16 穴埋め 【16-4】


【16-4】


『未来を考える会』


会場設定が終わり、招待客が中に入り出した。

この地域の現職議員である宮田と、今は比例区で当選しているものの、

この地盤を引き継ぐ可能性が高い天羽が揃うこともあり、

『これから』を考える企業からも、色々と顔を出す人がいた。

そこに、ヒールを履いた女性が一人登場する。


「はぁ……わざわざここに呼ばれるとはね。忙しいのはわかるけれど、
最初の連絡から何日経っているのよ。今更、顔の広さを知らせてくれなくたって、
十分知っているって言うのに」


会場の入り口に顔を出したのは、伊吹の母、路葉だった。

受付についたら名前を名乗り『洲本さんをお願いしますと言うこと』。

それだけを頭の中で繰り返しこの場所まで来た。

受付には、男性と女性2名ずつが立っている。

最初は並んでいる人の後ろに着こうかと思ったが、そもそも会に参加する予定はない。

路葉は並んでいる人達の横を通り、先頭まで向かうと、

すぐそばに立っていた男性に『あの……』と声をかけた。


「はい」

「すみません、沼田と申します。洲本さんをお願いします」


言われた通りに名前を出すと、目の前にいた男性は並んでいる列を見た後、

『アポイントは』と路葉に聞いていた。


「アポ?」

「はい。洲本とは……」

「何よ」

「いえ、ですから、洲本とは……」


路葉は、受付の男性がなんとなく笑みを浮かべ、そう繰り返したことで、

自分の存在を軽く考えているのではないかと考えた。

ここへ来るように告げたのはそっちだと思い、両手を台の上に置く。

怒りの気持ちを多少込めたからか、『バン』という音が響き、

自然と周りの視線を集めてしまう。


「アポ、アポってさぁ……ここへ来いと言ったのもそっち。
名前を言えと言ったのは洲本さんなの。知らないわよ、とにかく聞いてみてちょうだい。
忙しくて会えないと言うのなら帰りますから」

「あ……少々お待ちください」


男性は路葉が口調を荒げたため、慌てて受付前から離れ、奥に消えていった。

路葉が振り返ると、目を合わせたらまずいのではと思う人達が視線をそらす。


「全く、何よあの妙な笑い。人のこと上から下に見ていたでしょう、あいつ」


路葉は、周りの視線を感じたため、『失礼しました』と一言言った後、

自分は会に関係がないですという意味で、さらに端に立った。



「風……名刺は……」

「エ……名刺? 持ってこなかったけれど」


路葉の発言から少しして、列に並んだのは笙と風だった。

笙は『名刺を常に持っていないのか』と呆れたように言う。


「持っていません。笙君とは仕事の内容が違うの。
いつも社内だし、名刺のことなんてすっかり……」


風は両手をお手上げのポーズにした後、笑い出した。

笙は『全く……』と同じように笑いながら、受付を済ませ中に入っていく。

横に立った路葉は、何気なく笙が出した名刺を見た。



『株式会社 Breath』



路葉は伊吹がそういえば『Breath』で仕事をしていると、鮎子から聞いたことを思い出す。

腕を組んで、隅の方に立っていると、しばらくして洲本が顔を出した。


「沼田路葉さんでしょうか」


その声に路葉は洲本の方を見る。


「はい、沼田です」


路葉はすぐにそう答えると、洲本に会釈をした。





風は笙の後ろにつき、そのまま会場の中に入った。

すでにある程度の人がいて、あちらこちらで名刺の交換や、挨拶が交わされている。

主役である議員の宮田と、天羽はまだ姿を見せていないが、

笙を見つけた一人の男性が、こちらに向かって歩いてきた。


「ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ……」


笙は風に『天羽先生の秘書をされている、生島さんだ』と紹介した。

風は『森嶋風です』と挨拶をする。

生島は誰かに話しかけられていた直輝の元に向かうと、笙の前に戻ってきた。


「川端です。天羽先生には本社建設の際に、大変お世話になりました。
今日は、直輝さんがいらっしゃると聞いていたので、同年代の風なら、
話も合うのではと思い一緒に……」

「森嶋風です」


直輝の前に出て名前を名乗ったのは、確かに、以前、

慶と飲んでいた店で見かけた女性で間違いなかった。

この出来事に、どれくらいの人が動いているのだろうと思いながら、

直輝は『天羽直輝です』と名乗り、風を見た。


【16-5】



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