12 未熟者 【12-7】


【12-7】


「沼田さん、今日は昼飯、行けます?」


その日の会議が終わり、昴は『この間はダメでしたが……』と言いながら、

すぐに伊吹を見た。


「風……お前も……」


昴は風にも声をかけようとする。

しかし、会議の終盤からすでに片付けを始めていた風は、

誰よりも早く立ち上がり、昴の声を聞かずに小会議室を出て行ってしまった。


「なんだ、あいつ、また……」


伊吹は誰よりも早く、この場所を出て行きたかった風の気持ちを考え、

これからも自分がここに来るべきなのかと、気持ちが重くなる。


「沼田さん……」

「あ、はい」


その瞬間、伊吹も誘いを断りたいと思ったが、

昴と話すことで、何かわかるかもしれないと考え、

一緒に『ブレスガーデン』に向かうことにした。



「コンビランチ2つ」

「かしこまりました」


昴は注文を済ませると、ウエイトレスが置いたお冷やを一口飲んだ。

お店はランチのピークタイムで、席はほぼ満席になっている。

店内には主婦の集まりのようなテーブルもいくつか見え、

伊吹は、母の鮎子が近所のお友達と食べに来たことがあると言っていたことを思い出す。


「沼田さん、青柳さんの様子はどうですか」

「順調に回復しています。まだ出社は無理ですが、右手は動くので、
データの整理とか、家で少しずつやりたいと言ってくれていて」

「あぁ、そうですか。それならよかったです」


昴の言葉に、伊吹は『ご迷惑をおかけました』と頭を下げた。


「いえ、うちは沼田さんが来てくれたので、仕事は進んでいますし、
迷惑なんてことはないですけれど、『ストロボ』さんが大変だろうなと」


昴は『少数精鋭ですからね』と、『ストロボ』の仕事を評価する。


「まぁ、普段は各自で行動していますが、共有出来るところもあるので、
そこはフォローしあって……」


伊吹は『僕も仲間に助けられているので』と話し、お冷やを飲む。


「沼田さんは、将来、お店を継ごうと考えて、
自由に仕事をさせてくれる『ストロボ』に入ったのですか?」

「エ……」

「あ、いや、すみません、プライベートなことですよね。つい……」


昴は『わざわざ契約社員の待遇で仕事をしているので』と話す。


「僕はあまり『クリーニング』のことはわからないですが、あぁいう仕事は、
修行というか、何か技術の勉強をしてなるものかと思っているので。
沼田さんが手伝いの日を作っているのは、そういうことなのかなと……」


伊吹は『いえ……』と軽く首を振る。


「店を継ぐことはないと思います。実際、父にも言われていませんし、
『クリーニング』はチェーン店舗が増えて、個人経営は難しくなっています。
大きな工場でたくさんの洗濯物を扱う方が効率もいいですから……」

「ですよね」


昴がそうだろうなと頷いたそのタイミングで、

二人の前に、注文したセットのサラダが置かれた。

伊吹はウエイトレスが前から去って行くのを待ち、『タイミングです』と答えを返す。


「タイミング」

「はい。大学4年の春に父が倒れて。それまでは店の配達も父が行っていたのですが、
さすがに運転は無理だと言うことになりました」

「配達……品物をですか」

「はい。今、『Breath』の本社があるこの場所には、以前、公営住宅がありました。
そこに暮らしていたみなさんが、『梶木原』に作った団地に越したので、
慣れない環境だと色々と大変だろうと、父がそこまで」

「あぁ……そうなのですか」

「はい。病気をきっかけにして、商売を辞めてしまえばよかったのかもしれませんが、
自分の病気で色々変わることは、父が辛くなるのではと……」

「やっていたことを、やらなくなるということですか」

「はい。また仕事をしたいというのが、父のリハビリを支えていたので。
ならば自分が手伝ってと考えました」


二人の前にランチのメイン料理と、パンの乗ったお皿が並ぶ。

以前、家で食べた時と同じように、香ばしい匂いが鼻に向かってきた。


「でも、事情を話して、毎週どこかで休みを取るなんて、
特別な待遇を認めてくれる企業は、なかなかなくて。
情報処理的なことは勉強していたので、それをなんとかと考えていた時、
就職のセミナーで『ストロボ』の社長の樋口に会いました。
『ストロボ』の仕事の仕方なら、自分のペースを作ることが出来るかなと……」


伊吹の話を聞きながら、昴はナイフとフォークを動かし始めた。

伊吹は『タイミングがよかったです』と話し、同じように食べ始める。


「そうでしたか。でもこれからは、
毎日ただ出社して、顔を合わせてという仕事の仕方は変わってくると思います。
うちでも昔は部長クラスが揃って会議になっていましたが、
今はリモートが使えましたからね。資料も印刷する必要は無いですし。
『ブレスガーデン』が西日本に広がっていけば、余計にそうなると……」


昴の言葉に、伊吹も頷きながら食べ進める。


「で、これは僕の考えなのですが、『ストロボ』さんのやり方を見ていて、
うちの営業部のデータを管理する方法も、アドバイスがもらえるかなと思ってまして」


昴は『本社に集約するけれど、単独でもデータが扱えるようにしたい』と話し始める。


「それもあって、ここに風も呼ぼうとしたのですが。すみません、あいつ……」


昴は、自分が食事に誘おうとした時、無視するように出て行った風のことを頭に浮かべ、

『不機嫌そうな顔をしてましたよね』と、前にいる伊吹に謝った。

伊吹は『そんなことは……』とすぐに否定する。

しかし、ここは風のことを聞くチャンスかもしれないと思い、

『何かあったのですか?』と昴に問いかける。


「何か?」


昴は、伊吹が風の様子に反応してきたので、逆に聞き返す。

伊吹は個人的な興味だと思われてはと考え、『うちにも妹がいて……』と付け加えた。


【13-1】



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