11 再出発 【11-3】


【11-3】


「ありがとう」

「いいえ……」


『アイスコーヒー』を置いた紗菜は、頭を下げてその場を離れようとする。


「あの……」

「はい」

「ここにいるネコたちは、全て保護されたネコだって、前に言われてましたよね」


風の質問に、紗菜の足が止まった。


「はい」

「飼育放棄とか引っ越しとか……たしか前にうかがって……」

「はい」


紗菜は『結局、人間の都合です』と付け加える。


「人間の都合……確かにそうですね」


風はネコたちを見ながら、小さく頷く。

命に対して、人間が無責任な行動をした結果が、このネコたちだった。


「信じていた人に裏切られて、哀しくなってしまった過去があって、
それでもまた、次は……とここに来て、まっすぐ前に進むネコもいるだろうけれど、
心の傷がなかなか癒えなくて、朝は頑張ろうと思って前を向いても、
思い通りにならずにくじけてしまったり、急に明日が怖くなったり、
そんなふうに、自分の気持ちさえうまくコントロール出来なくなるようなネコ、
いませんか?」

「エ……」

「ダメなりに少しずつ受け入れて、前に進んでいたのに、
一瞬の出来事で、また振り出しまで戻ってしまうような……」



『風がいい……』

『すみません……』



「私みたいに要領が悪い、頑張りきれないネコは、ここにいないのかな……」


風のつぶやきを聞いた紗菜は、それが『心からの叫び』に思えてしまい、

気楽に答えを戻すことが出来なくなった。

紗菜は、あらためて『ニャンゴ』に所属するネコたちを見た。

積極的に人と関わろうとするネコ、ひとりでいることを好むネコ、

それは性格だと思っていたところがあるけれど、

それだけではないのだろうかと、壁の休憩所に丸くなるネコを見る。

保護されてすぐに店に出しているわけではなくて、

人と触れ合うことを受け入れたネコだけがここにいるが、

言葉で心を聞いたわけではない。


「でもやっぱり、癒やされますね」


風は『いただきます』と言うと、

紗菜が置いてくれた『アイスコーヒー』に口をつけた。





『私のように頑張りきれないネコ……』



「あ、そうだ紗菜さん。『ぽんすけ』に引き取り候補が現れたそうですよ」

「うん……」

「あいつがここからいなくなると、あの一番上の休憩場所、誰が取りますかね」


壁に出来ている段差は、それぞれネコたちが気に入り、休憩場所にしていた。

『ぽんすけ』はその中でも一番上をいつも取りに行き、半日くらい動かない時もあった。

紗菜は『ぽんすけ』がお気に入りの場所を見る。

引き取り手が現れて、ここに来なくなれば、当然、あの場所に寝ることはない。


「誰が……取るかな」


風が店を出た後、片付けを行う紗菜と晋平は、ネコたちをケージに戻し、

エサや水を整えていた。晋平は、紗菜の返事がどこか上の空な気がして、

『どうしましたか』と聞き返す。


「どうしたって?」

「最後のお客様と、何か話してましたよね、紗菜さん」

「ん? うん……」

「何か言われましたか?」


晋平は、『飲み物の味がまずいとか』と紗菜を見る。


「ううん、そんなことではないの。北口族には、北口族の悩みがあるのかなと思って」

「……は?」

「ここにいるネコたちは、本当にみんな、傷がちゃんと癒えているのかなって」

「傷?」

「うん。飼い主に裏切られたり、世話をしてもらえなかったり、
ネコたちはみんな、辛い思いをしてきた。
だからここに来ることになったのでしょう。ボランティアさんが、
人といることは楽しいよと、一生懸命に教えてくれて、
で、それならもう一度と、やっとこういうところにデビューしているけれど、
でも、みんながみんな前のように、また人間と暮らしたいって思っているのかな……と」


紗菜の視線を感じた、茶色ネコの『クッキー』は、自分の左手を軽くなめ始める。


「もういいよ、この場所でのんびり寝て起きて、
仲間がたくさんいる方がと思うのはいないのかな。
だってさ、口には出せないでしょう、ネコたち。だからもしかしたら本当はまだ怖くて、
もう人間と深く関わるのはいいと思っているのも、いるのではとそう……
あ、ほら、未だにずっとあの柱の向こうでじっとしている、『リリ』みたいなのもいる」


晋平は紗菜の顔を見る。


「紗菜さん」

「何?」

「疲れてますね、開店からずっと突っ走ってきて」

「ん?」

「言っていることがこう……そこまで考えるか? というような、
とても面倒なことを言っているような気がしますけど、どうです?」


晋平は折りたたんだシートを広げて、ネコをよけながら下に敷く。


「面倒か……まぁ、うん。そうかな、なんとなくあのお客様の話を聞いていて、
気になって」

「ほら、『さくら』どけって……」

「お金持ちって、何でもあり……じゃないのかな」


晋平は、紗菜の言葉に首を傾げる。


「さぁ、どうですかね。俺は持っていると言えるほど、
お金を持ったことが一度もないもので。お金に埋もれてしまう気持ちは理解出来ないな」


晋平は空調の数字を確認すると、『明日は有給ですからね』と紗菜に言った。


【11-4】



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