14 チケット 【14-7】


【14-7】


自分は確かに森嶋家の長男で、就職先も『Breath』を選んでいるが、

だからといって、自分自身を捨てることはしないという宣言だった。

何度振られても、また君に会いに行くと言った昴に、道佳は笑い出す。

どうして笑われるのかわからず、その手をつかんだ時、

道佳の目にはたくさんの涙が浮かび、そしてその体は昴の胸の中にあった。

昴は、道佳の笑い声と泣き顔の表と裏を知り、

彼女の中にある人を思う優しさに気付き、さらに愛しさを増していく。

そして、彼女の存在が両親に認めてもらえるよう、仕事も必死に取り組んだ。


「ねぇ、昴。どこに行こうとしているの?
家に送ってくれるのかと思っていたのに、方向違うでしょう」

「気付くの遅いな」


道佳は『もしかしたら私、誘拐されている?』と昴に向かって言うと、

また楽しそうに笑い出す。


「誘拐だとしたらどうする」

「そうだな……メチャクチャ豪華なホテルにして欲しい」


道佳はそういうと『それなら海にでも行くの?』と問いかける。


「このあたりを走っていて、気付くことないのか」


昴はそういうと、信号を左に曲がる。

するとその奥に見えたのは二人が卒業した『桜北大学』だった。

道佳は『あ……』と大学の存在に気付く。

そこからは無言のまま走り、正門の前を通り過ぎると、

少し広めになっている場所を見つけ、車を止める。


「豪華なホテルじゃないけれど、でも、ここが原点だから」


昴はそういうと、グローブボックスを開ける。

そこに入っていた指輪のケースを出し、道佳の目の前で開いて見せた。

道佳は『エ……』と声を出した後、黙ってしまう。


「今の仕事が軌道に乗ったら、プロポーズをしようと思っていた。
道佳がいない僕のこれからの人生はないなと、ずっと思ってきたから……」


昴は道佳を見る。


「楽しい時間を過ごしても、こんなふうに送り届けるのは、もう嫌だなと思って」

「……うん」

「道佳とずっと一緒にいたい。僕のそばで笑っていてほしい」


道佳は昴の方を向き、笑顔で『うん』と言う。


「結婚してください」

「はい……してあげます」


道佳はそういうと、指輪を受け取る前に昴の唇にキスをする。

昴は指輪のケースに被さるようになった道佳に対して、

『指輪が落ちるぞ』と言いながらも、左手を道佳に添えて引き寄せた。


「指に通して……昴が」

「うん……」


道佳の差し出した指に、昴は指輪を通していく。

二人はあらためて見つめ合うと、静かにたたずむ思い出の場所の前で、

将来を誓い合う口づけを交わした。





ベッドの中で眠っていた伊吹は、美緒が体を動かしたことで目が開いた。

携帯で時間を確認すると、そろそろ夜の10時になろうとしている。


「美緒……」

「ん?」


伊吹は『そろそろ帰るよ』と美緒に声をかけた。

下に落とした洋服を取り、身につけていく。

昴と道佳の悪気がないサプライズから、美緒の気持ちが複雑になった。

昼食を済ませた後、ドライブだと川まで出かけ、飛んでくる鳥を見ながら、

美緒と足をつけて楽しんだ。

それからも伊吹は、美緒が望む時間を作るべきだと思い、

この後どうするか問いかけた。美緒は黙って手を握ってくる。

それが答えだと思い、美緒のアパートに戻り、二人だけの時間を作った。

伊吹は、美緒の幸せそうな顔を見るたび、この時間を壊してはだめだと再確認し、

過去は振り返らないようにしていこうと考える。

伊吹が帰り自宅を始めたため、美緒もベッドから起き上がり、

同じように脱いだ服を身につけていく。


「今日はごめんね、伊吹」

「どうして謝るの」

「だって……色々と不機嫌になって、嫌な女だなと」


美緒の言葉に、伊吹は振り返り抱きしめる。


「美緒の気持ちが晴れるのなら、毎日でもここに来るけど……」


伊吹はそういうと、美緒の耳元に触れる。


「気持ちだけで十分」


美緒はそういうと、嬉しそうに微笑んだ。



伊吹は車に乗り、美緒のアパートから離れ始めた。

伊吹の年齢は今年30、美緒は2つ年下なので今年28になる。

付き合いを始めて2年が経つこともあり、年齢を思えば、

そろそろ将来を考えてもおかしくはない。

伊吹は、宗佑が『罪は罪として背負っていく』という言葉を思い出す。

今、一番考えないとならないことは何か……

伊吹はそれを考えながら、アクセルを踏み込んだ。





月曜日、昴はいつもよりも早く起きると、食卓についた。

恭一は新聞を読んでいて、母の真由子は風と一緒に、食事の支度をしている。


「お父さん」

「どうした」

「お母さんも風も、座ってくれないか」


真由子はお茶の支度をお盆に乗せると、昴の言う通りに恭一の横に腰掛けた。

風も朝食の準備の手を止めて、自分の椅子に座る。


「報告だけ、させてください。昨日、城所道佳さんにプロポーズをしました。
これから、結婚に向けて動き出そうと思います」


昴の告白に、真由子は『そうなの?』と驚きの声をあげ、

恭一は『そうか』と一言だけ返す。


「まずは、自分たちの気持ちをしっかり決めてと思っていたので。
道佳のお父さんにも会って欲しいけれど、うちも相手も仕事があるから、
そう焦らずにとは思っています。とにかく、今取り組んでいる仕事が、
きちんと流れてからかな」


風は横に座る兄を見る。

仕事もプライベートも、昴には未熟なところが何もない。

しっかりと前を見て、一歩ずつ進んできた。

道佳さんという女性には、まだ会ったことはないが、

自分よりも数段大人の女性だろうと考える。


「昴……」

「はい」

「おめでとう」


恭一がそう言ったことを受け、真由子も『おめでとう』と笑みを浮かべる。

昴は『ありがとう』と照れくさそうに言うと、『少し緊張した』と話す。


「おめでとう……お兄ちゃん」

「うん」


風の言葉に、昴が頷くと『いただきます』と食事を開始する。

そこから昴の話が続くことはなかったが、

恭一も真由子も、二人とも満足そうな顔をしていることだけは、風にもよくわかった。


【15-1】



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