14 チケット 【14-6】


【14-6】


『私も高校生からファンで……』



風は自分がしたことを反省しながら、『ごめんなさい』の意味を込めて、

紗菜の走って行った方向に深く頭を下げた。

チケットを渡した紗菜は、風の方を一度も振り返ることなく、店に向かっていく。

その姿は改札から出てくる人の波に紛れ、風からはあっという間に見えなくなった。

風は、あらためてファイルに収められているチケットを見る。



『悠真、叔父さんに頼んでよ、チケット』

『誰の?』

『誰って……『AREA』に決まっているでしょう、ねぇかおり』

『そうそう、いい席にしてね』



風は、『AREA』の来日を知り、すぐに悠真を頼った時のことを思い出していた。

席は見やすくていいところと、当たり前のようにお願いしたし、

取れた時にも多少の安心感はあったものの、『取れなかった人』がいることなど、

ほとんど考えていなかった。


『高校生からファンで……』


自分が欲しかったものが目の前にあっても、その欲に負けず、

こうして持ち主に戻せる強さと、優しさを感じながら、

『保護ネコカフェ』を仕事にしている紗菜は、自分より数倍大人に見えた。

風は、あらためて自分の未熟さを痛感しながら、

戻ってきたチケットの入ったファイルを、抱きかかえるようにして家に戻る。

それから、あらためてかおりにラインを送った。



『チケット、あった』



あまりの展開に驚いたかおりから、『事実はどういうことなのか』と、

電話がかかってきたのは、それから5分後のことだった。





「どうした道佳、今日の店、美味しくなかったか?」

「ううん……そうではないの」


道佳は心配そうな昴の顔を見て、『ごめん』と謝罪する。


「謝ることはないけど……」

「だって、やっと昴とゆっくり話しが出来るのに、
そうだよね、つまらなそうな顔をしたかもしれない」


道佳は、もっと話がしたかったし、もっと笑いたかったが、

気持ちが着いていかなかったと、昴に話す。


「沼田さんのこと」

「うん」

「今日、『カリポリ』で会ったでしょう。困っていたように見えたの。
最初は驚いたのかと思った。でも、それからもどこかぎこちなくて。
帰るまでずっとそうだった。二人とも、私に質問とかもなく、作業していたし……」


伊吹たちが帰った後も、道佳と昴の畑仕事は続いた。

その後、道佳は事務所でも仕事を済ませ、それから昴と二人、

食事に出かけることになった。

コース料理を食べ、車に戻り助手席に座った道佳は、

『もっと笑ってくれるかと思っていたのに』とつぶやく。


「笑うって?」

「エ……あ、なんだ、『キャロット』は森嶋さんだったんだ、あはは……みたいに?」


両手を叩いて、驚きと明るさを演出するような道佳の言葉に、

昴は『それは沼田さんの性格だろう』と切り返した。


「そうかな。美緒さんだっけ? 彼女もどこか……」

「初対面だからだよ。会社で会っても、沼田さんはそれほど笑ったりしないし、
美緒さんも緊張していたのだと思う。ほら、こっちが仕事相手だと思ったら、
変なことを言って、沼田さんに迷惑がかかるかもとかさ……」


昴の切り返しに、道佳は納得がいかないのか、首を傾げる。


「とにかく、明日会うから。すみませんって言っておくよ、気にするな」


昴はそういうと、ある場所を目指して走り続ける。


「すみません……か。ほら、昴も私が余計なことをしたと思ったのでしょう」


道佳は『こういうところは父に似ているのよね、きっと』と、

余計なことをしたという気持ちに自然と頭は下を向き、ため息をつく。

昴は『せっかくの日』に、道佳の気持ちが落ち込んでしまったことを思い、

『大丈夫だよ』と励ますような声を出す。


「笑うことが大好きで、人と話すことが大好きで、
いつも笑顔……それが道佳のいいところだろう。
二人とはこれからも会うわけだから、だんだん理解してもらえるよ」


昴は、そう言いながら、大学時代に出会った道佳のことを思い出していた。

同じゼミを取っていたこともあり、話をすることはあったが、

当時は互いに別の相手がいて、大勢の仲間の一人という存在だった。

しかし、卒業が近づいたある日、

校内を一人で歩いている道佳を見つけ昴は声をかける。

話をしている中で、道佳も一人になっていたことを知った。

大学時代が楽しかったので、この場所を離れたくないと、頑張って笑う道佳を見て、

昴はこの人の柔らかい笑顔が、常にそばにあればと思うようになっていた。

しかし、卒業する寸前の告白は、道佳に断られてしまう。

理由は昴が『Breath』の社長を父に持つことだった。


『親しくなればなるほど、別れなければならなくなるのが怖くなるから』


その理由を聞き、昴は数日後、道佳を呼びだした。


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