16 親子の事情

16 親子の事情


『とんかつ吉田』は駅から徒歩で2分ほどの場所にある。

近くには小さな工場と、私立高校があり、店内へ食べに来る客もいれば、

出前を頼む人も多い。厨房には靖史の父、清太郎が主に立ち、靖史は出前に向かう。


「ヒレ定食、2人前です」

「はいよ!」


比菜が入ったことで、自分の抜けた穴を気にしないで済んだ靖史の母和子は、

ほとんどよくなった腰を軽くさすりながら、様子見がてら店をのぞく。

『フリーワーク』に飛び込んできた比菜が、どんな娘なのかもあまりわからないまま、

靖史に押し切られる形でバイトを頼んだが、その素直さを知るたびに、

別の感情がわき上がるようになった。


「比菜ちゃん、お疲れ」

「いえ……」


ランチタイムが終了し、のれんを入れる。

店の換気扇の下では、清太郎が美味しそうにタバコをふかし始めた。

比菜はのれんをテーブルに置くと、休憩を取りますと頭をさげ店を出る。


「ねぇ、お父さん」

「ん?」

「比菜ちゃん、これからもうちで働いてくれないかしら」

「なんだお前、もう腰はだいぶいいんだって言わなかったか?」

「そうなんだけど……」


右手で腰を押さえながら、和子は急須を手に取り、お茶を入れ始めた。

明るく、よく働く比菜に対して、これからも店に置いておくことを提案する。


「まだ1週間くらいしか見ていないけど、気立てもよさそうだし、
明るいし、いいと思うのよね」

「まぁな、お前が注文を聞くよりは、みなさん嬉しそうだけど、
でもなぁ、そういうわけにも……」

「靖史のこと、どんなふうに思っているかしら」


和子の思いは、店のバイトとは別のところにあった。

大学を出て行く男性が多い今の世の中で、勉強もあまり得意でなかった息子の靖史は、

高校を卒業するとこの店で働き出した。

お客さんの紹介で何人かと付き合った経験はあるものの、

結婚話まで進んだことは一度もない。

仕事をさせながら『フリーワーク』へ置いているのも、

何か出会いがあるだろうかの期待感からだったが、

会社が出来てから8年の間、そういったところからの出会いは、なかなか縁がなかった。


「靖史? あいつをどう思うってどういうことだ」

「だってさぁ、考えてみたらさ、邦と大和君が一緒じゃ、どうしたって靖史が不利だよ。
二人とも成北大学を卒業して、大手にだって就職できるはずなのに、
何を考えているんだか、自由に仕事をしている身でしょ。
こんな店で油にまみれている靖史はさぁ……」


清太郎は和子の言葉に反応し、換気扇を止めると、そばに置いた灰皿に、

思い切りタバコをこする。


「悪いなぁ、こんな店に押し付けて、しかも油まみれで」


一生懸命に働いている自分に対して、和子がそんな想いを持っていたのかと、

つい口調が荒くなる。和子は興奮した清太郎に対し首を何度も振り、

そうじゃないのだとつけ加えた。


「お父さんや私の時代とは違うんだよ」

「違わないわ! お前の本性が見えてきたぞ。なんだ和子。
比菜ちゃんをどうのこうの言いながら、お前が店に出たくないだけじゃないのか。
おぉ! いいぞ、好きにしろ。化粧でもベタベタして、街にでも遊びに行け!」

「お父さん!」


その言い合いは、出前の皿を下げて戻った靖史の耳にも届いた。

店のこと、跡取りのこと、毎度交わされる話題に大きく息を吸い込むと、

ドアノブをひねり二人の前に出る。


「長瀬さんは無理だよ」

「靖史……あんた、聞いてたの?」

「聞いてたんじゃなくて、聞こえたの。お袋、一度声の大きさを測ってもらえよ。
戦闘機が通り過ぎるより大きいと思うぞ」


流しに1枚ずつ皿を入れ、靖史は集金してきたお金を取り出し、レジの中に入れる。

聞かれていたことで一度言葉を止めた和子だったが、

今度は無理だと言い切った靖史の言い分を聞きたくなる。


「無理ってなによ、あんたさぁ、そうやって何もかもやる前から諦めて……」

「長瀬さんは康哉の彼女なんだよ、康哉を頼って東京へ出てきたんだ」


比菜が自分から語ることがない限り、プライベートなことを言うつもりはなかった。

しかし、このまま勘違いされたら、迷惑をこうむるのは比菜だと思い、

靖史はあえて口にする。


「あいつを東京で待つために、頑張ってここにいるんだ」


靖史はそう言いながらスポンジを手に取ったが、

皿の少しかけた部分が気になり親指で触れる。

この皿は次に客の前に出されることはなく、処分されることになるのだろう。

靖史はしばらくその皿を見ていたが、結局、スポンジを元に戻し、

洗うことなく部屋の奥へと消えた。






17 身勝手な言葉


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コメント

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あっちもこっちも、どうにもブルドック

こんにちは!!

比菜の事を話した後の靖史に切なさを感じたのは
私の勘違いかな、比菜にlove?は

靖史のお母さんの気持ちも判るかな
比菜も靖史にしちゃえばいいのにって
ちょっと無茶・・・な意見?

