15 君のため 【15-1】


【15-1】


「同級生」

「あぁ……桜北のな」

「へぇ……」


雨が降り、昴が車で通勤をすることがわかったので、

風は後部座席に乗せてもらうことになった。

今日は『AREA』のコンサートのため、食事は外ですることも真由子に話し、

しっかりと許可をもらう。


「お兄ちゃんが選ぶ人か……どんな人なのかな、道佳さんって」

「あ、そうか、お前はいなかったな、道佳を家に連れてきたとき」


昴はそういうと『明るくて元気な人だよ』と道佳のことを話す。


「人と話すことが大好きだし、体を動かすのが大好きで。
でも、子供みたいなところもあるから、昨日もやらかして」

「昨日?」

「あぁ……」


昴は道佳が『カリポリ』というレンタル畑を運営している家の娘で、

そこに畑を借りていることも話す。


「お兄ちゃんが畑? エ……そんなことしていたの?」

「うん。そうは言っても、仕事があるからさ。
ほとんど道佳が世話をしているようなものだけどね」

「レンタルの畑……全然話していなかったのに」

「いや、彼女の家ということもあるけれど、
商品開発に役に立つかもと思ったこともあるんだ。うちの惣菜パンに利用する、
野菜の種類を考える時に、どういう成長をするものなのか、
知ることも必要かなと思って……」


風の問いに、昴は『土いじりは楽しいぞ』と言い返す。

風は、頭のどこかに常に仕事があるのは兄らしいと考え、笑みが浮かぶ。


「お兄ちゃんもお父さんと同じになるよ。仕事病になる」

「は?」


風は笑いながら『道佳さんが何をやらかしたの?』と話を元に戻す。


「あ、うん……そう。隣の畑を、沼田さんが借りることになってさ」

「エ……」


『沼田伊吹』の名前が思いも寄らないところから登場し、

風は『そう……』と言葉少なめに返事をした。

木曜日に言い合った時の顔が、また浮かんでしまう。

昴は風の複雑な気持ちなどわからないため、『昨日、畑で会ってさ』と話し続ける。


「いや、会ってというより、道佳が必死に会わせたというべきかな。
沼田さんが畑を借りてから、なかなか来られていなくて。
で、昨日は、彼女と一緒に来たのだけれど、道佳がサプライズだとかいって、
初めて俺が隣を借りていることを話したから。驚いていた。
最初は、仕事を断られただろう。だから借りる前に話すと嫌がられると思って、
隣が僕だと言っていなかったから」


『彼女』という言葉の響きが、風の心にまっすぐ突き刺さってきた。

昴は昨日の出来事を語っているようだが、内容など入っていかなくなる。

別れてからの時間を思えば、当然、伊吹にも新しい時間が積み重なっているし、

あの雨の中、突然告げられたのは『好きな人が出来た』という言葉だった。

それを頭では理解出来ているつもりでも、『幸せ』とはほど遠い

自分の状況と比べてしまい、やはり悔しさや情けなさがまとわりついてくる。


「……向こうは、大学の先輩と後輩とか言っていたかな」


昴の台詞に、風はあの時、伊吹と一緒に去って行った女性が、

今もまだそばにいるのだと考える。

自分と過ごしたのは、1年半ほどだったのにと、複雑な悔しささえ出てしまう。


「一生懸命ニンジンとか植えていた。かわいらしい人だったな……」


風は『もう……そこまでいいよ』と言った後、携帯のイヤホンを取り出す。


「ん?」

「別に、人の話まで聞きたくないから」


風は、自分の視線の先に、昴の目があり思わず下を向いた。

昴も、話し始めた時には感じなかった風の不機嫌さが、今は前面に出ている気がして、

バックミラーを見た後、言葉の『続き』が出せなくなる。

流れていた会話は、急にストップしてしまった。

車内には、エンジンの音だけが響く。

風は、伊吹の今を聞くことが嫌で、少し嫌みっぽい言い方をした気がして、

『あのさ……』と自ら話題を変えようとする。


「お兄ちゃん。ほら、最初に出した営業の資料あるでしょう」

「最初の資料?」

「そう。たぶん、お兄ちゃん達の活動を知って、
頼まれた山井さんがすぐに出したのだと思うけれど、
あれ、見ながらもう少し色分けに工夫をした方がいい気がして、昨日、直したの。
だから、今日、もう一度配ってくれる?」


風は、『細かいようだけれど、見やすくなった気がするし』と話し、

あらためてイヤホンを耳につけようとする。


「それでさ……販売促進部の会議、まだ、私、出た方がいい?」


風は、出なくてもいいのならそうして欲しいという気持ちを込めて昴に問いかけた。

昴はすぐに風を見る。


「どうしてそんなことを聞くんだよ。出た方がいいに決まっているだろう。
これから、今まで出してきたアイデアを、沼田さんの資料と掛け合わせて、
最終的な形にしていかないとならないのに。それに、うちの仕事が終わったら、
営業部にも『ストロボ』と出来ることがあると思っているからさ」


昴の言葉に、風は少し困った顔をする。


「風……お前、自分が引き受けたのだから、きちんとやらないとダメだぞ。
聞いていることが多いし、専門用語もあるから、大変かもしれない。
だけど、会議に必要だから、メンバーとして出ているわけで。
変わってくれと言えば、そうしてくれるかもしれないけれど、
それは甘えになることくらいわかるだろう」


昴は少し強めの口調で、風に言った。

『森嶋』という名字を持つからこそ、気にしないとならないこともある。

風は確かにその通りだけれど、気持ちがついていかないことを言おうとして、

結局口を結び、イヤホンを耳につけていく。

昴は、風がふてくされた状態になっているのかと思い、軽くため息をついた。


【15-2】



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