30分前という状態に、

店内はカメラを楽しそうに扱う男性が一人いるだけだった。

風は扉を押して中に入る。


「いらっしゃいませ……あの、閉店まで30分しかありませんが」

「ダメですか?」

「いえ、ただ、ゆっくりしていただけないなと」

「あぁ……そうですね、でもいいです」


風は『アイスコーヒー』を注文すると空いている椅子に座り、ネコたちを見た。

1日頑張って疲れているのか、丸くなって寝ているものが多い気がする。

紗菜は『アイスコーヒー』をお盆に入れて、風の前に置いた。


【11-3】



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