ひがんでるのはお父さんの方じゃない?
それとも、自分を否定された感じなのかなぁ

こっちも・・・ブルドックだね

     では、また・・・e-463

人生って・・・

比菜ちゃんは良い子だから、そんな風に思ってもらえるのは嬉しいと思う。

靖史も憎からず思っているのだろうな。
比菜を庇ってというより、自分に言い聞かせてる感じだもの・・・

大和も、邦弘も、靖史も悩みの中で生きている。
康哉は一体何してる!?v-217

みんなブルドック

mamanさん、こんばんは!

>比菜の事を話した後の靖史に切なさを感じたのは
 私の勘違いかな、比菜にlove?は

靖史は比菜のことを、いい子だと思っているんですが、
切なく見えているのは、LOVEというより……
ちょっと違った気持ちがあるんですよ。

>ひがんでるのはお父さんの方じゃない?
 それとも、自分を否定された感じなのかなぁ

仕事に誇りを持っているので、どこが悪いんだ! の気持ちでしょうね。
ただ、母親としては、周りとどうしても比べてしまう。

そうそう、みんなブルドックなの(笑)

母親の想い

yokanさん、こんばんは!

>親心だよね~、息子を持つ母親って、
 息子が年頃になれば誰しも考えることだよ、

ですよね。和子は息子の世界が狭いことを心配し、
『フリーワーク』へ入れているけれど、
父親はそんな気持ちが、よくわからないでいる。

仕事に誇りも持っているから、どこかバカにされた気分なんだと。


>靖史君、いい子だよね^^

そう、いい子なのです。だからこその悩みがありましてねぇ……
悩めるメンバー達の話は、まだまだこれからです。

靖史の気持ち

yonyonさん、こんばんは!

>比菜ちゃんは良い子だから、
 そんな風に思ってもらえるのは嬉しいと思う。

だよね。いい子だと思われたからこそ、別の感情が出るんですから。

靖史の感情の複雑さは、後々分かるんですけど、
悩み多き人がたくさんなので、すぐに解決! は出来なさそうです。

康哉? さて、どこにいるのでしょう(笑)

ますますブルドック

すっかり曜日の感覚がなくなってしまい、
朝からあちらで泣かされたので、こちらへ来てみました♪

ブルドックは二人かと思いましたら、
もう一人ブルドックがいました@@

↑レスを読むと、まだまだブルドックが続きそうですね。

みんないい子だから、きっとももんたさんが幸せにしてくれますよ(笑)
まだまだ時間は掛かりそうですが。。

康哉もどこかの地でブルドックなんでしょうか?!

みんな悩んでるのね・・・

和子は同級生の邦宏の事を昔から知ってるだけに

余計、靖史の今の立場やポジションが何となく不憫なように思えるのかも・・・

オマケに大和は女性にもてるしね^^

でも、とっても優しい靖史君、
一歩退いているように見えるけど
フリーワークの皆や家族の事をしっかり観て
皆のために一番色々な気遣いができるのは
彼なんじゃないかな。
(まあ、それだけに気苦労も多いかもしれないけど・・・)

悩み多き男達・・・

行方のわからない康哉も悩みの中で生きているのかしら・・・?







人生いろいろ…♪

比菜の存在が思わぬ方向に…
子を思う親心なんだけどねぇ。。。
靖史の中にもなにか芽生えた?!
一緒に居る時間が3人の中で一番長い靖史は
比菜の良いところがちゃんとわかったんだろうね

それにしても世の中思うようにならない事が多いから
大和ににしても比菜にしても行方知れずの康哉にしても
誰もがいろいろな事情を抱えているんだよねぇ
さぁ、これからどうななる?
それぞれが少しでも幸せに向かって前進して欲しいわぁ
楽しみにしております

今年も残すところ明日1日のみ
今年も素敵なお話をいっぱいありがとう!
来年も楽しませていただけると信じて…
よいお年をお迎えください

幸せ目指そう!

れいもんさん、こんばんは!

>ブルドックは二人かと思いましたら、
 もう一人ブルドックがいました@@

あはは……。本当にブルドックがお気に入りなんですね(笑)。
そうそう、ここにもいたんですよ、もう一人。
靖史にも悩みがありましてね、それはこれから出てきます。

>みんないい子だから、
 きっとももんたさんが幸せにしてくれますよ(笑)
 まだまだ時間は掛かりそうですが。。

ねぇ、幸せにしてあげないとね。
みんな、本当はいいヤツなんですから……たぶん(笑)

我が子が一番!

パウワウさん、こんばんは!

>和子は同級生の邦宏の事を昔から知ってるだけに
 余計、靖史の今の立場やポジションが
 何となく不憫なように思えるのかも・・・

親にしてみたら、なんて言ったって、自分の子供が一番! ですからね。
邦宏がいい人なのも知っているし、大和のことも……。
だからこそ、色々考えてしまう。

そう、でも靖史には、二人にないものがちゃんとあります。
しかし……

そこらへんは、まだまだこれからじっくりと進めます。

康哉……さて、何をしているんでしょうね。

比菜のパワー

Arisa♪さん、こんばんは!

>比菜の存在が思わぬ方向に…
 子を思う親心なんだけどねぇ。。。

比菜の存在は、靖史だけではなく、
他のメンバーにも色々と影響を与えていきます。
そして、比菜の気持ちも、メンバー達によって、
また、変わってくるんですよ。

こちらこそ、今年もありがとう!
また、来年もお会いできたらいいなぁ。
来年もよろしくです!