16 穴埋め 【16-3】


【16-3】


「どうだ、オブラートになんか包まないぞ。今日の目的はそこ。
でも、お前に会いたいと行ってきているのはそもそも向こうだ。
風は堂々と会ってやればいい」

「堂々と?」

「あぁ、そうだ」


風は『お父さんか……』とこの話に恭一が絡んでいるのだろうと思い、

そう一言つぶやいた。

笙は、風の声に反応せず、しばらく黙ったまま運転を続ける。


「確かに恭一さんにも、風にいい相手がいないかと聞かれてはいるよ。
機会があったら、天羽先生の息子さんと会うことになる話もした。
でも、強制的にそうしろと言われたことは一度もないし、風が会ってみて、
嫌だなと思えば、別に続きを作る必要はないだろう」


笙は『出会いには色々ある』と口にする。


「出会いね……」


笙の言葉に、風はそれだけを返した。

あらためて、自分と父親との会話が少ないことを痛感する。

昴のように、積極的に話をすればいいのかもしれないが、積極的に話をするほど、

実のあるものだとも思えず、つい、辞めてしまう癖がついていた。


「昴のように、お前も付き合う人がいるのなら、恭一さんに自分から話せばいい。
風の感情を全て無視して、誰かを押しつけるほど、俺も恭一さんも非情ではないよ」



『真面目そうな男だったよ、まぁ、それだけだろうけど』



笙の脳裏に、8年前の雄太からの報告が蘇る。



「ただな……人には生きていくエリアがあるのだと、俺は思っている」


笙はそう言った後、黙ったまま車を走らせていく。

風は、強制はしないと言いながらも、流れを作られているのだと言うことは、

ひしひしと感じていた。


「エリア……か」


風はそうつぶやくと、これが自分の道なら、いいとか悪いとかを考えず、

『流されていよう』と思い、黙って外を見続けた。





その頃、笙と風が向かっている会場では、宮田の秘書の洲本と、天羽の秘書の生島が、

準備がきちんと出来ているのかと、チェックを会場側と行っていた。

見習い中の直輝は特にやることもないまま、生島の後ろでその流れだけを見続ける。


「ここに、小さなテーブルを置いてください」

「テーブルですか」

「はい」


生島は、招待されている人の名簿、駐車券などの細かい部分にまで指示を出す。

直輝は、なんとなく会場の中を見渡した。

ここにどれくらいの人数が来るのだろうかと考えていると、

こちらに向かって手を振る人物に気付く。


「ん?」


出入り口のそばに立っていたのは慶で、直輝が自分に気付いたことがわかり、

さらに大きく手を振って存在をアピールした。

直輝は生島のそばから離れ、慶のところに歩いていく。

その腕をそのまま引き、会場から少し離れた場所まで進んだ。


「なんだよ、直輝」

「なんだよって言葉は、お前にそのまま返してやる。どうしてここにいる」

「どうしてって、俺の親父は天羽議員の運転手だぞ」


慶は、少し胸を張ってみせる。


「お前は違うだろう」


直輝の言葉に、慶は『気になってさ……』と舌を出す。


「来るのだろう、『Breath』の社長の娘」

「だとしたら何だ」

「だとしたらって、それはないだろう。親父も話していたよ。
今日、宮田先生も来るし、社長の娘さんも来るから、天羽さんにとっては、
色々と大事な日だろうな……って」


慶は『邪魔はしないよ』と直輝を見る。


「大事な日ね」


直輝は、本来なら一番大切にされないとならない自分の感情が、

置き去りどころか無視されている気がして、大きくため息をつく。



『お前のためを思って』



この言葉を、直輝は父や母から何度も聞かされた。

しかし、その裏ではいつも自分たちの都合が大きく存在している。


「でもさ、よく会う気になったな。
俺、もしかしたら直輝は、会場設定のドタバタを利用して、
いなくなっているのではないかと思っていたよ」


慶は『車なら、駐車場に乗ってきたぞ』と直輝を見る。


「会う気になったわけではないけれど、どうせどこかで会わされるのだから、
さっさと会って、その気がないことを告げた方がいいだろうと思ったからね」

「……ないのか、その気」

「ないよ。前にも言ったよな。結婚なんてする意味を見いだせない」


直輝はそういうと、会場のチェックを続けている生島を見る。


「仕事とはいえ、あの人は親父のために、どうしてあんなふうに動けるのか、
不思議で仕方がない。このまま一生、票だ選挙だって、あたふたするのはまっぴらだ」


直輝はそういうと、整っていく会場を見渡していく。

後20分もすれば、ここに『何かを得ようとする人達』が入り始める。

招待する方、される方、どちらにもメリットがなければ、意味がない時間が、

これからこの場所で使われる。


「そうか……大事な日、大事な相手だよな、親父にとっては」

「ん?」


慶はそこまで無表情に近かった直輝の顔に、笑みが浮かんだことがわかり、

『直輝……』と声をかける。


「そうだ、どうせ、次など作る気持ちもないのだから……」


直輝は慶を見る。


「どっちに転んでも、楽しい方がいいに決まっている。どうせなら派手に……」

「は?」

「慶、お前、駐車場で待ってろよ」

「待つ? 何を」

「俺に決まっているだろう。会ったらさっさと最高の挨拶をして、会場を出るから」


直輝はそういうと、『連絡を待てよ』と慶に話す。

慶はその場で敬礼をすると、駐車場の方に向けて歩き出した。


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