17 羨望 【17-6】


【17-6】


接待の食事会から戻った、恭一の上着をハンガーにかけながら、

真由子は部屋の壁にかかる時計を見た。時間は夜の11時に近づいている。

真由子はさらにポケットから携帯を取り出し、着信を確認した。

しかし、期待の相手からは何も反応がない。

昴からは、今朝、風に話をしようと声をかけたが、拒絶されたと聞いている。

飛び出してしまった後の行動が、真由子には全く把握できていない。


「真由子」

「はい」

「何をさっきから気にしている」


恭一の問いかけに、真由子は『いえ、何も……』と返事をした。

ハンガーにかけた上着の形を整える。


「そうだ、来週末のゴルフは中止になったからな。
『熊倉食品』の社長の都合が悪くなったようで……」


恭一は首から外したネクタイを、隣に立つ真由子に渡そうとする。

しかし、真由子の視線は、また時計に向けられていた。


「また風か……」

「エ……あ、えっと……」


真由子は恭一の手からネクタイを受け取り、それをいつもの場所に納めていく。


「何が何もないだ。さっきから携帯と時計ばかり見ているだろう。
風から連絡がないとか、どこに行っているのかわからないとか、そんなことか?」


真由子は頷いた後、『どうしたらいいかと……』と小さな声を出す。


「どうしたらいいかとは、どういうことだ。中身が何もないままでは、
答えようがないだろう」

「そうですね、あの……」


真由子は神部のことがあったので、昴に風と話をして欲しいと頼んだこと、

今朝、そのことを話そうとした昴と風が言い合いになったこと、

風が家を飛び出してしまい、この時間になるまで何も連絡がないことなど、

やはり話すべきだろうと思い、『実は……』と切り出そうとする。

すると真由子の携帯が鳴り、相手が風であることがわかる。


「あ……風です」


真由子はすぐに電話に出たが、相手が違うことがわかり、今度は驚くような声を出す。


「どうした……」


真由子は携帯の通話を保留にして、

『風の携帯から電話ですが、電話口にいるのは、天羽直輝さんだと……』と

恭一に説明する。


「天羽?」

「はい、すみません、ご迷惑をおかけしてしまって。はい、お願いします。
わざわざありがとうございました」


真由子は通話を終了し、『天羽さんの息子さんと一緒だそうです』と恭一を見る。


「風がか」

「はい。なんだか、天羽さんやお友達と食事をしてお酒を飲んでいたら
少し飲み過ぎてしまって、風が気分が悪いと言ったらしくて。
それで、少し風に当たってから戻るので、遅くなりますと……」

「うん」


恭一は、天羽直輝が笙から聞いていた議員の息子であることを思い出す。


「運転は、お酒を飲んでいないお友達がしてくれるので、
心配しないでくださいって言われました」

「そうか……」


恭一は、笙からは直輝が少しやんちゃだと聞いていたけれど、

こうして遅くなることを、きちんと親に電話をかけてくるあたりは、

考えているよりもしっかりしているのではないかと思い始める。

しかも、風が直輝に自ら会いに言っているということは、

『互いに前向きだ』という証拠でもあった。


「お前がオロオロしていたのは、これか」


恭一は『風から連絡がなかったからか』と真由子に問いかける。

真由子はとりあえず直輝と一緒だとわかったため、これ以上色々と話し、

恭一の機嫌が悪くなるようなことは避けようと考える。


「はい……」

「そうか。居場所がわかったのだから、安心しただろう」

「えぇ……」


真由子は『全くあの子は……』と言いながら、

結局、神部のことは語らないまま、恭一のそばを離れていく。

恭一は着替えを済ませると、そばに置いた携帯を取る。

直輝がどういう人物なのかもう少し調べておこうと思い、笙に連絡を取ろうと考えた。





直輝が電話をしてから1時間近くが経過し、しばらく部屋の隅にいた風は、

気分の悪さも取れ始め、現実をしっかり見られるようになった。

あらためて『ごめんなさい』と前にいる直輝と慶に謝り、頭を下げる。

直輝は振り向き、慶は『大丈夫?』と風を見た。


「本当にご迷惑をかけました。もう、大丈夫です。
この場所の住所だけ教えてもらえますか、タクシー呼んで帰りますから」


風はそういうと、携帯を取り出そうとする。


「いいよ、これから慶と俺で送るから」

「いえ、そんな」


風は、ここにいること自体迷惑をかけていると思ったため、

『大丈夫です』を繰り返す。


「いや、もうそういう話にしてあるからさ。
風さんのお母さんが、何度も携帯に連絡を入れていたので、
安心してもらうように、こっちから折り返したから」


直輝は、その時、『今日は自分と一緒にいた』と話していることも告げる。


「慶を含めて、互いに数人の友達と食事をしたことにしてある。
だから、そこは風さんも合わせておいて。そうだな、この間の会で会った時に、
今日のことを決めたことにすればい」

「あ……すみません」


風は、携帯電話の着信履歴を見て、母から確かにかかってきたことがわかり、

直輝に頭を下げる。

このまま家に戻れば、真由子からあれこれ聞かれ、

自分が困ることは目に見えていたため、直輝の言うシチュエーションを頭に入れた。


【17-7】



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