14 チケット 【14-3】


【14-3】


日曜日、天気は快晴になった。

伊吹は『沼田クリーニング』のロゴがついたマグネットを外し、

軽自動車で『梶木原』の駅まで美緒を迎えに行った。


「ブレーキの不調、直った?」

「直ったよ。そうでなければ迎えに来られないだろう」


伊吹は、美緒を乗せ、一緒に『カリポリ』を目指す。

雨や車の不良で流れていたことが、今日、やっと実行されることになった。


「大根?」

「そう、8月に植えて秋に取れる」

「じゃがいもとニンジンだって言ったよな。
初心者はあまり欲張らない方がいいって聞いたぞ」

「欲張り? だって今あるのは小松菜だけでしょう。それももらったものだし。
失敗したっていいの。やってみること」

「まぁ、いいけど」

「うん」


美緒は『伊吹と遊べるのが楽しい』と笑い出した。

伊吹は『遊び?』と言いながら、

それでも美緒と一緒に何かをすることがあまりなかったため、

嬉しそうな顔を見て、どこかほっとする部分もあった。


「うわ……停められるところ、あるかな」


日曜日ということもあり、さすがにいつもよりも駐車場は混雑している。


「あ、伊吹、あそこ」


美緒が空いている場所をすぐに見つけたため、伊吹はハンドルを切って、

その場所に止めることが出来た。


「伊吹、本当に道具は貸してくれるの?」

「あぁ、そう聞いた。軍手は持ってきただろう」

「もちろん」


美緒は『タネも持ってきたよ』とビニールバッグを指さし、伊吹と一緒に中に入る。

最初に事務所へ行き、『来ている』ことを用紙に記入した。

すると『キャロット』にも印がついていることがわかる。


「あ……こんにちは」

「どうも」


道佳が事務所にいたため、伊吹はすぐに頭を下げた。

隣にいた美緒も『こんにちは』と挨拶をする。


「いらっしゃい。沼田さんがいつ来るかなと思って、今日は私、ウキウキしてました」


道佳の楽しそうな雰囲気を見た美緒は『ウキウキだって』と伊吹を見る。

伊吹は黙って頷いた。

道佳は『行きましょう』とすぐに二人を畑に誘う。

伊吹は、道佳のテンションがいつもより高いことが気になりながらも、

天気がよく、利用客が多いからだろうと考え、美緒と一緒に後ろをついていく。


「あ、そうそう、車平気?」

「はい。ブレーキの調子が悪かったので、見てもらって……」

「そう……」


すると、『アスパラガス』の隣で、作業をしている人が見えたので、

伊吹は『キャロット』の人だと思い、『こんにちは』と挨拶をした。

男性は帽子を取ると、『こんにちは』と挨拶を返してくれる。


「あ……」


『キャロット』の借主として立ち上がったのは、笑顔の昴だった。


「こんにちは」


伊吹は『アスパラガス』の隣にある『キャロット』の貸主が、昴であると、

その時初めて気付く。


「こんにちは」


昴のことを知らない美緒は、挨拶の後、

『アスパラガス』を借りることになりましたと話した。

道佳は『驚いた?』と伊吹を見る。

伊吹は急な展開に、ただ頷くだけになる。


「隠していたみたいになってごめんね。
あ、でも、ほら、最初に昴から沼田さんのことを聞いた時、
仕事を断ったって言うでしょう。父のこととか話している中で、
私と昴が知りあいで、ここが昴の場所だと言ったら、避けられてしまうかなと思って」


道佳は『でも、昴から仕事が出来るようになったって聞いて……』と言い、昴も頷く。


「すみません、日曜日に沼田さんが来ることを聞いているから、
道佳がサプライスにするって子供のように言うもので。僕もそれまで黙っていました」

「あ……それどういうこと?」


黙ってしまった伊吹に、美緒は『知っている方?』と質問する。


「森嶋です」


昴は、伊吹が言う前に『森嶋昴と言います』と名前を名乗り、美緒に頭を下げる。


「森嶋……」

「はい。『Breath』で、沼田さんと仕事をすることになって……」

「エ……」


美緒は名字と会社名に驚く声を出したが、そこで伊吹に問いかけるわけにはいかず、

すぐに切り替え『そうですか』と答え、『陣内美緒です』と名前を名乗る。


「城所道佳です。昴とは大学時代の同級生で、今は……一応お付き合い?」

「一応っておかしいだろう」

「あ、そうね」


自分たちの関係を明るく話す昴と道佳とは違い、伊吹は目の前で展開される会話に、

頭を整理することが出来なくなっていた。それと同時に、美緒は今、

何を思うだろうかとその表情を見てしまう。

美緒の視線は、昴と道佳に向けられていて、それなりに頷いている。


「お二人は大学の同級生ですか。私と伊吹は先輩と後輩です。
私たちも一応……ねっ伊吹」

「あ……うん」


伊吹の返事に、『一応じゃないでしょう』と道佳が付け足し笑い出した。


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